アンケート活用


 思った以上に世間は異世界に飢えていた。ニューチューバーたちの宣伝もあってか、50万だというのに連日売り切れ。

 最初半信半疑だった客も町やランシェッタを見たら大興奮し、とても満足気……いや、不満そうに帰って行った。

 アンケートの結果、不満の理由は全て時間が短すぎるということだった。もっと長時間体験したいのだろう。


 慣れてきたら一泊プランとか考えるか? 今来ている人たちからは非難されるだろうが、そこは優先権を出すことで勘弁してもらいたい。

 ただあっちの飯は厳しいんだよなぁ。そこらへん説明してから軽く食事体験みたいなのをさせてみるか。

 いやその前にどこかの食品衛生の研究所などで調べてもらったほうがいいだろう。モモンガがある程度飲食しているから大丈夫ということはない。もし食中毒とかになったらいろんな意味で面倒なことになる。まさかこの世界に保健所の人間を呼ぶわけにもいかないし。


 そもそも政府や科学者などが異世界の存在なんてものを認めるわけがない。きっと全ての原因はプラズマだとか言われるのがオチだ。




「行ってない人からの苦情多いっすね。まあ予想してたけど」

「主に体格制限だな。こればかりはどうにもならんからなぁ」


 身長は180センチ、肩幅は50センチ未満、3サイズはそれぞれ110センチ未満。これくらいじゃないとあの穴は通れないから仕方ない。

 ハッシャクは細いとはいえ身長的に通るのは難しい。今では毎日柔軟体操を欠かしていない。そうまでしないと通るのは厳しいんだ。

 あとは値段が高いというのも多い。俺も高いとは思うんだけど、今のところこの金額じゃないと先が見通せない。


「半日で50万ってかなり物好きだよな」

「なに言ってんすか。宇宙体験ツアーなんて5分くらいで数千万っすよ」

「マジかよ」

「他に地域の危険度だとアジアやアフリカ、南米旅行のほうが危険っすし、それを考えたら異世界を半日50万なんて安いほうっすよ。魔法も使えるし!」


 ランシェッタは魔法じゃないらしいが、魔法だという体で宣伝している。ぶっちゃけ違いなんてわからないしな。

 そのことについてモモンガに渋々納得させた。彼女からするとあの世界のことをもっとよく知って欲しいらしく、正しい知識を広めたいのだろう。


 あと安全性の問題だが、それなりの傷でも放っておけば治ってしまうからな。それに護衛もついてくれるし、いざとなったらランシェッタで自衛もできる。アカ○ルコよりよっぽど気が楽だ。

 だけどもし手に負えないような化け物が出てきたら……そのための護衛なんだろうきっと。この件に関してはモモンガと相談してみるか。


「体格制限はなんとかしたいな」

「早いところ穴の拡張を考えないといけないっすね」

「とにかくある程度儲けを出して、そのうち建機をレンタルしよう」


 今はとにかくセキュリティ関連をしっかりさせるのが最重要だ。この土地は俺のものだが、勝手に入り込まれる可能性がある。それは違法行為であり罰せられるのだが、罪とは発覚しなければ罪とならず、罰することはできない。

 そしていつも警察が張り付いていてくれるわけでもない。ならば自衛するしかない。

 防犯カメラだけじゃ意味がない。できればフェンスで囲いたいが、この山だってそれほど小さいわけじゃないからいくらかかるかわからない。



 そんなことを考えていたら穴からモモンガがもそもそ出てきた。


「どうした?」

「ちょっと向こうでトラブっちゃって」

「あん?」



 モモンガの話を聞くところ、向こうでも同じような問題が起こっていた。

 こっちの世界へ来て珍しいものを手に入れ一攫千金、みたいな感じらしい。向こうでは特に食料が人気あるからな。

 向こうを守るのはモモンガだけ。女の子ひとりじゃ不安だ。


「日本の警備会社って異世界にも行ってくれると思うか?」

「多分無理っすよ」


 だよなぁ。常識が異なっているような場所でなんて仕事したくない。


「あー、うん。あっちは一応ね、コディンサがいるから」

「誰だ?」


「ランシェッタを持っている守衛? みたいな人たちだよ。町の人たちの好意で周囲の警戒してもらってんだ」


 随分と愛されてるなモモンガ。

 食い物が欲しいだけなら、みんなでこちらの世界へ来ればいい。それこそモモンガのことなんてお構いなしに。

 なのにモモンガごと守ろうというのだから、彼女に対してもそれなりの考えを持っているはずだ。


「だけど相手もランシェッタ持っていたらどうなんだ?」

「コディンサはコヴァルキンスカ持ってるから大丈夫だよ」

「コ……なんだそりゃ」


 キンスカは細長い結晶であることを知っているが、コヴァルとかいうものは初耳だ。

 だけど聞いていないのも理由を知れば納得。

 コヴァルというのは雷の精霊みたいな存在で、一般人は手に入れることができないらしい。

 守衛、つまり警察だけが持つことができる。日本で例えるなら拳銃のような扱いなのだろう。殺傷能力が高いため一般人に持たせるのは危険というわけだ。

 だから一般人の会話にも出てこないということだ。


「そんなに凄いのか?」

「一回見たことあるけど普通の雷だったよ」


 ああ、そりゃやばいわ。回避不可能だし触れただけで全身焼ける。そんなもの一般人に持たせてたら危険極まりない。

 だけどそれほどのものだったら化け物が出てもなんとかなるだろう。それこそドラゴン的なものさえ出なければだが。


「で、ティクとラゥラーレってどんくらい威力違うっすか?」

「どれくらいって言われても……。シャッテティクならファサン倒せるくらいだけど、ラゥラーレなら大木でも燃やせるよ」


 てことはキンスカならもっと威力が高いわけか。

 営業開始してみたものの、まだまだ知らないことは多いな。とにかく世界初の試みでまだまだ手探り状態だ。今後もアンケートは続け、いい意見は取り入れていきたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る