異世界ツアー会社設立の前に
「──とりあえずこんなことがあった」
「モモンガさんは順調みたいっすね。じゃあこっちも色々と煮詰めるっすよ」
あちらへ食料を持ち込んだ翌日、ハッシャクたちが集まってきた。いよいよ細かいところの打ち合わせが始まる。
「まずはどうしようか」
「
「それはあたし担当ー」
オシコが手を挙げる。本職だもんな。俺は一切口出ししないから好きにしてくれ。イケメン以外なら。
「あとは値段っすよね。後から安くするとしても、最初のうちは高く取って設備を充実させないと……」
「だけど初回は無料で抽選招待にしたほうがいいかもな。話題作りにもなるし」
「そうっすね! だったら抽選枠とは別に、有名ニューチューバーとか呼んで宣伝してもらうのもいいっすね!」
有名人に宣伝目的で来てもらうのは昔からの常とう手段だ。NEW TUBEで金を稼いでいるニューチューバーなどは芸能人と違い、無料でやってくれる人もいるから有り難い。
まあ交通費と食費くらいは出すだろうけど、異世界に行けるといううたい文句だけで充分来てもらえると思う。
「それに事務員とかも雇いたいところだ」
「そっすねえ」
「管理と表計算くらいならあたしやるっすよ」
仕事が安定するまではやってもらおうか。じゃあこれもオシコ担当で。
「ならば俺は色々調達してこよう。車両や機材も必要だろ?」
「ああ頼む。あまり予算はないけど」
「低予算でやりくりするのはむしろ俺の得意分野だ」
機材調達係はカンダラと。みんなきちんと役割ができている。
あとはなにが必要かを話し合い、購入する算段をつければ大丈夫だ。
「よし、かなり整ってきたぞ。あとは──」
「思い切って法人化するのはどうっすか?」
「ああ、それはもう既に考えてある」
「流石っすね! 社名は?」
「それなんだが、その……勝手に決めて悪いとは思うんだが」
「いやいや、自分の会社じゃないっすか。好きに決めてくっさいよ」
「……株式会社キャロル……なんだ」
「んー……? ああっ、アリスのおっさんだからか! いいじゃないっすか!」
これから旅立つアリスたちの物語を作る存在になりたい、なんて臭いことを考えて付けたんだが、言わないでおこう。おっさんキモいとか言われたらヘビーだからな。
「あとは木の伐採を……」
「それはできればやりたくないんだけどな」
「事情はわーってますって。とりあえず穴へ行くのに邪魔そうなやつと、この周りの木を」
「まあそれくらいなら。でもどうするんだ?」
「オカ板で知りあった人で、建材屋がいるんす。ここの木は結構立派すからね、喜んで引き取ってくれるっすよ」
「売るのか?」
「いえ、それと交換で中古のログハウスを手に入れるってのはどうかと思って」
「穴のところに建てるやつか。そうだな」
出来上がったら冷蔵庫を置くつもりだし、それなりのものが欲しいと思っていた。
「周囲の木をこって建てるなら、むしろ家として電力会社から電気を引いたほうがいいかもしれない」
「ああ、そっすね! そんで50Aくらいで契約すれば向こうで不自由することないし、電線の不安もなくなるっすね」
「そりゃいいな。じゃあ早速──」
「オカ板の知り合いに電気工事士がいるっすから頼んでみるっす。電力会社に友人がいるみたいだし、色々聞いておくっす」
オカルト板万能だな。どんだけ人材が揃ってるんだ? そっちのほうがよほど謎じゃないか。
それにしてもほんとよく動くな、ハッシャクは。というか頼りっぱなしじゃないか。
「────よし、こんなところっすかね」
「ああ。あと細かいところはこっちでやっとくよ」
大まかなプランが完成した。あとは諸々が揃い、モモンガがあちらの世界でこちらのやろうとしていることを説明し、手を貸してもらえるようにしてもらえれば完璧だ。
取り急ぎ欲しいものをカンダラとオシコが買いに行き、ハッシャクが残った。
「んで、アリスのおっさん」
「なんだ?」
「えーっと……ちょっと頼みがあるんっすけど……」
やはり来たか。
これだけ色々やってくれたんだ。頼みごとをされたら断りづらい。俺の性格も考慮して、今のタイミングまで待っていたのだろう。
だけど正直なところ、ここまで頑張った彼には報いたいと思っている。無茶な要求じゃなければ受け入れよう。
「言ってみなよ」
「あー……。あの、俺を社員にしてくっさい!」
90度に近いくらいまで、勢いよく頭を下げてくる。
そんなことか。全く、なんか違うんだよなぁ……。
「……だめっすか?」
「いや……。色々と終わったら俺からみんなに頼むつもりだったんだよ」
俺ひとりじゃなにもできなかったし、これからも無理だ。彼らのように色々考え、行動できるようなタイプじゃないからな。どっちかというと場所を提供しているだけの俺が社長で申し訳ないくらいだ。
「おっさんから頼むって変じゃないっすか?」
「見通しが立たないからな。給料だってロクに払えないかもしれないし」
「衣食住だけありゃ全然問題ないっすよ! 帳簿さえ誤魔化さなけりゃ!」
俺は苦笑した。それに帳簿はオシコに担当してもらうつもりだから、俺が改ざんするのは難しいだろ。エクシェルとか全くいじれないし。
「じゃあ」
俺は右手を前に出した。
「今後とも宜しくお願いするっす!」
俺とハッシャクはがっしりと握手をした。
「……うほっ」
「げぇ、モモンガさん!?」
振り返るとドアの隙間からこっそりとモモンガが覗いていた。
「2人きりの部屋のなか、手をつなぎ友情を確かめ合う男同士……」
「そ、そういうんじゃないから!」
やばい、なにか勘違いされていそうな気がする。俺にはそっちのケはないから。
「モモンガさんってそっちの属性もあったんすか」
「いやいや、私は腐ってないから。ただ言ってみただけ。それでなにしてたの?」
ただの冗談だ。たまにこういうことでしつこく言ってくるやつがいるが、彼女はそういうことに興味がないようでよかった。
「ああ、モモンガさんにも関係あることだしな」
「なになにー? 私も握手する感じ?」
「別にしなくてもいいけど……。実はうちの社員になって欲しいって話なんだ」
「えっ!?」
モモンガは驚いた顔をした。なにか駄目なことでもあるのだろうか。
「えって……まずいのか?」
「いやだって、私、もう入ってるものだと思ってたんだけど……」
「まあそうっすよね」
ああ、今更って話か。なし崩し的ではあるがそう考えても不思議ではない。
「だけどな、一応会社組織としては履歴書というか、ある程度の個人情報を出さないといけないわけだ」
「あー……確かに」
法的に会社経営となったら社員も法に則らなくてはならない。給料とかの面もあるからな。そこらへんをなあなあでできるほど世の中は甘くない。特に税金などで悶着がありそうだ。
「俺はこっちに住所移すんで、それからでいいっすかね」
「別にそれは構わないよ。モモンガさんは?」
「私、住所異世界だよ?」
「……おうぅ」
……マジでどうすりゃいいんだよこれ。
「あとは保険とかだが……異世界での事故とかでも適応されるのかね」
「戻ってくれば使えるはずっすよ。それに大体の怪我なら向こうでほっとけば治ると思うっす」
「まあそうだな。じゃあモモンガさん、形だけでもこの家に住所移してほしい」
「あー……いやぁー、それはー……」
「なにか問題あるの?」
「えーっと、実は私、17なんだよね……」
「「…………はぁっ!?」」
俺とハッシャクは同時に変な声を出してしまった。
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