謎の生物の巣
家に帰り早速ネットで検索する。
世の中には俺の知らない動物なんていくらでもいるからな。こういうときネットの素晴らしさを感じる。
うん?
うん……わからん。
検索してみたものの、全くわからない。こういうときは質問するに限る。
俺がぼちぼちお世話になっている質問チャットだ。チャット入り口に質問事項を書いておくと知っている人が入ってくるシステムで、いろんな人が見ているから大抵のことに回答が出る。
『山の中でツノの生えたウサギらしきものを見つけたのですが、ご存じの方はおられますか?』っと。
これで少し待てば解決するはずだ。
待つこと数分。早速ひとつめの書き込みがあった。
>ggrks
「なんて読めばいいのでしょうか。カタカナでお願いします」
>自分で検索しろよ。質問する前にやるのは礼儀だろ
「検索したのですがわからなかったので・・・すみません」
暫し沈黙。
すると今度は違う人からの書き込みがあった。
>少々胡散臭い気もするけど、いわゆる骨腫みたいなものだと思われる。骨あるいは皮膚の腫瘍で、ツノみたいに出っ張るというのはぼちぼちある。関連サイト:http……
おお丁寧な回答だ。こういうのを待っていたんだ。
というわけで早速サイトを確認する。
ん、んー……。なにか違う気がする。ここにある写真だと合成みたいには見えないんだが、もっと自然に生えているみたいな感じだったと思うんだけど。
とりあえず違うらしいということを書いておこう。
>写真とかは無い? 文字だけでは判断できないぞ
>アルミラージじゃね?
>そんなものはいない
>いないってなんだよ。証拠出せよ。
なんか俺を置いて話し合いみたいなのが始まっている。
アルミラージはさっき検索して出てきた。あれは幻想生物とかそういった類のものだ。ペガサスとかそういうのと一緒で、実在するわけがない。
でもそれならあれはなんだと言われるとなんとも言えない。みんなの言う通り写真は必要だ。それで判断してもらうのが一番じゃないだろうか。
というわけで再び山へ向かう。撮影は動画モードだ。不慣れだからシャッターチャンスを逃す可能性が高いから、これがベストだと思う。
そしてウサギといえばニンジンだ。匂いが出るよう棒で叩いてある。これできっと釣られるだろう。さっき俺の前に出てきたってことは、人間の匂いに対してそれほど警戒していないだろうし。
────確かこの辺だったよな。特に印を付けているわけじゃないからここだと確信できないが、そんなに奥へ入ってないから大丈夫だろう。
ここへ潰したニンジンを更に砕き、辺りへ振り撒く。これで準備万端だ。後は待つだけ。
ひっかかってくれよ。このままだと俺が嘘つき呼ばわりされちまうからな。
「動画ですみませんが、撮ってきました。この動画の37分辺りからです」
動画は共有サイトへ載せ、そのアドレスを記載しておく。動画の編集の仕方がわからないから垂れ流しだ。これで飯の用意でもして暫く待とう。
飯の準備を終えてから開いてみると、書き込みが増えていた。
>動画なげーよ! 編集くらいしろ
>動画見たけど、合成じゃないよね? 改造手術でもした?
>でかっ! ウサギでかっ!
>世界一でかいウサギは1.3mもあるらしいぞ。しかしこれは……
>ウサギwwwwにwwww襲われるwwwwおっさんwwwww
突然攻撃してきたんだ。笑うな。ツノで刺してきて凄い痛かったんだぞ。
しかしなんだか俺を置いて盛り上がっている。それにしてもあまり望む回答がないな……。
>なあ、俺、とんでもないことに気付いた。このおっさんを襲っているとき、ツノから突っ込んでるよな。動物ってのは基本的に自らの武器を理解して攻撃してくるんだ。そしてウサギには本来歯しか武器がない。つまり……
>つまりどういうことだってばよ!
>このウサギはツノを武器だと認識して攻撃している。ようするにこいつは元々ツノを攻撃手段として生きている生物ということになる
>えっそれって……
>この動画がCGでない限り、こいつはアルミラージということになる
……は?
え? あ? アルミラージ?
だからそれは伝説の生き物で、実在しているわけじゃない。そんなもの信じていいのは小学生までだ。
>ねーわ。アルミラージとかねーわ
>お前バカだろ
>うるさいよ。俺だって自分で言っててそれはないってことくらいわかってる。でもよ、もし質問主が地球にいなかったとしたら……?
>その可能性は否定できん
>はっまさか!?
こいつら無駄なところでノリがいいな。だけど俺はちゃんと地球にいる。
とりあえず適当な相手にベストアンサー付けてこれ以上話が明後日へ行く前にかたをつけよう。
質問をクローズさせようとしたとき、滑り込みでまた書き込みが増えた。
>詳しい話をしたいんだったらにやんねる行ったほうがよくね?
にやんねるはパソコンに疎い俺でも知ってる。通称某掲示板と呼ばれる、犯罪者と嘘つきとネット弁慶の巣窟で、日本のアンダーグラウンドと称される場所だ。よくテレビで逮捕されている奴らを見る。
そんな危険なところに足を踏み入れる気はない。書き込んだ瞬間ハッカーに目を付けられ銀行口座から全額引き出されるんだ。そうはいくか。
だけど誰かから情報は欲しい。ならば動画共有サイトを有効に使おう。
俺が愛用している「NEW TUBE」は投稿した動画に対して見ている人が書き込みをできるようになっている。これで知っている人に詳しく聞こう。
よしプランは決まったぞ。じゃあ明日もう一度撮りに行くか。
そして物ごととはうまくいかないもので、求めているときほど現れぬ。嫌な摂理だ。
昨日いたからといって今日もいるとは限らない。それに警戒させたせいでもうこの場には表れないかもしれない。
残念だな。もし本当にアルミラージだったとしたら凄いことになるのに。動画でバッチリ撮影してあるんだから、ツチノコよりも信憑性あるからな。
……やべっ、急に出た!
あああスマートフォンを構えていなかったせいで撮れなかった。もう既に隠れてしまった。もったいないことをしたな……。
だけど逃げた先がわかったぞ。巣だろうか、こんなところに穴があるとはな。
あいつのあのでかさで出入りできるんだ。俺にもきっと入れるだろう。
巣穴がわかるよう、木の高いところへ布を巻いておく。これなら次は迷わずにこれるはず。さて、入ってみるか。
ぐっ……きつい。
中は思った以上に入り組んでいた。かろうじて通れるが、体がおかしくなりそうだ。そろそろ本格的にダイエットを始めないといけないか。
さっきから腹を擦りまくりだ。ヒリヒリと痛む。
しかしこの土はおかしい。まるでコンクリートのように固まっている。
ここらが限界かもな。これ以上進んだら戻れないかもしれない。自分の山で生き埋めなんてシャレにならない。
……ん?
引き返そうと思い、懐中電灯を足元へ向けたところ、暗いはずである頭の方の先が明るくなっていることに気付く。この先に別の出口があるということだ。
このまま戻るよりも進んだほうが楽だ。先へ行こう。
「はぁ、やっと出られた……」
大体30メートルくらい進んだだろうか。腹這いになって進むには厳しいが、歩けばすぐの距離だ。
しかしなにかおかしい。入った穴から家は充分見ることができたのに、ここからは全然見えない。そして見渡す限り布を巻きつけた木が見当たらない。
とにかく降りてみよう。
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