夏の夜に捧ぐ恋文

きのこづ

夏の夜に捧ぐ恋文

 つややかに流れるような黒髪。夏の夜空のようにしっとりと濡れた深い深い闇色の中に、陽の光を弾いてきらりと光るような、そんな人を魅了してやまない美しさ。大きな瞳を好奇心でいっぱいに満たして、くるり、くるりと移り変わり続ける朗らかな表情。紅い頬、長い睫毛、あはは、と快活に笑う口元にきらり光る真っ白で整った歯。もう君のすべてが今も僕を捕らえて離さない。

 気がつけば君を目で追っていることに気がついたのはいつだったか。そう、確か、高校二年の春。進級して、一年間顔を突き合わせた級友たちと別れ、またそのうちの何人かとはまた同じクラスになって、それぞれに親友とクラスが別れたとか、密かに心寄せていた娘と同じクラスになったとか、そんな悲喜こもごも交じり合って、それでもみんなこれから始まる新たな一年になんとなく無根拠な期待に満ちていた、そんな時に僕もまた君に出会ったわけだけど・・・・まだその時は、僕は君をそういうふうには見ていなかったように覚えている。いや、もしかしたらそういうふうに見ていたのかもしれないけれど、少なくともまだ僕自身自覚はなかったのだ。

 実際、僕は「そういうこと」に関しては他の友だちとくらえても幼いというか、まだ興味すら持っていなかった。カレシだのカノジョだのと、まだ幼い価値観できゃあきゃあとはしゃぐ級友たちを視界の隅に、「まだ所詮僕達なんてガキでしかないのに、人をアクセサリーのようにカノジョだカレシだなどとバカバカしい」と考えていたものだ。しかしまあ、結局のところそれは年頃の僕達にとって本来当たり前のことで、同性の友達で満足して男臭い日常を過ごしていた僕のほうがバカだったのかもしれない。なんて君への想いに身を焦がすあの幸せを知ってしまえばそういうふうにも思えてくるものだ。

 閑話休題。そう、僕が君に焦がれるようになったきっかけの話だ。

 よく覚えている。あの春の日、新たな出発に浮ついた空気の教室で、五十音順に貼りだされた席順を確かめれば、毎度のことながら僕は窓際後方のベストポジション。この苗字に産んでくれた両親のおかげで僕はいつも一年の始まりをベストポジション出迎えることができた。背負ったバックを机のフックに吊るして、席に着いて。机に広げられたプリントたちをろくに確かめもせずにファイルに仕舞って。さて、早めに着いてしまったし、と腕を組んで目を閉じた。多分十分かそこらだったと思う。騒がしさを増した教室の喧騒に目を開けて、ぐっと伸びをして大きなあくびを一つついたところで、いつからそこにいたのか、隣の席に君がいたんだ。つまり、君にとって、僕の第一印象は「新学期一日目から昼寝してるかと思えばいきなり特大のあくびをかます人」だったということだ。案の定、君の第一声も、「あー、おはよう?隣の席になったんだ。よろしくね」と若干引き気味のものだった。これが、僕が君を知った最初の最初、桜がまだぎりぎり咲くか咲かないかという春の出来事だったね。


 それから時は流れて7月。

 皆新たな級友との生活にも慣れ、クラスがクラスとして一つにまとまり動き出す頃。僕と君もあのなんとも引き締まらない初対面から多少は親交を深め、「普通に仲がいいお隣さん」くらいにはなっていた。実を言うと、もう僕はこのあたりで明確に君に好意といえる気持ちを抱いていた。君はだれにでも気さくで決して僕だけが特別だと思ったわけじゃないけれど、落とした消しゴムを拾ってくれたり、忘れた教科書を見せてくれたり、そんな優しさに・・・・我ながらちょっとチョロすぎる勘違い野郎だとは思うけれど、まあそれでも確かに君は優しくて気さくで、僕の目にはこれ以上ないほど素敵な女性に映っていたんだ。もちろん、今も。

 この時期にもなると、皆きたる夏休みを意識してなんとなく浮ついた雰囲気になってきていた。僕ももちろん夏休みは楽しみだったけれど、どうにも今年は他の友だちと帰省の時期がズレて暇をもてあます夏になりそうだった。せっかくの夏なのに夏が始まる前からなんとなく残念な、満たされない気持ちを感じていた。それとなく隣の席を横目でうかがうと、頬杖をついた君もなんとなくつまらなさそうな顔をしていたね。


 8月。夏休み。事前の予想通り、友人たちは示し合わせていたように一斉に帰省してしまい、僕は家でだらけては思いついたようにあてどなく街をさまよい、また家に帰ってはだらけるという無為に無意味を重ねたような夏を過ごしていた。お気に入りのゲームもやり込み過ぎていまさら起動する気になれなかったし、外で走り回るには暑すぎた。なにより、一人で走り回ってもただのランニングだし、僕は真夏に一人でランニングをするほど健康志向でも健康不足でもなかった。そんなつまらない夏休みも一週間ほどが過ぎた頃、未だに田舎から帰ってこない友人たちにぶつぶつと恨み言をつぶやきながら、いつものように僕は自転車のスタンドを蹴って街にこぎだした。目的地は図書館。あそこならクーラーも効いていて涼しいし、本がたくさんあって暇つぶしには困らない。普段はそんなに本なんか読まないのに、僕はあまりにもすることがなさすぎて夏休みに入ってから毎日のように通っていたんだ。

 さて、何を読もうかなどとカビ臭い書棚を見て回っていると、気がついたら小説のコーナーにたどり着いていた。ここは最初に見たところだから、どうやらぐるりと一周してしまったらしい。あらかた見てもう琴線に触れる本がなかったとなると、今日はもういい感じに暇を潰せる本とは出会えないかもしれない。誰も見てはいないし、この不作な戦果にあからさまに顔をしかめてため息をつき、しかたがないから古本屋にでも行こうときびすを返した瞬間、本棚の向こうに艶やかな黒髪がひるがえるのを見た。

 どきり、と心臓がひときわ大きく脈打つのがしっかりと聞こえたのをしっかりと覚えているよ。

 小走りで追いかけると、予想通り。黒髪の持ち主は君だった。見慣れたセーラー服ではなく、あの日はスキニージーンズに少しサイズが大きめのTシャツの端を腰で結わえて、なにやらバンドの名前らしきプリントの入ったキャップの後ろの穴からポニーテールに結わえた髪を垂らした姿。細い腕はいつもより気持ち日に焼けているあたり、君はなんだかんだ夏を謳歌しているらしいと思った。衝動的に声をかけそうになって、喉に言葉が詰まって。踏み出そうとした脚が何かに引っかかったように上手く動かなくて、つま先から床に激突した。寒いほどクーラーが効いているのに、額にジットリと汗が浮かぶのが触らなくてもわかった。もたもたと僕が挙動不審にしている間に、君は本棚の物色が終わったようで目線を上げて・・・・しっかりと目があった。

 先に動いたのは君だった。ぱあっと目を輝かせて、僕の名を呼ぶ。僕は片手を上げてやあと返すのに精一杯だった。上手く笑えていたかもわからない。なにか話そうとしても話題が出てこない。よくある挨拶すら、舌が絡まってマトモにできない。一瞬、僕達の間に空白の時間が流れた。あれは気まずかったね。

「ねえ、このあと暇?」

またもや先に言葉を発したのは君だった。頭の中が真っ白になってしまって何も言えずにいた僕は、虚を突かれてなんともマヌケな返事を返したように思う。でも嘘は言わなかった。嘘や気の利いた言い回しができるほど余裕がなかったんだ。

「そっか。じゃあちょっとお茶でもしようよ。私もう図書館飽きちゃった」


 図書館から離れ、二人自転車を漕いでちょっと離れたところにあるチェーンの喫茶店で向かい合って席についていた。オーダーを取りに来た店員さんの「青春っていいわねえ」とでも言いたげな生暖かい視線がとても恥ずかしかった。

 君のあの時の話しぶりからして、君も同じように暇を持て余し図書館通いの夏休みを過ごしていたらしかった。あの日まで顔を合わせることがなかったのは、僕はいつも一階の図書コーナーに入り浸っていたのに対し、君は二階の自習室で宿題をせっせとこなしていたからというごく単純な入れ違い。宿題はその前日で全て終わって、それであの日はたまたま一階に降りてきていたというわけだ。僕はまだ表紙すらめくっていなかったのに。

 僕は相変わらず目の前の君の一挙一動にすっかり夢中で頭の中はそれでいっぱいだった。小さく身ぶり手振りを交えながら、どれだけこの一週間が退屈だったか。折角の夏休みなのに私だけこんな退屈に過ごさなかればいけないなんて不公平だ。でも君も暇そうにしていて仲間ができたみたいで嬉しい。なんて表情豊かに普段の六割増でよく語る君があんまりにもかわいいものだから、すっかりそれだけで幸せな気分になってコーヒーの味なんか全くわからなかったよ。


 それからは毎日のように暇人どうし二人で遊びまくったね。古本屋を冷やかし、ゲームセンターの騒音に顔をしかめて、結局進んでいなかった僕の宿題を見てもらった。友人たちももうこっちに帰ってきていて、遊ぼうぜと何度も声をかけてもらっていたけれど全部断った。今までで一番充実した夏を過ごしていた。

 夏休みももう終わりというある日の午後、前にお茶をした喫茶店でまた二人でコーヒーを飲みながら時間を潰していた時のこと。たしか蝉の寿命についてだか何だかのあまりにもくだらない話をしていた君は唐突に、あまりにも唐突に

「あ、そうだ。明日から街の夏祭りだね。君はどうするの?」

なんて言い出すから心臓がきゅうっととびあがってそのまま止まりそうになる気分だった。僕はその瞬間まで「お小遣いもあまりないし、行くのはよそうか」なんて、本当は「君と一緒にいきたい」と思っていたのに最初っから諦めていたのだ。まさかそれを正直に答えられるような度胸はなく、「僕は今のところ行く予定はないなぁ」とだけ返した。なんとなく気恥ずかしくて窓の外の薄く朱が差してきた街並みを眺めるふりをして、ガラスに反射した君の様子をうかがっていた。

 僕の回答が大外れだったのはすぐにわかった。みるみるうちに君は元気をなくしてしゅんとうつむき、蚊の鳴くような声で「そうなんだ」とぽつり漏れでた声には明らかに落胆の色が見て取れた。明らかに僕の回答がマズくて君を失望させてしまったのはわかったのだけれど、何が悪かったのかがわからなくて僕は内心慌てに慌てていたんだ。バレてたかもね。さて、どうすればいい?どうすればいい?目の前にはどよんと落ち込んだ僕の大好きな女の子。いやな汗がじっとりと背中を濡らして気持ちが悪かった。なんとか落ちつこうと、グラスに残っていた少しだけコーヒーの香りがする元は氷だった水を飲み干して・・・・覚えているかな。僕も自分で言ってまさかとびっくりしたんだ。

「一緒にいく相手がいなくてさ。一人で行ってもつまらないし。なんだったら一緒に行こうよ」

混乱しすぎていて僕は今自分が言った言葉すら飲み込めなかった。そんな状態でこれだけ度胸のある言葉をひねり出せたんだから僕にしては上出来だろ?褒めてくれよ。まだ自分の言葉で混乱に拍車をかけてしまって内心しっちゃかめっちゃかの大惨事だったけれど、なんとかすまし顔を装えていると信じつつ、手ががったがったと震えているのに気がついて急いで机の下に隠した。

 しかし、意外にもこの行動は正解だったらしい。すっかりしおれていた君はみるみるうちにしゃんと背筋が伸びて、ぱあっと今までで見た中で一番の笑顔の花を咲かせた。

「それ!そうだよ!その話をしたかったんだ!行こうよ!一緒に!」

やぶれかぶれもたまにはいいものだ。結果オーライ。僕はそのまま叫びながら走り出したい衝動をぐっと腹の底に押し込めて、さっそく明日の集合場所や集合時間をどうしようかなんて相談に移ったんだ。僕も、きっと君も、この夏に最高のフィナーレを予感していたんだ。


 そのあと、家に帰ってから最初っから君が祭りに誘うつもりでいてくれたというのに気がついて、今度は衝動に負けて絶叫してしまったんだけどね。あの時は母さんにガッツリ怒られたよ。近所迷惑だって。


当日、待ち合わせの時間はもう陽も傾く夕暮れ時。僕は気が急(せ)いて気が急(せ)いて仕方がなくて、待ち合わせに決めた時間よりの三十分も早くついてしまった。せっかくの夏祭りなんだから、と普段の雑な服装じゃなく、前の日の夜、わざわざ自転車をかっ飛ばして買ってきた紺の甚平に雪駄を履いていった。大きく開いた短い裾と袖じゃあ好き放題蚊に刺されることは間違いなけれど、あの時は今日くらい君の前ではカッコつけたいと思ってしまったのだから仕方がない。財布にも、行き掛けに寄った銀行で、ATMに表示されたあまりにも心もとない数字にさんざん迷いながらも、君との思い出なら掛け値なし!と全額おろしてきたからたっぷりと軍資金が詰まっていた。準備は万端、あとは君を待つだけ。

 十分ほど待った頃、後ろから声をかけられた。一瞬、君だと気が付かなかった。白地のに朝顔の柄の浴衣で、長くきれいな髪は頭の上でお団子にしてかんざしを刺していて、いつもの快活な笑顔じゃなく、少し恥ずかしそうにはにかんだ君の姿。

 あまりにもかわいらしい君の姿に、僕は心の中でありとあらゆる賛辞の言葉が浮かんだけれども、結局全部がごちゃごちゃの団子になって喉に詰まってしまって、なんとか捻り出せたのは「すごくかわいいね」なんてなんの捻りもない平凡がすぎる言葉だけだった。それでも君は照れたように喜んでくれたから、まあ僕にしては上出来と、及第点をあげても良かったのかもしれない。

 それからは二人ですっかり日が暮れるまで遊んで回ったね。ポイが一回目で破けてしまって、僕が金魚を一匹も掬えなかったのをからからと笑う君の笑顔。射的で真剣に照星を覗き込む君の顔。結局一個も取れなかったとぶーたれる君のすねた顔。綿飴、イカ焼き、焼きそば、フランクフルトにりんご飴。「せっかくのお祭りだし、お腹空かせてきたんだ!」なんて美味しそうによく食べる君の顔。君のすぐ横、すぐ隣でそんな幸せそうな君と一緒にいることができて、本当に、今思い返してもあれほど僕の人生で幸せだった時間はないだろう。

 気がつけば、もう祭りも終わる頃。最後の花火を一番いいところで見ようなんて二人で会場の境内から抜け出して、裏の小山でいつからそこに倒れてるのかわからないおあつらえ向きの倒木を見つけて並んで腰掛けて、持ってきたラムネを二人でちびちび啜りながら打ち上げの時間を今か今かと待っていた。人気もなく、明かりも少し離れた会場からの光がわずか届くだけで、静かに聞こえる祭りの喧騒と秋の虫の声に夏の終わりがもうすぐ目の前まで来ているのを感じて、なんだか感傷的な気分になったのを覚えている。

 気がつけば二人とも手の中の瓶は空になっていて、でもまだ最初の花火が打ち上げられるには少し時間があって。今、ここで言うべきだ。ここでこそきちんと言葉にして気持ちを伝えるべきだ。そう強く思ったんだ。そして

「ねえ、あのさ・・・・」

さっきまで待ちに待っていた最初の一発が夜空に美しい炎の大輪を咲かせて、その音に僕の決意も、喉まで出ていた言葉も一瞬で吹き飛ばされてしまって。君は一瞬怪訝な顔をしていたけれど、すぐに花火の方に向き直ってしまった。赤、青、黄、紫・・・・祭りの終わりを彩る色とりどりの花びらに照らされて、どこか淋しげに見えた君の横顔はとても美しかった。でも、すぐ手を伸ばせば届く距離なのに、瞬きをしたら花火とともに散って、消えてなくなってしまいそうなそんな儚さが僕の胸を締め付けて。どうしても君を離したくなくて、思わず君の手をぎゅっと握りしめた。君は一瞬びっくりしたような顔をしていたけれど、僕の右手を振り払わずに、逆に握り返してくれて。なんとなく、君の横顔がさっきより赤くなっているように思ったけれど、きっとそれ以上に僕は真っ赤になっていたんじゃないかな。


 いつしか花火も終わって、静かな薄闇に僕と君が二人きり。繋いだ手のぬくもりに、確かに君がそこにいる証を感じて、自然とさっき言えなかった言葉が口をついた。

 気持ちを伝えたあと、なんだか今までにないほど胸の中が穏やかに澄んだ気持ちで、じっと君の言葉を待っていた。

 いつもハキハキとした物言いをする君が、珍しくもごもごと口ごもったり、眉根を顰めて言葉を探して、でも僕にはそのひとつひとつの動作に拒絶の意味は感じなかった。まるで、いつも僕が君に何か言いたくて、でも言葉が見つからずに困ってしまっている時のように。それに気がつくと、僕は君からするとこんなふうに見えていたのかとなんだか可笑しくなってしまって、抑えきれずに小さく笑ってしまった。真面目な話だというのに笑ってしまった僕に、むすっと怒ってみせた君は、それでもしっかり繋いだ手は離さなくて、そんな君がたまらなく愛おしかった。


 山を降りる途中、ぽつりぽつりと雨が降りだした。二人で帰り路を急いだけれど、山を降りきる頃には雨は勢いをましてざあざあと音を立てるまでになった。天気予報では雨が降るなんて一言も言っていなかっただけに、傘も何も持ってはいなかった。コンビニに寄って傘を買って帰ろうと提案したけど、君はもう家はすぐそこだから一人で走っても間に合うよ。なんて。雨の中手を降って夜の闇に消えていく君の姿を見送った。

「また学校で!じゃあね!今日はすっごく楽しかったよ!ありがと!」

手に残っていた君のぬくもりは、すぐに冷たい雨にかき消されてしまった。ざあざあと、雨音だけが夏を押し流していくように。



「・・・・それで、それっきり。だもんなぁ。何度悔やんでも悔やみきれないよ。一緒に傘を買って、家まで君を送っていけばよかったんだ。それだけでよかったのに・・・・。流石に家までついていったら迷惑かな。なんて、俺は大馬鹿者だよ。君は結局次の日に学校には来なかった。その次の日も、そのまた次の日も、結局二度と学校には来なかった。ニュースで君の名前が出てきた時は内蔵を死神に鷲掴みにされたような気分だったよ。結局君が見つかったのは学校が始まって暫くしてだったっけ。あの日の浴衣姿のまま、ずっと一人であの雨に打たれていたんだね。泥にまみれて、傷だらけで、苦痛と絶望に目を見開いて。君のあんな顔、できれば見たくなかった。・・・・なあ、君は結局どう返事をしたかったのかな。もう過ぎたことだけど、やっぱりちゃんと聞くべきだったよ。俺だけ自分の気持を言い逃げして。・・・・俺はね、死にたかった。あれからずっとね。実際何度も死のうとした。死ねなかったよ。結局、病院に叩きこまれて無理やり『正常』にされて。その間に友だちたちもみんな離れていった。気狂いに付き合ってられるかって。・・・・なあ、俺はどうすればよかったんだろうな。これからどうすればいいんだろうな。君無しでは生きることもできず、死ぬこともできず、でも、もう君はいないのにまた夏が来る・・・・愚痴ばっかりでごめんな。もう行くよ。死なない程度に死ぬまで生きるしかないみたいだし。じゃあ、来年の夏にまた来るよ」


「さようなら」

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夏の夜に捧ぐ恋文 きのこづ @kinoko3416

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