第4話 階段突き落とし事件

これを話したところで時効も成立しているわけで。

今日は事実を話そうと思います。


あ、刑事さん、カツ丼にミニうどん付けてください。


そうですね。

まず兄自身のことからお話しましょうか。

自分とは7つも歳が離れていて、あまり話した記憶もないですね。

かっこいいわけでもなく、優しいわけでもなく、頭がいいわけでもない

そんな普通の人です。


バイクが好きで、大学生の時はいつもツーリングに出かけていました。

当時、乗っていたバイクは「KATANA」だったと記憶しています。

たまにひとりで峠を走ることもあったようですが。

ちなみに上の姉は「NINJA」に乗っていましたが、刀だ、忍者だ、恐ろしい兄姉です。


あの事件が起きたのは、もう随分と昔になります。

あ、刑事さん、お茶ください・・・どうも。


自分がまだ幼稚園の頃、兄は小学6年でしたが

家中の壁にシールを貼っていたずらしているのを目撃したんです。


想像してください。


シールを貼る兄の姿。

「あ」と言った私に気がつくやいなや、すさまじい顔で向かってきて

逃げる私を階段の一番上から両手で突き落としたんです。

階段は非情に狭く、その先にはタンスが置いてありました。

まぁ、背の低い母が階段を使って上の引き出しまで手が届く仕組みだったんですが。


私は見事に12段の階段落ちに成功して、タンスに激突するという

千葉真一顔負けのスタント根性を見せたわけです。

怪我ひとつなかったのは、千葉真一師匠のおかげでしょうか。


泣き叫ぶ私をその場に残して兄は逃走しました。


私は今でもあの時の殺意に満ちた兄の顔を忘れません。

兄からもらったものは怖くて飲み食いできません。

あのシールのことを未だに根に持っているのではないかと考えます。


でもね、刑事さん。

よく考えると、階段から突き落とされたのは自分だし、

5歳だった当時のことを今でも覚えているということは

もしかしたら・・・今でも殺意があるのは私のほうかもしれませんねぇ。

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