湯殿

片手で扉を閉めたキュリオは、大事そうに小さな赤ん坊を両手で抱え直した。

そして部屋の奥へと歩みをすすめ、湯殿へと足を踏み入れた。


柔らかい布ぬくるまれた赤ん坊を優しくあやしながら上質な衣を脱いでいく。


「体が冷えてしまうな…」


そして、きょとんと瞳を丸くしている愛くるしい彼女を布から抱き上げると

白煙の中へとふたりの姿は溶け込んでいった。


片足を湯の中にいれると、ほどよい温かさがじんわりと体中を駆け巡る。

キュリオの力により治癒や浄化作用をもったこの湯ならば浸かるだけで十分なほど素晴らしい効能があるため、あえて体を洗う必要はない。


「お前は熱くないかい?」


手ですくったわずかな水滴を赤ん坊の体にかけてみる。

すると、きゃっきゃと声をあげて頬を染める彼女。


「あぁ、気持ちがいいね」


まるで赤ん坊の言葉を理解しているようにキュリオが微笑んだ。

広い湯船の中を歩きながら、中庭を見渡せる場所まで歩く。

頬をかすめる外気に頷くとキュリオはゆっくり腰をおろした。


「…これなら湯渡りもしないだろう」


大きな手の平が赤ん坊の状態を確かめるようにゆっくり体をなでる。

吸い付くような心地よい手触りにキュリオは目元をほころばせていった。


「大丈夫、悪いところは何もない」


赤ん坊もキュリオの言葉を理解しているのか、それとも穏やかな彼の笑顔に安心したのかさきほどから機嫌よさげに笑っている。


ふと、彼の瞳が真剣さをおび…悲しそうに眉間に皺をよせた。


「お前の父と母はどこにいるんだろうね…こんなに可愛いお前を置き去りにするなんて…」



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