置き去りにされた赤子

「お帰りなさいませ、キュリオ様」


恭(うやうや)しくお辞儀をする大臣や女官の間をあるくキュリオ。


「あぁ、今戻った。変わりはないか?」


「はい、何事も起きておりませんわ」


キュリオが胸に抱く赤ん坊をみて誰もがそのまま孤児院に預けるものだと思っていたため、女官のひとりが赤ん坊を受け取ろうと腕を差し出すと…片腕をあげてそれを制した彼はそのまま自室へと歩いていった。


「あ、あの…キュリオ様?」


女官たちが困惑した表情を浮かべると、様子をみていた彼の側近である大臣のひとりが慌てたように見えなくなりつつある王の背を追う。


広間を抜け、白く大きな階段を駆け上がると…口元に笑みを浮かべ、赤ん坊に笑いかけるキュリオの姿があった。


(キュリオ様…なんてお顔を…)


民や聖獣を等しく愛する悠久の王の愛はどこまでも深く、全てに向けられているものだ。そして等しく愛しているからこそ個人に優劣をつけることもなく、彼にとって特別な存在などないのだ。


「キュリオ様、その方は姫ですかな?それとも王子ですかな?」


孫を見るような優しい瞳で背後から声をかけてきた初老の大臣にキュリオは振り返った。


「この愛くるしい表情は…きっとプリンセスだよ」


幸せそうにキュリオは言葉を発すると、目の前の扉をあけて中に入ってしまった。


彼の部屋に入ることが許されている者は極わずかで、本来ならば王の部屋の周辺を歩くことでさえ恐れ多いのだ。そして今日出会ったばかりであろうこの赤ん坊を部屋に入れたとなると…今までとは違うキュリオの心境が容易にみてとれるのだった。

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