第17話 天帝国


アウローラ天帝国の城壁を見上げる。

白ぽい石材で出来た見上げた壁が傾いた日に照らされ黄金色に輝いている。

大きな門をくぐるとその先にはさらに城壁が待ち構え。

内側の城壁にも門があるが外側の門よりは若干小さく鉄の扉があった。


他の城下町の様に番小屋で換金してアウローラに足を踏み入れた。

「カズキ」

「判っている」

尾花が俺だけに判る様に囁いた。

番小屋ではすんなり換金できたが不思議なことにアウローラに入国するのは俺達だけだった。

時間が夕暮れという事もあるけれど少なすぎる気がする。

城内の街には沢山の人が行きかっているが何かが引っ掛かる。

そんな雰囲気を尾花も感じ取ったのだろう。

とりあえず街外れにある宿に泊まることを決めて部屋に案内してもらった。

「こちらのお部屋になります」

「ありがとう」

「失礼ですが行商の方には見えませんが」

「旅をしている途中で寄らせてもらったんです」

当たり障りのない会話をして部屋に入る。

宿の中は問題なさそうだ、それでも気は抜けない。

不穏な噂が秋津さんの耳に入るという事は他にも流れているという事で、それが騎士団や剣術師範代からの情報だとしたらかなり信憑性がある。

別行動は控えた方が良いだろう。

まぁ、別行動なんて今までした事が無いからそれほど心配するほどではないのかもしれない。


食事をしに城内の街にでると活気が溢れているかと言うより平穏な感じがした。

特にアウローラでは各地の物が揃っていると尾花が教えてくれたアウローラは色々な国の人々が出入りするからなのかもしれない。

それでも店の看板を見れば大体どこ風の料理か分かると言うけれど俺はこの世界の字が読めないし、何風と言われてもピンとこないと言うかチンプンカンプンだ。

早々に食事を済ませて汗を流す事にする。

「カズキ、どの風呂にするんや?」

「どの風呂ってそんなに種類があるのか?」

「まぁ、大概は温泉やけど蒸し風呂もあるからな」

「普通の温泉で」

つまらん奴やと言われても普通の温泉がスタンダードだろう。

砂風呂や蒸し風呂は体に良いのかもしれないけれどお湯に浸かってさっぱりと汗を流したい。

「あの……そんなにくっ付かなくても」

「カズキが離れるなって」

「紫苑は荒事専門じゃ」

「やっぱりカズキに守ってもらいたいな、女の子だし」

そしてカヤとサヤまで。

「カズキの傍が良い」

「サヤも!」

どうやら尾花の仕業らしい。

「尾花は何を吹き込んだんだ」

「別行動はせん事とカズキの傍におれ言うたんや」

「近すぎない?」

「別にええやんか」

伸び伸びと湯に浸かりたいけれど……

まるで女体風呂と言えば良いような状況で動く事すらままならない。

少しでも動けば誰かの体に触れてしまう。

たとえ触れたとしても嫌われる事は皆無だろうけれど確実に弄られるのが手に取る様に分かる。

こんな状況を羨ましがる奴等もいるだろうけど実際にそうなるとどうしていいものか。

諸手で喜べば確実に〆られるし嫌な顔でもすれば取り返しのつかない事になるだろう。


宿に戻っても大変だった。

「サヤもカズキの隣が良い」

「それじゃカヤが右でサヤが左ね」

「カズキ……」

紫苑がシュンとしながら上目づかいで俺を見ている。

「紫苑は大人なんやから諦め」

「嫌だ!」

「カヤとサヤより子どもやな」

「だって」

紫苑・サヤ・俺・カヤ・尾花と並んで寝る事になった。

横になると同時にカヤとサヤが喜んで俺に抱き着くようにしてきた。

「幼女嗜好のカズキは大喜びやな」

「幼女嗜好言うな。断じて俺は違うし紫苑みたいな」

「紫苑みたいな、なんや。最後まで言わんかい」

「紫苑みたいな……が良いかなって」

尾花には確実にヘタレ認定されてしまうし紫苑には誤解と言うか誤解ではないのだけど。

サヤの直ぐ横で俺の方を見ながら横になっている紫苑の顔が赤らみ瞳が潤んでいる。

今更言い間違えたなんて言えなくなった。

「尾花みたいなツンデレも嫌いじゃないけどな」

「あ、あんな。そんな事を言われたら。困るやん」

「…………」

カヤのすぐ横に寝ている尾花の顔が真っ赤になって掛布団に潜り込んだ。

どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

「カズキ、本当に?」

「カズキ、ほんまに?」

「おやすみ」

「「ねぇ」」

「おやすみ」

目を閉じて力技で話を終わらせる。

これ以上はそれこそハーレムアニメになってしまう。

俺自身はハーレムアニメの主人公の様にありえないほど疎いとは思っていない。

一途なのかと言われれば即答できるほど恋愛の経験値は高くないしむしろゼロに近い。

情けない話だけど彼女いない歴が年齢と同じだ。

「手取り足取りお姉がな」

「わ、私も初めてだから」

聞こえない振りをして無視するがしばらく寝付けなくなってしまった。


「カズキ、朝だよ」

「カズキってば」

遠くでカヤとサヤの声がする。

「「せーの」」

2人の掛け声と共に何かが俺の腹の上に落ちてきた。

「あの……」

「あ、起きた」

「2人ともどいてくれないかな」

「いやだ、カズキ遊ぼう」

出会ってから一度もカヤとサヤが俺に甘えてくる事は無かった。

子どもぽいとは一度も感じた事は無し、子ども扱いせずに紫苑や尾花となんら変わらな仲間として接してきた。

もしかしたらカヤとサヤは何かを感じたのかもしれない。

アウローラで元の世界に戻る手がかりを掴めればそれは別れを意味する。

「よーし、三つ数えるうちに退けよ。いーち、にー、さん!」

「べーだ!」

「やだ!」

「捕まえた!」

両手を広げてカヤとサヤの体を抱きしめて2人の脇腹を擽る。

きゃっきゃ言いながら体を捻って逃げ回るカヤとサヤを追いかけまわす。

布団に潜ったり枕を投げたりしてふざけ合う。

「はぁ、はぁ、ギブだ」

「ええ、もっと」

カヤとサヤの逆襲が始まった。

俺の脇腹から足の裏を2人がかりで擽り始めた。

「ギブ! ギブだって」

「ヤダよ!」

「紫苑、尾花!」

息が上がってきて紫苑と尾花に助けを求めるが2人とも愛おしそうな眼差しで見ているだけだった。

「親子みたいやな」

「俺はまだ19だ」

「私がママに」

「あん? 紫苑が? おぼこ娘のくせに」

尾花に弄られて紫苑が恨めしそうな顔をして俺を見ている。

カヤとサヤを背中に乗せたまま顔を布団に埋めた。

「だってカズキが」

「おい、カズキ。何とかせえや」

無言で布団に顔を押し付けると背中の上からカヤとサヤの声がする。

「ダメダメだね」

「女心が分からない男なんて最悪だよね」

「すんません」

「カズキは何を凹んでんねん。そろそろ行くで」

尾花の声で現実に引き戻された。

アウローラには観光をしに来たのではなく異世界から来た物や人の手がかりを探しに来たのだと。

「そうだな。そろそろ準備しよう」

重苦しくなりそうな空気はそこには無かった。

これも皆のお蔭なのかもしれない。


「アホ、経験の差や。あいつらかて小さいなりに色々と経験してきたんや」

「やっぱり尾花は凄いな」

「煽てても何も出へんで。それとも惚れたんちゃう」

「あほ」







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