第7話 都内観光

 翌日、目を覚ますとベッドで寝ているはずのリーナが僕の布団に潜り込んで眠っていた。

 菜々海に起こされる前で良かったと胸を撫で下ろす。

 昨日の夜にあんな事を言ったのに、こんな所を菜々海に見られたらただじゃ済まないのは明白だ。

 そっとリーナを抱き上げてベッドに寝かせる。

 余程疲れていたのだろう、昨夜のお酒の力もあってぐっすり寝ているようだ。

 手早く着替えを済ませて下に降りると朝食の準備がいつもの様にできている。

 まぁ、今日からは1人分多いけれど。


「おはよう」

「おはよう、パパ。リーナは?」

「まだ寝ているよ、疲れたんでしょ」

「そっか。今日はどうするの?」

「はとバスにでも乗って都内観光かな。はとバスは外国の人にも人気があるからね」

「そうなんだ」

「菜々海のテストはいつまでなの?」

「明日だよ。心配?」

「菜々海の事はパパが一番良く知っているからね。心配なんてしないよ」

「もう、朝から恥ずかしい事を言わないで」

「それじゃ、朝ごはんを食べたら送っていくから」

「大丈夫だよ、もしリーナが目を覚まして誰も居なかったら心細いでしょ」

「そっか」

 菜々海の機嫌も直っているようだ。

 それ以上にリーナを気遣ってくれるのが親としては嬉しく思える。

 優しい子に育ってくれてありがとう。本人には面と向かって恥ずかしくて言えないから心の中で感謝する。


 菜々海が学校に行き食器を片づけていると眠そうにしながらリーナが降りてきた。

「おはよー」

「おはよう、リーナ。朝ご飯が出来ているよ」

「うん、グラッチェ」

 寝ぼけているのかリーナの食が進まない、朝が弱いのかもしれない。

 半分ほど食べたところでリーナが固まっている。

「ごめんなさい」

「気にしなくていいよ」

「今日は家でゆっくりしようか?」

 リーナは小さな女の子みたいに首を横に振った。

「それじゃ、着替えて出かけよう」

「うん」


 とりあえず電話予約をして、タクシーで家から職場の前を通り丸の内南口に向かう。

 乗合いの観光バスに乗って出発する。

 最初に今更ながら職場の目と鼻の先の国会議事堂を見学する。

 そして赤坂のホテルに立ち寄りビュッフェ形式の昼食があった。

 ここでもリーナの食は細かった。

 まぁ、朝食を食べてから左程時間が経っていないし体を動かした訳ではないから仕方がないのかもしれない。

 それでも築地場外市場では見た事も無い物を目にして大はしゃぎして、店の人もあまりにはしゃぐリーナを見て気をよくして何処に行っても試食を進めてくれた。

 リーナはその度に質問をして場を和ませた。

 東武浅草駅から業平橋まで電車で一駅移動して東京スカイツリーを見上げる。

 あまりに近代過ぎてリーナの反応は今一だった。


 浅草に戻り浅草寺と仲見世を散策する。

 参道は雷門を通り仲見世を抜けて宝蔵門を通り本殿へと続く。

 雷門は日本を紹介する時の象徴と言っても過言では無いほど外国人にとって人気のスポットなのだろう。

 リーナも700キロもある大きな提灯の下で嬉しそうにポーズをとって写真に納まった。

 仲見世には興味が無いのかリーナは僕の腕を引っ張って宝蔵門に突進する。

 リーナの質問の嵐に僕はパンフレットや案内板を見ながら答えた。

 宝蔵門をくぐりお水舎で手洗いし口を漱ぐ。

 リーナは僕を見て同じようにしている。

 そして大きな香炉から立ち昇る線香の煙を浴びて身を清める。

 その後、本堂に向い本尊に手を合わせた。

 確か浅草寺の本尊は観世音菩薩だったはずだ。

 リーナに質問攻めにあいながら五重塔などを見ていると時間があっという間に過ぎてしまった。

 浅草寺を後にして東京タワーに向かう。

 スカイツリーと打って変わってリーナの瞳は好奇心で満ちている。

 到着したとたんにバスから飛び出して東京タワーを見上げていた。

 展望台に上がり見渡す限りのコンクリートジャングルを見下ろす。

「ヤクモ、富士山は?」

「霞が掛ってて見えないね。空気が澄んだ秋や冬なら見る事が出来るけどね」

「残念……」

 今日はほぼ一日中リーナに腕を引っ張られリーナのペースで都内観光をして回った。

 朝10時前に出発して東京駅に着いたのが夜7時前だった。


 菜々海に連絡すると食事の準備をして待っていると言われタクシーで家に戻った。

 夕飯は菜々海の手料理で心なしか豪華に見える。

 リーナは嬉しそうにしているが箸は進まなかった。

 夕食後にリーナが風呂に入っている時に菜々海が心配そうにしていた。

「パパ、美味しくなかったのかなぁ」

「そんな事はないよ。もしかしたらリーナは食が細い子かも知れないからもう少し様子を見てみよう」

「そうだね、日本に来たばかりなんだもんね」

 その晩は客間でリーナに寝てもらう様に言ったがリーナが頑として首を縦に振らなかった。

「それじゃ、菜々美と一緒に」

「嫌!」

「駄々をこねないで」

「嫌だ……」

「パパ、任せた」

「菜々海? もう、はぁ~」

 菜々海はそそくさと自分の部屋に行ってしまった。

 仕方なく昨晩と同じようにリーナがベッドで僕が床に寝る事になってしまった。


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