第6話 居酒屋たこ九


 今夜は久しぶりにパパと外で食事。

 でも、パパが連れてきたリーナが一緒なんだ。

 とても澄んだ綺麗なグリーンの瞳で一般ピープルじゃないオーラを醸し出してて。

 リーナって言う名前しか教えてもらえない不思議な女の子なんだよ。

 でも、リーナを見るパパの瞳には優しが見え隠れする。

 基本パパは誰にでも優しくて一言で言えば人畜無害な『良い人』で早苗さん曰く『パシリ属性』なんだって。

 でも、その優しさとは少し違うもう一歩踏み込んだ優しさと言えば良いかな大切なものを守ると言うか、パパがリーナと今日初めて会ったなんて思えないくらい愛しさが含まれている気がする。

 で、パパが連れてきた場所は……


「しゃいませ~ 3名様ですね。3名様、ご案内!」

 行きつけのチェーン居酒屋の『たこ九』だった……

 確かにここは安くて早くて美味しいけどさ、ここだけは無いと思っていたのに。

「あれ? 菜々海ちゃん。おひさー」

「ご無沙汰しています」

「ああ、何を拗ねているのかなぁ」

「別に」

 馴染みで顔見知りの店員さんが笑顔で声を掛けてくれた。

 その店員さんがリーナを見て驚いている。

「うわぁ、わぁわぁ。凄い綺麗な子だね」

「そうかなぁ」

「ええ、菜々美ちゃんは可愛い系だけどさ。あ、判った。パパと久しぶりの食事なのに綺麗な女の子が一緒だからだ」

「違うもん。おしゃれなレストランが良いのに。なんで『たこ九』かなぁ」

「うわぁ、わぁわぁわゎ。店長! 菜々海ちゃんが苛める!」

 店員さんはオーダーも取らないで半べそになって奥に引っ込んでいった。

 パパは隣に座っているリーナにとりあえず飲み物の説明をしているみたい。

「チューハイ?」

「ジャパニーズスピリッツ・ハイボール、レモン、ライム……」

 ドライが良いかスイートが良いのかリーナの好みを聞いているパパを見ていると恋人同士に見える。

 ちょっとだけモヤモヤする。

 実は私のママは私が3歳の頃に空に昇ってしまった。

 それまで私にはパパが居るって知らなかった。

 ママのお葬式でパパと初めて出会ったけれど、今度はパパが行方不明になって1年くらいしてから再び私の前に現れた。

 だから幼い頃はパパの事を良く思っていなかった。

 でも、今は違う。パパとは10年ちょっとしか一緒に居ないけれどパパが大好きなんだもん。

 それにパパに見せてもらった事があるアルバムにはパパとママの写真があまりない。

 あまりないと言うか殆どないと言った方が正しいかもしれない。

 その理由を聞いた事があるんだけれど事情があって2か月くらいしか一緒に居られなかったからねって聞いた事がある。

 だからパパから事情があってと聞くと凄く嫌な気持ちになる。

 それは私に言えない事だと思うから。

 それでも、パパは私の事をとても大事にしてくれる。

「菜々海、乾杯しよう」

「えっ、うん」

 パパはとりあえずの生ビールでリーナはカルピス酎ハイ、私の前にはウーロン茶がジョッキでおいてあった。

「それじゃ、お疲れ様」

「お疲れ様」

「お疲れ様?」

 リーナが不思議な顔をしている。

 それともう一つリーナが物珍しそうに店内を見ている、あれだけ日本語が上手なのに居酒屋が珍しいのかな。

「リーナ、一日の疲れを癒しに来るから、ここではお疲れ様なんだよ」

「パパ、リーナって」

「僕も美咲には何処かの令嬢としか聞いていないけれどね。これだけ日本語が上手で日本が初めてと言う事はよっぽど日本が好きなんだろうね。だからここに連れて来てみたんだけど」

「そうか、外国にも居酒屋みたいな場所はあるけれどお嬢様はそんな場所には行かないもんね」

「でしょ、だから今日は原宿や代官山に行ってみたんだ」

「うわぁ、ずるいよ」

「仕方がないでしょ。リーナは何も持っていないんだから」

「そっか。あっ、リーナ。それは駄目」

 箸を上手に使い目の前の小鉢にリーナが興味を示し口に運んでいるが遅かった。

 リーナは突き出しのたこわさを口にして鼻を押さえて涙目になっている。

「お鼻が痛い!」

「あはは、ワサビが入っているからね」

「日本語が上手なんだね」

「ありがとう」

 赤くなってリーナが俯いている。

 あれ? 凄く良い子みたい。ちょっと誤解していたかもしれない。

 パパを取られちゃうと思ったんだけど、なんだろうこの感覚はリーナならパパにお似合いだなんて思っちゃった。

 そんな感情を隠すようにちょっとハイテンションになっちゃった。

 定番のトリ唐に刺し盛りでしょ、何故か東京なのに沖縄のチャンプルー、ぶりかま・じゃがバター明太につくね。

 リーナはどれも珍しそうに食べている。

 そして楽しそうにしているリーナをパパが優しい目で見守っている。

 私は気づかないふりをして料理や飲み物を注文する。

 何だか私まで嬉しくなってきた。

 でもリーナは限界みたい、眠そうに可愛らしい口で欠伸をしている。

 帰るころにはリーナはすっかり夢の中だった。

 パパの背中で可愛らしい寝息を立てている。

「パパ、リーナって素直で良い子だね」

「あのね、リーナは一応菜々海より年上だからね」

「歳の差を不思議と感じないんだよね、お嬢様だからかな」

「そうかもね」

「パパ聞いても良い? リーナはいつまで日本に居るの?」

「2週間くらいかな。菜々海、リーナの事をよろしくね」

「うん、でもパパが仕事の時はどうするの?」

「一応、有給を取ってあるからね。それに掛った経費は美咲が清算することになっているし、日本の色々な事を教えて楽しんで欲しいからね」

「ええ、それじゃリーナに付っきりなの?」

「そうなるかな、明日はとりあえずお台場の方に行こうかなぁって」

「ずるいよ、菜々美だって行きたい」

「しょうがないなぁ、それじゃお台場は菜々海の試験休みにでもしようか」

「やった!」

 えへへ、嬉しいな。

 リーナに日本の事をね、それじゃ私も計画を立てなきゃ。

 試験はとりあえず明後日までだしね。

 何だかワクワクしてくるなぁ。

「あれ? そう言えばリーナは何処で寝るの?」

「今日はこんな状況だからね。パパのベッドで寝かせるよ、朝起きてリーナがパニックになるといけないでしょ」

「それじゃ」

「パパは床に寝るけど」

「へぇ、おんなじ部屋で。まぁいいか、パパじゃ間違いなんて起きないもんね」

「うわぁ、酷い言い方だな」

「それじゃ、起こるの?」

「パパは酔い潰れている女の子なんて襲いません。ってコラ!」

「えへへ、逃げろ!」

 ちょっとだけ明日から楽しい事が始まりそうな気がする。






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