第18話 夏休み大作戦


ノア先輩のお母さんとノルンちゃんが現れた翌日。

写真部同好会のメンバーに召集が掛かり学校に来ていた。

「何だって夏休みの終わりに制服着て学校に来なきゃならないんだ」

「仕方がないだろ。副会長からの命令なんだから」

「会長の遥がしっかりしないからだろうが」

「写真同好会の会長に仕立て上げられたのは誰の所為なんだ。それに夏休みだからってバイクで来たくせに文句を言うな」

メールには11時に教室とあり時間通りに教室に行ったけれど柚子先輩の姿は無く手分けした校内を探していた。

「遥、柚子先輩いないよ」

「でも柚子先輩が遅刻するなんてあり得ないよね」

「柚子ちゃんに何かあったのかなぁ」

「何かあれば連絡ぐらいするだろう」

柚子先輩の携帯に何度かけても電源を切っているのかつながる事は無かった。

そして気の所為かもしれないけどいつもと何かが違う感じがする。

「遥会長、これからどうするんだ」

「そうだなこのまま学校に居てもしょうがないだろう帰るか」

「うん、瀬戸香さんが冷やしうどん作って待っててくれるしね」

「ノア先輩、それってマジ?」

早生の期待が無限大に膨らんでいるみたいだ。

仕方がないので期待を裏切らない様に姉ちゃんに電話しておく。

「清見も香苗も家に来ないか。姉ちゃんが皆でウドン食べに来いって」

「瀬戸香さんがそう言うなら行かない訳に行かないじゃん。でも遥、浮かない顔をしてどうしたの?」

「うん、何か柚子先輩の携帯に掛けた時に雑音が入ったけど気の所為だろ」

「それじゃ、遥。俺と香苗は先にバイクで行ってるからな」

気の所為かもしれない事を態々皆に言う必要も無いと思い学校を後にした。


「美味いです。瀬戸香さん」

「うふふ、ありがとう」

皆でワイワイ食べるご飯は美味しい。

それにこのウドンの出汁は婆ちゃん秘伝のレシピ通りに作られている。

「この出汁が凄く美味しい」

「清見ちゃん、はる君のお婆ちゃんに教わったんだよ」

「へぇ、ノア先輩も教わったんだ。で、遥に作ってあげるんだ」

「う、うん」

ノア先輩が真っ赤になって皆に冷やかされ、清見からは強烈な突っ込みを叩き込まれた。

姉ちゃんは嬉しそうに俺達を見ていた。

満腹中枢が満たされみんな幸せそうな顔をしている。

するとノア先輩が急に改まった口調で話し始めた。

「皆に聞いて欲しい事があるの。実は私、銀河連邦の小国に当たる星からやってきた科学者なの。だから皆から見れば私は」

「ノア先輩だろ。な、香苗」

「そうだよね、清見」

「当たり前でしょ。まぁ、ノア先輩が科学者と言うのはちょっと信じられないけどね」

「皆、ありがとう」

宇宙から来たなんて聞いたら速攻で大騒ぎする早生が平然としていて理由は判らないけど清見も香苗も全く驚く様子が無い。

「なぁ、何で驚かないんだ」

「遥は本当に鈍いよね」

「ノア先輩を見れば一目瞭然だよね」

「遥はそんな事気にしてないんだろ。だったら俺達は何も気にしないよ」

清見に言われていつもりノア先輩が俺の近くに居る事に気が付いた。

そんなノア先輩の瞳には感極まって大粒の涙が今にも零れ落ちそうになっている。

「また、変な顔になるぞ」

「はる君のばかぁ」

するとミミンが急にテーブルの上に飛び乗って俺を見上げた。

「ミミン、どうしたんだ?」

「みぃ!」

ノア先輩が婆ちゃんの家で皆に黙って帰ろうとした時と同じように体が光りだし、ミミンの頭の上に四角い画像が浮かんでいる。

その画像には見た事も無い文字が羅列されてノア先輩の顔が一瞬だけ曇った気がする。

「ノア先輩、もしかして」

「うん、妹のノルンからのメールだよ」

「何が書いてあるんだ」

「私が地球に残れるように連邦と交渉してくれて条件付きで残れることになったの」

ノア先輩が笑顔になり頭の中にあったノア先輩との別れが払拭されて何だかほっとした。

俺だってノア先輩を離したくないし出来ればいつまでも一緒に居たいと思っている。

「その条件って何なんだ」

「あのね、地球に残る為に検査しなきゃいけないの。1週間くらいで戻って来るから心配しないで。もう少ししたら迎えが来るはずなの」

「そうか少し寂しいけど1週間の我慢だな」

「うん」


その時、玄関から声がして皆の視線が玄関の方に集まった。

「おーい、遥。居るか」

「なんだよ。兄貴の声だ」

早生が言う通り玄関から聞こえた声は夏海さんの声だった。

俺が立つより早く姉ちゃんが玄関に出て行く、姉ちゃんの中で夏海さんの印象はすこぶる悪い。

夏海さんがタバコや酒は教えなかったけれどバイクや喧嘩を教えた事に対して保護者として許せなかったのだろう。

「今、冷たいお茶でも入れますから」

「すいません、瀬戸香さん。直ぐに帰りますから」

松山の学校まで名を轟かせた夏海さんが借りてきた猫の様になっている。

大人になって丸くなって角が取れてしまったのだろうか。

「兄貴、仕事中じゃないのか。サボるなよ」

「サボってねぇよ。あのお嬢様が仕事中の俺の所に凄い形相で着て今直ぐにこれを遥かの所に届けろって。あまりにも鬼気迫る声だったから仕事を抜け出してきたんだよ」

「お嬢様って柚子先輩か」

「そうそう、その柚子先輩だよ。表通りにはメイ・イン・ブラックに出てきそうなスーツ姿の男は居るし、瀬戸香さんは凄げえ怖い顔をしてるしよ。勘弁してくれよ」

夏海さんの口から出た柚子先輩の名前で顔を見合わせる。

柚子先輩は訳も無くこんな事をする人じゃない。

それに柚子先輩が鬼気迫るという事は何かに巻き込まれて事態が切迫しているのだろう。

「遥、早く箱を空けな。柚子先輩に何かあったのかも」

「緊急事態かも」

清美と香苗に急かされて夏海さんが柚子先輩から託された箱を開けると中から耳かけ式のいやフォンの片割れが出てきた。

イヤフォンの様に見えるけれどスピーカーの外側に黒い100円ライターの様な物が付いている。

「何だこれ?」

「これはあれだな俺達が仕事で使っているインカムじゃねえか。こうやって耳にかけて使うんだ」

「かっけぇ。映画とかテレビで見た事あるやつだ」

夏海さんが耳に着けると早生が真似して耳に着けてポーズをとっている。

「おい、遥。お前の事を呼んでるぞ」

「夏海さん、俺をですか?」

「早く付けて、何か返事をしてみろ」

夏海さんに言われて慌てて耳に着けると清見と香苗に姉ちゃんまで耳に着けている。

皆の耳に聞こえて来たのは柚子先輩の声だった。

「もしもし、柚子先輩?」

「遥君、良く聞きなさい。あなたとノアちゃんの未来に関わる問題だから。今直ぐそこを逃げ出しなさい」

「柚子先輩、行っている意味が」

柚子先輩が掻い摘んで説明してくれた。

地球には無数の宇宙から来た人が地球人に紛れて生活しているらしい。

その目的は様々で未発達の人類や地球の鉱物資源の研究や地球外の人の監視など多岐にわたっている事。

そして柚子先輩もそんな内の一人だとカミングアウトした。

まさか柚子先輩までノア先輩達と同じだなんて思ってもみなかった。

「ここからが大事な話なの。実は世界中には地球外生命体を探しだす地球側のエージェントが目を光らせているの。そしてノアちゃんの正体に薄々感づいて動き始めているわ」

「もしかして表通りのスーツ姿の怪しい男って」

「それは多分ノアちゃんのお母様が連邦と交渉した地球側のエージェントだと思うわ」

ノア先輩が地球に残る為に飲んだ交換条件って……

皆の視線がノア先輩に注がれている。

「ノア先輩、ここに残る為の交換条件って何ですか?」

「はる君に言った通りだよ地球側の研究機関で検査するだけだよ」

「駄目よ! 絶対に駄目!」

柚子先輩の声が耳に突き刺さる。

「ノア先輩、本当の事を教えて」

「清見ちゃん、本当も何も」

「じゃ、何で泣いているの? お願いだから遥にだけは嘘をつかないで」

清見に詰め寄られたノア先輩の頬を光るものが伝っている。

真っ直ぐにノア先輩を見つめると僅かに瞳が揺れていた。

「嘘はついてないつもりだよ。でも研究機関で何をされるか判らない。でも私は耐えなきゃいけないの。それははる君と瀬戸香さんから大切な人を奪った罰だから」

「でも先輩は10年近くも収監されていたじゃないですか」

「それははる君を生き返らせた代償だから」

「ばかぁ! そんな事をして遥が喜ぶと思うの?」

清見がノア先輩の頬に平手打ちして涙をこぼしノア先輩が驚いて清見を見上げている。

「清見ちゃん……」

「大切な、とっても大切な仲間だから怒るんだよ。悔しいじゃん。遥もノア先輩も大好きなの」

すると玄関を叩く音がした。

ノア先輩を引き取りに来たエージェントだろう。

「遥君、研究機関に引き渡せばノアちゃんは……」

実験体、標本……柚子先輩の言葉は聞くに堪えないものだった。

香苗と清見がノア先輩を抱きしめて泣いている。

早生は腰が抜けたように呆然としていた。

「おい、遥。どうするんだ」

「遥、しっかりしなさい。お姉ちゃんはいつでも遥の味方だよ」

「皆、俺に力を貸してくれ。ノア先輩を母親がいる西の岬まで送り届けたいんだ」

俺一人じゃ何もできない。

でも、皆が力を貸してくれれば……

「仕方ねぇな。写真同好会の会長にした責任を取るぜ。これでチャラだからな。清見はどうするんだ」

「早生は誰にモノを言ってるんだ私は遥の幼馴染だぞ。香苗も手伝ってくれるよね」

「うん、はる君は私の背中を押してくれた。だから今度は私が」

「決まりだな。で遥どうするんだ」

俺が口を開こうとすると早生が先に口火を切った。

「俺が切り込んで外に居る奴らを蹴散らす」

「私は夏海さんと。お願いします」

「それじゃ香苗ちゃんは私と」

「ノア先輩は早ちゃんのバイクでだね」

香苗がノア先輩にヘルメットを被せている。

躊躇している時間は無い。


再び玄関が叩かれ早生が玄関を開けると立っているスーツ姿の男にタックルをして薙ぎ倒した。

「行け!」

早生の声を合図に夏海さんが清見を小脇に抱える様に玄関を飛び出し黒いワンボックスに飛び乗りタイヤを鳴らして急発進する。

あとを追いかける様にヘルメットを被ってノア先輩の手を引いて玄関から出て早生のバイクに跨るとノア先輩が俺の背中にしがみ付きバイクを出す。

姉ちゃんと香苗は家の塀を乗り越えて裏の駐車場に置いてある姉ちゃんの車に乗り込んだ。

夏海さんのワンボックスが岬と反対方向に走っていく。

バイクの後ろから姉ちゃんの水色の軽自動車が走ってくる。

岬に向かいバイクを走らせると姉ちゃんの車の後を追いかける様に走り去る車がミラー越しに見えた。

インカムから柚子先輩の声がする。

「遥君、誰も信じちゃダメよ。警察すら奴等の手中にあるものだと思いなさい」

「でも、何で柚子先輩は」

「あなたが海で言ってくれた言葉が嬉しかったの。私が何者だって私は私で大切な仲間だって。仲間なら助け合うのが当たり前でしょ」

サイドミラーを見ると一台の車が一定の距離を置いて走っている。

俺がアクセルを開けると後ろの車もスピードを上げた。

「柚子先輩、尾行されてるみたいです」

「安心しなさい人が多い場所で奴らが行動を起こす事は無いわ。それに地球外から来た者は力を制限されているから地球人となんら変わらないわよ」

「それじゃ、岬に出たら」

「上から出来るだけのサポートをするから」

確かにヘリコプターが飛んでいる音がする。

するとノア先輩が俺の右肩を叩いて横を向くと見た事も無いヘリコプターが飛んでいた。

機体の形状は戦闘機の様な流線型で後ろにはプロペラ機の様なプロペラがあり、普通のヘリコプターと違うのはメインローターが2枚ある。

「開発途中のプロトタイプよ非公式ではあるけれど世界最速よ」

「柚子先輩って本当に高校生ですか?」

「あら酷い事を言うのね。遥君は認めたくせに」

「そうでした」

ノア先輩を送り届けたら柚子先輩とは色々と話したいなと思う。

「他の皆は無事ですか?」

「まだ無事よ。見事なくらいに逃げ回って奴らを引き連れているわ」

「俺達も完全にロックされてますけどね」

柚子先輩の指示に従って道を変え車が通れない路地に入っても直ぐにロックオンされてしまった。


日本一細長い岬に入り有名なドライブコースになっている佐田岬メロディーラインをひた走る。

しばらく走ると右手の尾根に立ち並ぶ風力発電の巨大な白い風車が見えてくる。

確か瀬戸風の丘パークと言う展望台があって夕焼けが綺麗だと教えてくれた記憶がある。

でも、今はそんな事を考えている場合じゃない。

ケツにぴったりと車が張り付いている。

夏海さんチューンのスーパーカブだけど引き離そうとしても流石に車には太刀打ちできない。

それでも逃げるしか出来ないのがもどかしい。

綺麗な景色も今は関係ない。

腰に回されているノア先輩の手に力が籠る。

アクセルを全開にして走り続ける。

そして三崎港のフェリー乗り場を過ぎると後ろの車が遠ざかっていった。

「柚子先輩、車が」

「気を付けなさい。そこから先が勝負よ。奴らだって馬鹿じゃないわ」

不気味なくらい静かだった。

対向車とすれ違うことなくバイクを走らせる。


佐田岬の物産センターを抜けてしばらく走ると前方に道を塞ぐように黒塗りのワゴンが止まっていた。

そのワゴンの前にはサングラスをかけたスーツ姿の男が2人立っていた。

バイクを止めて様子を窺う。

「はる君」

「大丈夫ですよ。俺が何とか……」

ノア先輩を落ち着かせようと声を掛けると男が静かに動いた。

懐から黒い物を取り出しこちらに向けると乾いた音がして数メートル先のアスファルトから煙が上がった。

怖い、生まれて初めて感じる恐怖でハンドルを握る手が震えている。

「じ、銃を持っているなんて」

「遥君、しっかりしなさい。ノアちゃんがどうなっても構わないの」

柚子先輩の言葉で研究所に連れて来られたノア先輩の恐怖にゆがむ顔が浮かんでくる。

ここで負けるわけにはいかない。

俺とノア先輩の為に皆は……

「ノア先輩、突っ込みます。しっかりつかまっていてください」

「うん」

腰に回されているノア先輩の手に触れると力が籠った。

アクセルを吹かしブレーキを離すと前輪が少し浮く。

力でねじ伏せて身を屈め突っ込む。

数発の銃声が響きバイクのサイドミラーが吹き飛び頬に痛みを感じヘルメットを弾丸が掠めた。

男に向かって突き進むと男が身を翻した。

その隙をついてワゴンの前をすり抜ける。

直ぐに後ろから車ワゴンが急発進する音が聞こえ、あっいと言う間に追いつかれ横に並ばれてしまった。

するとワゴンが幅寄せをしてきて思わずワゴンのボディーを蹴り飛ばした。

「くそ、もう少しなのに」

「諦めるな、遥!」

柚子先輩の声が飛んでくる。

もう灯台は目と鼻の先のはずだ。

蛇行運転しながらワゴンを交わしながら走る。

するといきなりワゴンがハンドルを切ってバイクにぶつかってきた。

吹き飛ばされガードレールに突っ込みそうになる。

「ざけんなぁ!」

バランスを取り戻す為にガードレールに膝からぶつかった。

左膝に痛みが走りジーンズが裂けて血が風圧で後ろに飛ばされていく。

ノア先輩が俺の背中に頭を何度もぶつけている。

「もう止めて! ミミン、お願い」

「みぃ!」

いつの間にかノア先輩の手にミミンが握られている。

そしてワゴンに向かってミミンを投げつけると追ってきていたワゴンのタイヤが悲鳴を上げて道路わきの崖に突っ込んで白煙を上げた。


佐田岬灯台の駐車場にたどり着きバイクを止める。

「はる君。足は大丈夫なの?」

「かすり傷ですよ」

ノア先輩が俺の頬に手を当てると少し痛みが走る。

バイクのミラーが当たり少し切れたのだろう。

姉ちゃんにいつも持たされているバンダナを膝に縛り付けると痛みが走る。

「行きますよ」

「でも」

「皆の好意を無駄にするんですか?」

瀬戸内海国立公園と書かれた案内板には灯台まで1800メートルと書かれている。

そして沖に目をやると漁船が数隻浮かんでいた。


木々に囲まれた遊歩道をノア先輩の手を掴みながら坂を下る。

途中にあるキャンプ場では家族連れが楽しそうにバーベキューしていた。

左足を引き摺りながら薄暗い遊歩道を20分ほど歩くと灯台まで250メートルと道しるべに書いてある。

しばらく進むと視界が開け小さな門の向こうに白い灯台と灯台に続く階段が見えた。

そして階段の前には1人の男が立っていて男の周りにはスーツ姿の男が数人倒れている。

あそこを突破しないと灯台にたどり着けない。

左足は動かすだけで痛みが走り、嫌な汗が頬を伝う。

「はる君、もう十分だから。もうここで」

「どんなに離れていても生きていれば必ず会えます。俺は諦めが悪い性格なんでね」

足を引き摺りながら男と対峙する。

ノア先輩が震えているのが繋いでいる手から伝わってくる。

いきなり目の前の男が頭を深々と下げた。

「遥様、ノアお嬢様。柚子お嬢様の申しつけでお待ちしておりました」

「執事さん?」

「はい、お急ぎを。この場は私目が」

日が落ちかけて薄暗くなっているのと焦りから敵としか認識していなかった。


長い灯台の階段をノア先輩に支えられながら何とか登り切った。

灯台の先端に出るとそこには夕日でオレンジ色に染まった海が広がっている。

そして海の上には巨大なクリスタルの両頭結晶の様な宇宙船が浮かんでいた。

あれがノア先輩の母親が言っていた母船なのだろうか?

夕日を浴びてオレンジに染まっている?

違う。

どういう構造なのか想像すらつかないけれどロッククリスタルその物と言った方が良いかもしれない。

向こう側が透けていて母船の表面や内部では色々な色の光が点滅しながら動いていた。

「はる君」

「ノア先輩、そんな顔をしないでください」

ノア先輩はとても寂しそうで今にも泣き出しそうな顔をしている。

「必ず、また会えますよ」

「そんな事、判らないでしょ」

「ノア先輩は凄い科学者なんですよね。また宇宙船を造って会いに来てくれるのを待ってます」

「うん」

ノア先輩の体が白い光に包まれて浮かび始め。

徐々に俺の体からそして手から離れていくとノア先輩が身を乗り出した。

「遥、愛してる」

「ノア先輩」

唇に柔らかい感触を残しノア先輩を包み込んだ光と共に母船に吸い込まれていき……

すると母船が一筋の光の残像を残して星が輝き始めた宇宙に消えて行った。

いつまでも星空を見上げていた。




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