第17話 夏休みの真実


姉ちゃんが車を置きに行き先に玄関に行くと女の人が2人立っていた。

その女の人の着ている服は今まで一度も見た事が無い服で俺が記憶している外国の民族衣装とはどれも合致しなかった。

まるでSF映画に出てきそうな衣装だった。

「お母様にノルン」

「えっ?」

「はる君、私の母と妹のノルンです」

思わず言葉が詰まりそうになってしまった。

「は、はじめまして。大森遥と申します」

「ノア、この方がそうなのね」

「はい」

この見た事も無い服を着た女の人がノア先輩の母親と妹なのは動かしようの無い真実なのだろう。

それでも俄かには信じられなかった。

ノア先輩のお母さんも妹さんも髪が長くモデルさんの様なスタイルをしている。

唯一似ている所は髪の色くらいだろうか。

あまりにも綺麗過ぎて実感がわかなかった。

「あら、はる君。お客様なの?」

「ノア先輩のお母さんと妹さんだって」

「何をボーとしているの早く上がってもらいなさい」

姉ちゃんの動じない性格は誰譲なのだろう。

俺と早生の憧れの夏海さんが姉ちゃんの事を怖がっていた意味が判ったような気がした。


一言で言うと気まずいと言うかけつの座りが悪い。

リビングのテーブルには俺の横にノア先輩が座って俺の正面にはノア先輩お母さんと妹さんが座っている。

そして二人の視線は俺を見ている気がする。

そこに姉ちゃんがお茶を入れてきてくれた。

「どうぞ、粗茶ですけど」

「お構いなく」

「不躾ですけど今日はどのようなご用件で。あ、失礼しました。私は遥の姉の大森瀬戸香と申します」

「今日はノアの決断を聞きに参りました」

思わず姉ちゃんと顔を見合わせてしまう。ノア先輩の決断ってどういうことなのだろう。

「あの、ノアちゃんはここに残りたいのでは」

「この地に残留と言う選択肢はありません」

「選択肢は無いってそれじゃノアちゃんの決断の意味がないのでは」

「瀬戸香さん、もう良いんです」

ノア先輩の信じられない言葉で心が揺れ、昨日までの信念がグラついて今にも崩れそうになり。

姉ちゃんの顔がこわばっている。

「瀬戸香さんとはる君には本当の事を知って欲しいから」

「本当の事なんて」

「見てもらえれば判ると思います。ノルン、お願い」

「はい。ノアお姉様」


それは信じられない光景だった。

リビングにいた筈なのに俺と姉ちゃんは暗い夜の海峡大橋に立っていた。

しばらくするとライトを点けた車が走ってきた。

その車に見覚えがあった……

車はやがて橋の中ほどに止まり男の子と父親らしき人が下りてきた。

「あれってまさか父さんと俺なのか」

「そんな事あり得ないじゃない」

「でも、ここはあの日のあの場所だ」

あの夜の記憶が鮮明に蘇ってきて記憶と同じ事が目の前で起きている。

「パパ、写真を撮ってよ」

「それじゃ、遥が撮ってごらん」

父親からカメラを渡されて男の子が車道と歩道の間にある青いガードレールを乗り越えて、男の子が両手の人差し指と親指を使って四角形を作って切り取る景色を探してながら歩き始めた。

「遠くに行くなよ」

「うん」

男の子が振り返ると夜空に青白い光を発する物体が現れた。

「あれ、なんだろう。UFOかな? パパ!」

男の子が空を指さすと父親が空を見上げている。

すると光を発している物体の色が徐々にオレンジ色に変わり大きくなり車が光に包まれた。

男の子の体が爆風で吹き飛ばされガードレールに叩きつけられ。

まるで壊れた人形の様に海上に放りだされ落ちていく。

目に光は無く見開いたままで着ている洋服は真っ赤になっていく。

すると一筋の白い光が男の子の体を包み込んで球体になった。

その白い光の球体の周りを見覚えがある光の輪が回っている。

そして光の球の中に女の子の姿が浮かび上がり男の子にキスした。

光の球はゆっくりと海峡大橋の下にある島の浜辺に降りて行き、光が消えると不思議な事に男の子は胸のあたりが小さく上下していた。


我に返るとそこはリビングで。

目の前にはノア先輩のお母さんと妹さんが座っている。

俺の横でノア先輩が沈痛な表情をしていた。

姉ちゃんを見ると姉ちゃんの顔から血の気が引いている。

俺があの時死んでいたなんて俺自身でも信じられなかった。

するとノア先輩の妹のノルンが口を開いた。

「これが全てです。この事故でノアお姉様は裁判にかけられ2か月前まで収監されていたのです」

「2か月前ってそんなに長い間なのか?」

「はい、この様な物言いは気分を害されるかもしれませんがお許しください。地球人の生命を奪った事に関して罪に問われるような事は無かったのです。現に地球側は事故として処理しました。問題なのは遥様を蘇生してしまった事にあるのです」

「俺を生き返らせた為に罪に問われたのか……」

全身から力が抜けていく。

俺の所為でノア先輩が10年近く収監されていたなんて。

現にあの事故は隕石の衝突という事で片づけられている。

俺が生きている事だけがイレギュラーなのだろう。

「非礼をお許しください。本来なら娘のノアを地球に行かせること自体私どもの法に触れる事なのです」

「ノアちゃん達は宇宙人なの?」

「地球人から見ればそうかもしれません。私どもは銀河連邦の中にある小国の星を統治する立場なのです。連邦の取り決めにより地球の様な発達途上の星に干渉する事が厳しく制限されているのです」

ノア先輩の妹とお母さんの話を聞いてノア先輩が地球に残る選択肢が無い事は何となく判った。

それならばお母さん達と自分の星に帰れば良い事でその他に選択肢があるとは思えなかった。

すると突然、沈痛な表情をしていたノア先輩がお母さんに頭を下げた。

「お母様、ノルン。お願いです。私が地球に残る事をお許しください」

「お姉様。どうなされたんですか。賢明なお姉様らしくも無いですよ」

「ノルンちゃんで良いかな。ノア先輩っていったい」

「お姉様は連邦でもトップレベルの科学者です。幼い頃から頭脳明晰で銀河間を行き来できる船を造り、試験航海でトラブルがあり地球で事故を起こしてしまったのです。それに指揮者としても秀でていました」

ノルンちゃんの話を疑う訳ではないけれど俺が知っているノア先輩とあまりにもかけ離れたイメージで今一つ信じがたい物があった。

「ノルン、私は遥と出会って変わったの。前よりも弱くなり臆病になって決断する怖さを知ったの。でもそれは決して悪い事じゃないと思うの。だってとても大切な物を手に入れる事が出きたから。そして大切な物を守るためなら何でも出来る事を知ったの。だから遥とこの地球に居たいの」

「ノア、判りました。微力かもしれませんが私もノルンも力を貸しましょう。明日の夕方まで西の岬の海に居ますからね」

「お母様……ありがとう」

ノア先輩がそう言うとお母さんとノルンちゃんの姿が目の前から消えた。

まるで電気が消えたような感覚だった。

「ノアちゃん、お母さん達はどこに?」

「今のはただの立体画像です。お母さま達は母船に居ると思います」

目の前に居た2人が立体映像なら俺と姉ちゃんが体験した事故の事も納得が出来た。

俺等が知っている世界がちっぽけに感じる。

「ノア先輩が科学者で指揮者としても優秀だったなんてまだ信じられないな」

「うう、一目惚れで初恋だったんです。仕方ないじゃないですか」

「あら、はるちゃんも初めてよね」

「まぁ、そういう事になるかな」

姉ちゃんに改めて言われるとめちゃくちゃ照れくさい。

素知らぬ振りをするとノア先輩が俺のシャツを掴んだので勢いに任せてノア先輩にデコチューした。

「なんで私はおでこなんですか? 柚子先輩には海でキスしたくせに」

「あ、あの……何で知って。あっ」

鳥肌が立つくらいの殺気を感じた瞬間に姉ちゃんの腕が首に巻き付いた。

「浮気なんて言語道断。成敗してくれる」

「ギブ、ギブ。あれは不可抗力だって。ノア先輩もしもの時はもう一度」

「嫌です」

「ノー!」




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