第20話 実行
僕は、刹那をやめさせ、タオルを被せると階段を上がり、刹那の部屋へ向かい椅子に座らせた。
「どんな契約だったかは、聞かない」
刹那は、呆然としたまま、ただ身体だけが震えていた。
「刹那は今後、なんとかしようとか考えないで。例えアイツに脅されても。」
「でも・・・」
「もう、あそこにも行かなくていい。刹那はここで、この世界にいればいい。
近づきすぎたんだ、刹那は、明るい場所に。いや、踏み込んでる。だから、もういい」
「尚弥・・・」
「僕が守るから、必ず。刹那もこの世界も。汚れるのは僕だけでいい」
そう言うと、僕は刹那を落ち着かせ、寝かせた。
そして僕は、ある現場で一緒になった、人と会うことにした。
ダンスフロアで鳴り響く音楽、そこで待ち合わせしていた。
「ひさぶり。何度誘っても来ないくせに珍しいじゃん」
「そっちこそ、何年も連絡なかったから」
「あぁ・・・ちょっと少年院に送られててね」
「少年院?」
「麻薬の所持でね。ハハハ」
「笑い事かそれ・・・」
「それで、なんかようか?」
「バレないように手を下したい相手がいる」
「なに?殺人でもしちゃうの?」
「事故とかに見せられないか」
「まぁ、人ごみの駅で押すとか・・・」
「でも、電車乗らないんだよ」
「車か?なら部品外すとか・・・」
「それって簡単に実行できるのか?」
「防犯カメラの死角になる所にあれば、タイヤのネジを外せば、あとはそのままって感じだな」
「そうか・・・」
「協力してやろうか。」
「え?」
「俺、もう怖いものねぇし。いざとなったら、お前に守ってもらうし」
「マンションだから・・・うまくいくかわからない」
「どこのマンション?」
「品川のロイヤルマンションだ。あそこは、地下に駐車場があって誰もが入れない」
「ラッキーじゃん。俺の知り合いの兄さん、そこに住んでるんだよ。ホストしてて。」
「じゃぁ!」
「入るのは問題ないな、もし万が一捕まっても、その兄さんにいたずらを仕掛けたとか言えばいいんだから。」
「そうか。」
「で、誰の車なんだよ」
「相模辰巳」
「マジかよ。あの俳優の」
「アイツを懲らしめたい」
「こんな手で?」
「違う、死んでほしいくらいなんだ。・・・せめて、事故にあって動けなくなればって」
「それで満足できるのか?」
「満足にはならないけれど。動けなければ、近づけない人もいる。時間を稼ぎたい。それに、万が一、失敗したとしても、必ず出てくる奴がいるんだ。そいつを抑えたい」
「ふーん・・・まぁ。いいよ。俺が部品外すから。お前は、普通に過ごしてろ。アリバイつくるんだ」
「わかった。ありがとう」
そうして、奴を事故に遭わせる計画は進んでいった。
翌日。
相模が、マンションに帰宅している事を確認した。
そのことを、メールで伝える。
『奴が家に帰ってる』
『了解』
僕は、時間を気にしながら、ブティックにいた。
昨日から、刹那はベッドにこもったままだった。
刹那が元気でる唯一の方法をと思って、沢山の生地や部品を注文した。
珍しいモノを探したり、知人やスタイリストに聞いて集めた。
お昼頃、その生地や材料が宅配便で、到着した。
荷物を持ち螺旋階段を上がっていく。
「刹那、入るぞ」
その言葉にも返事はなかった。
「刹那、生地注文したんだ。あまり日本で手に入りにくいモノとか・・・珍しいものもあるんだ。」
刹那は少し、身体を起こした。」
「ちょっと見てみないか?」
「・・・うん」
か細い声だけれど、起き上がった。
「ちょっとまった。・・・服、ボロボロだから着替えたら?」
あの時、お風呂場できていて擦っていた服のままで、あちこち穴が空いてボロボロになっていた。
「あ・・・うん。着替えるね」
「下にいるから、声かけて。」
本当は、あの日相模と同じように。襲おうかと思ったくらいに血が上った。
相模の触ったところ、僕がかき消せればとか勝手なこと考えた。
でも、それは刹那の為にならないと思った。
守るという約束は破られてしまうとおもったんだ。
だから、今は刹那を守る為に・・・。
数時間後、メールが入った。
『無事、部品回収』
そうあって、少し安心したが、まだこれからだった。
その車に乗って、奴が、事故るかどうかは駆けだった。
刹那は、着替えが終わり、僕に声をかけると、僕は階段を上った。
「すごいね、この生地も・・・この生地も・・・」
「だろ?・・・新しいの作りたくなるような生地じゃないか?」
「・・・うん。でも、今は何も思い浮かばないんだ」
「・・・刹那?」
「大丈夫、ちょっとしたスランプだと思う」
相模のせいだと思うと、腹が立った。
つい、拳を握ってしまった。
刹那としばらく生地をみていると、
探偵からメールが入る。
『相模さん、出かけました。会社方向へ向かって行きました』
その事を知って、車を運転している事を知った。
願うように、事故れなんて、罰当たりでも。
強く思った。
しばらくして、探偵から連絡が入る。
『高速道路で、事故です。相模辰巳の車と思われます。』
そうメールを見ると、携帯で、TVをつけた
『速報です。高速道路で只今事故が起こった模様です。首都高の・・・』
確実だった。あとは、本人が生きているかどうかは、駆けだった。
『先ほどの高速道路のニュースですが、運転者は相模辰巳さんとの情報が入ってきました。救急車に運ばれたとのことです。繰り返します・・・』
そして、ニュースの続報を待った。
刹那は下に降りてきて、ニュースの内容に飛びついた
「相模・・・事故って聞こえた」
「あぁ、今、ニュースみたら速報で入ってた」
「尚弥・・・関わってないよね」
「・・・まさか。こんなの知らないよ。罰が当たったんじゃないか?」
「そっか。アクセサリーだけ、作ってみるね。」
「ゆっくりでいいからな」
そうして、刹那に誤魔化した。
探偵からはメールが入り
『相模さんは、意識はあるようです』
天は味方をしてくれたと思った。
きっと、このまま経てば、相模のもとにうちの母が現れる。
そう思った。それも小さな奇跡みたいなものだったけど
でも、黙ってないとも思った。
『サンキュー』
部品を外してくれて、うまくうやってくれた奴に、そうメールを送った。
あとは、母が出てくる事を待つだけで。
向こうが出るのは、犯人の特定だ。
そうなる前に、父に証拠を渡さなければと思った。
母が僕に探偵つけているように。相模も探偵つけてるように。
僕は、二重に探偵を雇ったんだ。
きっと、一人だとその探偵をまくように二人は動くから、そこにバレない探偵を雇った。
しばらくして、翌日には、ニュースのトップで『相模辰巳 事故』という記事が出た。
事故の原因は整備不良か。そうも出ていた。
相模は病院でしばらく入院になると探偵は伝えてきた。
『母が現れると思うので、注意してください」と投げかけた。
相変わらず、母は僕のことを探偵に追わせたが、母をわざとおびき寄せるようにブティックと仕事現場を行き来し、母の電話を無視し続けた。
相模のところに、母、恵美からメールが入る
「綺麗々さんと離したんではなかったの?」
「離したと思ったんですが、あれ以来、来なくなりまして・・・」
「契約できたと言ったでしょ。」
「すみません。ただまだ未成年なので。無理やりも限界が。」
「・・・そう、いいわ。私が話をしてみる」
そういうと、母は、ブティックへと向かった。
尚弥はちょうど、仕事に向かっている時だった。
刹那のもとに母恵美が、現れた。
母恵美の顔を見ると、刹那の表情は固くなった。
「まだ、ここを離れてないのね」
「すみません。まだ返せてない物もありますし」
「そんなのいいと言ったはずよ」
「お言葉ですが。ここは私の世界でもあります。・・・もしここから一刻も離れることをお望みでしたら、週刊誌の件も出してもらって構わないです」
「・・・随分な覚悟ね」
「はい。私は、相模さんとの約束は守ったので、出される必要はないと思いますが」
「そう・・・でもずっとはいられない。いさせないから」
そう言って。母恵美は出て行った。
尚弥は帰ってくると、一応お母さんが来たことを報告した
「大丈夫。そんな脅し気にしなくても。こっちにはもう証拠を握ったような物だ」
「そうなの?」
「任せといて。」
そう、誇らしげに尚弥は言った。
「刹那はこの世界で自由にしてればいいよ」
そう言うと、少し、微笑んでうなづいた。
僕らの権利で勝てると思っていたあの頃。
怖いなんて、何も感じてなかったんだ。
ただ、刹那を汚された復讐と。
その場でやられたらやり返す子供のような仕返しじみたことだと
思っていないまま、実行に移していたんだ。
大人・・・には所詮敵わないこと。僕らは全然考えていなくて。
自分らは、まだ強いと。
守られている分、勝てる方法はいくつもあると思っていた。
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