第19話 崩れていく物


刹那の稼いだお金と合わせて、僕らは相模の同行を探るために、探偵を雇うことにした。


「もう少しで契約の10着を作り終える。その後、何を言ってくるのか少し不安なんだ」


「わかってる。アイツのことだ。きっとそれ以上を望んでくると思う」


そう相談した僕ら。

母との現場を押さえればこっちも弱みを握れると思った。



僕は、仕事の帰り探偵と約束をした場所に向かった。

そこには、一人の男の人がいた。


目を合わせると、合図のがわかったかのように向こうも立ち上がった。


「探偵の杉崎です」


「依頼した木崎です。」


そう挨拶を切り出すと、母の写真と相模辰巳の写真をみせた


「この2人が密会している現場を押さえてください」


「わかりました。」


「おそらく、探偵にも気づいているので、そこをうまくしていただけますか」


「お任せ下さい、その辺はプロです」


「それと、もう一つ・・・」



そう言って、約束を交わすと僕はその場を後にしてブティックへ向かった。



尚弥の同行は全て探られていた。

探偵はずっとついていた。


メールでの報告が、母恵美に入る。


「尚弥さんが、男性と会いました。恐らく、探偵業者だと思います。」


そう写真とメールが届いた。


「その後、ブティックへ向かい、中で東郷綺麗々と会っていると思われます」



「わかりました。ご苦労様です」



そう送ると、


「まだ会ってるなんて、懲りないのね。相模さんに最終手段を出してもらわないと」


そう呟いた。

そして、相模に連絡を入れる。


『そろそろ最終的に動いてちょうだい。まだ会ってるみたいなの』


そうメールをいれた。


『そりゃ、なかなか離れないでしょう。任せてください』


そう返信を返した。



刹那は重い体をなんとか相模の会社まで運んでいた。

会社につくと、さっそく相模が寄ってきた。


「ちょっと話があるんだけどいいかな」


そういうと、会社の会議室へと連れて行かれた。



「もう少しで頼んだデザインが終わりそうだね。」


「はい、やっと開放されます」


「そうはいかないよ。まだ、君の世界を見せてもらってない」



「・・・どこまで」


「そうだなぁ。他の男と一緒にいると、君の世界がしれない気がするんだ」



「どうしろというのですか」


「あのブティックは君の中でメインになっている。もちろん、尚弥くんも。そうじゃなく、こっちをメインにして欲しい。」



「無理やりに手にした世界は私の世界ではなくあなたのです。

デザインも、あなたのもの。そこに私は少し加えているだけ。」



「僕は、覗きたいだけだからね、君の世界に加えているだけでいいんだ。そこに他の男性はいらないって言っている」



「私は拒否します。もし週刊誌の件を出すのでしたらご自由になさってください。」



「その強気は、君たちも僕らを探っているからでしょ」


「・・・ええ。」


「何が出るのか出ないかもしれない奇跡を頼るより僕の案件を飲んだほうがいいのでは?」


「いいえ。要求は飲みません」



「・・・一つだけ簡単な方法があるとしても?」



「なんですか。」



「僕と寝てよ」


「・・・っ・・・な・・・」


「君は行為でもいいと言ったんだ」


「それは、あの時、尚弥に過去の・・・」


「今だってその過去の邪魔を君がいるからしてると思わないかい?」


「・・・それは」


「君があのブティックに近づかず、こっちをメインにすれば何も、問題がなくなると思わないか?」



「・・・そうですね」



「それは良い返事なのかな」



「・・・はい」



そう返事をして唇を噛み締めた。



「じゃぁ、この日の夜・・・」



私はあのブティックを出て行くと決心したはずだったのに

いつの間にか、尚弥に守ってもらって、気がついたらまだ居座っている。


長居しすぎたから罰があたった。


これは、自分の罰だ。



せめて、尚弥を守ろうと。


あのブティックだけはなくさずに、私が行かなくても。

心は戻れるようにできればと



そう思って、私は要求をのんだ。



ブティックに戻ると、尚弥はいつものように迎えてくれた。



「アクセサリーのレビューがさ。高評価だよ。新しい新作期待してるって」


「うん、今作ってるから」


「・・・どうした?」


「大丈夫」


「・・・相模になんか言われた?」



「尚弥、ここに私が毎日来なくても、心だけでもここにいたい。ここだけは守っていたいの。この場所だけ」



「わかってるよ。だから、今探偵を・・・」



「敵わないよ。だから、私が守るね」



その意味がどういう事かはわからなかった。


翌日、刹那は相模と約束した時間近くになり準備をし始めた。

尚弥は、テレビの撮影で、昨日の夜から出かけている。



ブティックを見渡すとそこには、作り上げてきた世界の数々があった

ここは、もう尚弥と私の世界、誰も入れない2人の世界。


「ここは私が守る」



そう、決意を決めて相模と約束しているホテルへと向かった。



ホテルにつくと、事前に知らされていた部屋の番号の所まで向かった。


部屋をノックすると、すぐに相模がでてきた。


「いらっしゃい」


そういって出迎える。


「尚弥くんは一緒なわけないか」


「意地悪ですね」


「離れてもらわないと困るからね」


そう言うと相模が抱きついてきた。


「離してください。自分で脱ぎます」


相模の手を振りほどくと、着ているゴシックのワンピースのファスナーに手を伸ばし

ファスナーを下ろした。


相模のいやらしい目がこちらを向いている。その視線から逃げたかった。

でも、「怖い」と悟られるのが嫌で、手の震えを力いっぱい押さえた。


下着になり、その下着にも無表情を作り、脱いでいく。



全てを脱ぎ終わると、相模は我慢できないかのように近寄ってきた。


「もう触れていいでしょ?」


私は、その質問に答えることはなかった。


ただ。相模の手は獣のように貪り、身体を撫で回した。


視線を何度も合わせようとし、何度も唇を噛んできた。


涙が溢れそうになるのを必死でこらえ、無表情さを貫いた。


やがて、相模のモノは私の中をこじ開けるように入ってきた。



味わったことのない苦痛と、無理やりされている悲痛は耐え難いものだった。


痛みだけが続き、相手だけが満たされていく感覚。


目を瞑ることもできず。ただ呆然と、されるがままだった。


目を瞑ると、尚弥がいたから。


きっと、泣いてしまう。助けを求めてしまいそうだった、


それは、相模には興奮する材料となるのはわかっていたから。

無表情を貫いた。



事を経て、相模は、ワイングラスにワインを注ぎ飲み干す。

満足気にこちらを見ると、近寄ってきて、頭を撫でようとしてきた。


その手を振り払い、布団からでる。


服を着ると、「約束は守りましたから」


そう言って部屋を出た。


最初は早足だった、段々速度は上がって。気が付くと全速力で走ってた。


向かう先は2人の世界。


ドアを開けると、たった今帰ってきたかのように尚弥が立っていた。


「おう・・・TVの収録先でさ、街ブラロケで・・・裁縫屋さんがあって。そこにすごい布とかアクセサリーとか・・・」


私はそのいつもどおりの尚弥の姿を見て涙が溢れた。



「せ・・・刹那?ごめん、なんかあった?」



「・・・ごめん」




守ると強がっても、尚弥の顔を見てしまうと涙が溢れた。



私は、汚かった。汚れていた。



あいつの匂いがついた身体で会いたくなかった。



私は急いで、ブティックの奥にあるお風呂場に服のまま飛び込んだ。


そのまま、石鹸を何度も何度もつけて、身体を洗った。


何度もつけているのに石鹸の香りがしない。


アイツの匂いが身体から消えなかった。



尚弥は、泣きながらお風呂場へ向かった刹那を追おうとしたとき

探偵から、メールが入った。



『相模辰巳ですが、昨日夜21時頃から今朝にかけて女性とあってました』


そして写真を開くと、そこには刹那が写っていた。


「ホテルで・・・刹那と・・・」


嫌な予感がした。


泣いて帰ってきた刹那を思い出すと。


「ここは私が守る」


そう言った刹那を思い出すと。



僕は、刹那がいる風呂場へと向かった。



「刹那っ、・・・入るぞ」


強引だけど、ドアノブを回すと、鍵がかかってなかった。


そして風呂場を入ると。風呂場のドアを締めないまま、服がボロボロになってもこすって洗っていた刹那がいた。



「刹那っ、」


そう言って、手を取りやめさせようとした。


「離してっ・・・」



「何してるんだよっ」



「消えないの。アイツの匂い、汚いんだよ。汚れたんだよ」



泣きながらそういう、刹那にピンときた。


アイツに抱かれた。



「刹那、相模に・・・」



「私はこの世界を守ったんだ・・・でも最後まで堪えきれなかった」



「刹那、」



「尚弥の顔見ると、尚弥の前で泣いてしまった。」


そういう、刹那をそのまま抱きしめた。



「そんな事ない、汚れてない。刹那・・・」



僕が守るといったのに全然、守れてなかった。

結局、刹那を犠牲にしたんだ。



「ごめんな、刹那、ごめん」


そう言いながら、強く抱きしめた。



気づきあげた、2人の世界はいつの間にか、崩れていく。


守れていると思っても、守れていなくて。


僕らだけの力じゃなにも及ばなくて。


『この手を汚して』アイツを葬ろうと決意したんだ。


それは未熟で愚かだった。


だんだんと、音を立てて崩れて行こうとしたんだ。



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