第17話 歪む世界
仕事もままならぬまま、ブティックに慌てて向かった。
「刹那っ」
階段下から呼びかけるけど返事はなかった。
多分、アルバイトに行ったのだろう。
電話や、メールをしようとしたが、何を言ったらいいのかわからなかった。
『なぜあんな事を?』
いや、僕が聞く権利はない
『脅されたのか?』
いや・・・違う。そんな脅しでブレるような人じゃないことくらい知っている。
じゃぁ、何かを守るために。
「ブティック・・・」
きっとここを守るために条件を出されたんだ。
相模ならやりかねなかった。
だったら僕はどう、守れる?
「奴以上の財力と・・・名誉・・・」
違う、そんなんで勝てない。
「くそっ、どうすれば・・・」
刹那の過去、知るしかないのか。
そう思って、僕は鳴り続けた母からの電話を片付けたく、電話に出た
「はい」
「やっと出てくれた。まだ、ブティックにいるのね?」
「探偵でも雇ってるんでしょ。なら心配しないでください」
「週刊誌、見たの。あの子と一緒なの?」
「・・・刹那のことなぜ、あぁ探偵か」
「彼女は刹那さんじゃないのよ。」
「どういう意味ですか」
「家に来て。話すわ」
本当は刹那から聞きたかった。
だけど、こうなった以上・・・
そう思って、実家へ向かった。
アルバイト先では、いつもより違う雰囲気を感じた。
「ねぇ・・・東郷さん。週刊誌の・・・東郷さんよね?」
「週刊誌?なんの話ですか」
「これ・・・」
携帯を見せてもらうと、そこには【熱愛発覚 相模辰己】の文字に写真が写っていた。思い出したくないあの日のキスシーンがそのまま記録されていた。
「これ・・・なんで・・・」
「お店にも相模さん来たし。うちのブランドの服だからそうかなって、すごいね!相模さんと・・・」
週刊誌に載ったら、いつ身元がバレてもおかしくなかった。
「ハメられた。」
そういうと、アルバイト先を飛び出して、相模さんに連絡をした
「人目のつかないとこを用意して話を」
「週刊誌みたんだ。無理だと思うよ。今、追われてるし」
「週刊誌は困る。条件にはなかった」
「そうかな、僕はそれで目立っても。デザインが輝くと思うけど」
「ハメたんだな」
「ハメたなんて。受け入れてくれたのは君だよ」
身元が晒されるのは時間の問題だった。
すぐに、ブティックへ向かった。
尚弥には私から、話そう。そうすればきっと・・・
そんな甘いこと考えて。
実家へ向かった尚弥は入るなり、早々母親に話を切り出した。
「話してください。」
「あの人は、東郷綺麗々(きらら)。東郷美紀の娘よ。」
「あの、・・・あの事件のですか?」
「ええ。あの殺人犯の娘なの」
その事実を知ったとき、刹那が言った全てが蘇った。
『私が背負う十字架だから・・・』
『私は、スポットライトを浴びたくない・・・』
「それなのに、こうしたのも。結局暗いところを探して歩いていたのに明るい場所へ連れてきたのは僕だ。僕のせいだった」
「尚弥、あの子とはもう関わらないで。今でも東郷美紀から手紙もきてて」
「いや、確かに。姉さんが死んだのは事実だよ。加害者は刹那の母親でも、刹那は関係ない。」
「そうだけど、未だに手紙も来てるの。」
「許しを望んでるだけだろ」
「違うわ。脅されているの。あの人は最後まで、罪を認めていない。
今も、私たちのせいだと言っている」
「でも・・・あながち間違ってない。僕のせいだ」
「尚弥っ」
「僕は、彼女を守ります」
「お願い、尚弥、もう関わらないで」
泣きながら、母は足にすがりついた。
「2人の関係だって知ってた母さんも止める義務はあった。なのにあの時、母さんは2人の関係を見て見ぬふりしてただろ。今も、そうして欲しい」
「あの時、それで後悔したから、今止めてるの!」
「もう・・・遅いくらい関わってる。」
「尚弥っ」
その手を振り払って、僕は家を出た。
きっとこの事を僕に隠そうとして、言えなくて。相模に脅された。
守れるなら、どんな事実でも受け入れられる。
僕が、君の世界へ行きたいと願ったんだから。
僕は、息を切れるほど走って、ブティックへ向かった。
「刹那っ」
そこには、刹那が立っていた。
思わず、駆け寄り抱きしめた。
「な、尚弥?」
「刹那・・・刹那の口から聞きたいんだ。」
「聞いたのか?」
「あぁ、でも刹那から聞きたい。」
「わかったから、離して?」
そういうと急に恥ずかしくなり、刹那を話す。
2人目を合わせ戸惑うように目をそらした。
「私は、尚弥のお姉さん、凛さんを殺した母親の娘です」
僕はただ、黙ったまま続きを聞いた。
「母は、最初から異常だった・・・」
刹那から母が異常な愛で父親を愛していた事、探偵を雇って、2人の関係まで行き着いたこと。
そして、あの日の事件の当日と刹那の思い。
全て、聞いた。
僕は最初に、刹那に言った言葉
「ごめん。僕のせいで、明るい場所へと連れてきた事になった」
「ううん。それでもここだけは、この世界だけは何も変わらない。
私も自らそっちに行こうと、ここだけを守ろうと明るい世界へ行ったのかもしれない」
「とりあえず、事件のことは、刹那の母親がやったことで刹那の人生は刹那のものだと僕は思うんだ。」
「ありがとう」
「問題は相模だ。刹那は相模に僕とこの世界を邪魔されない為にあそこまでしたけれど。週刊誌に載った。詳しい身元も調べられて、事件が再浮上したら・・・」
「それが、相模の狙いだった」
「なら、その企みは僕の権力でもみ消す。刹那は何もしなくていい。むしろこのまま動いたら、刹那が注目を浴びるハメになる」
「そうか・・・」
「僕が、守る。やっと、守れるから」
「尚弥・・・ごめん」
「ごめんは聞きたくない。ありがとうでいいよ」
「でも考えていた、尚弥が行きたい世界は、尚弥のお姉さんの殺した娘の世界なんて」
「僕は、話をきいてそう思わない。出会ったとき。刹那の服装と、世界が見えた。
それが、そういう人生を歩んだからできた世界でも、刹那が作った世界には間違えないだろ?」
「それは・・・そうだが」
「それにこのブティックだって、刹那が全て作り上げた世界ではないか。」
「そう、だな。」
「その世界にいたいんだ。確かに、東郷美紀さんは許せない。でも、刹那は違うだろ?」
「ありがとう。私は、母と顔が似ているから。同じ人生だと思い込んでいた」
「こんな才能があってここまで動けてる時点で、刹那の人生は刹那だけで作られてるんだよ」
「ありがとう、ありがとう・・・尚弥」
そして、僕は実家へと向かった。
母さんの必要な、「刹那」への執着を払い除けながら、父の帰りを待った。
「おかえりなさい、あなた」
母さんが出迎えると、僕を見つけた父はため息をついて、
「今度はなんだ。何かあるんだろう」
そう悟ったように僕に投げかけた。
「あの事件のことで話があるんです。」
「私はない」
「今、ある男のせいで、あの事件が再浮上しようとしています」
そういうと、父は自分の部屋へ向かおうとしていた体をこちらへむけた
「どいうことだ」
「ある男が、東郷綺麗々さんのことを全て探偵を使って調べました。勿論それをしっているのは、僕のブティックの常連客だからです。」
「東郷綺麗々さんが、君のブティックの常連?なぜ拒否しない」
「最近知ったからです。それでも、一応お客様なので。それで、相模辰己という俳優兼、ファッションショップ経営の人です。その人が、過去のことを調べ綺麗々さんを脅しています。それだけでなく、僕らの事件までも調べて、それをまた週刊誌に再浮上させる気です」
「なんだって」
「なんてこと・・・」
母さんは口を抑えながら聞いていた。
「わかった・・・なんとか手を回してみよう。私も彼にあってみる」
「事件のことをまた書かれて再浮上されると父さんの事も今もさらされます。どうか、これだけは力を貸して頂いて、消してください」
「・・・わかった」
「ありがとうございます」
そうして、早速父は、行動に出た。
相模辰己との食事の席を用意した。
相模辰己は、その食事の席になに食わぬ顔で現れた。
「君が、相模辰己くんだね」
「政治家の木崎正人さんが僕に何の用ですか?」
「君の優秀さは有名でね。そんな優秀なのに、なぜ、過去の事件を公にしようとしているのかなと」
「あぁ、あの事件・・・あれには東郷綺麗々という、女性まぁ加害者の娘ですね。その人が欲しいので」
「欲しい?」
「彼女の作る世界は、とても素晴らしいものなので、僕はその才能を買い彼女の世界を欲しい、僕のものにしたくて」
「それで、なぜ彼女を晒し者にして過去の事件を掘り出す。」
「有名になるのには美味しい事件ではないですか。そんな子が作ったデザイン、そんな子が作る世界を売ってますなんて、炎上商法にもなる。話題にもね」
「・・・とりあえずだ。過去の事件は君のものでもないし東郷さんだけのものでもない。うちも被害者として関わっている。蒸し返されると、こちらにも被害があるということだ」
「まぁ、そうですね」
「選挙が迫る今、そういう件も困るし、二度と思い出したくもない。これ以上派手な事をするようなら法的処置を取ってもいいと思ってる」
「それは面倒くさいですねぇ」
「この件から身を引いてくれるか」
「身は引けないですが、配慮に努力はします。目立たないように動くか・・・せめて事件の件は蒸し返しませんよ」
「そうだと助かる。君が話のわかる人でよかった。今後共なにかあれば応援しよう」
「ありがとうございます」
尚弥の父は、彼のあざとく残虐さに呆れながらも念のため、秘書に彼の動向を探らせた。
「今後、彼が事件を掘り返そうとしたらすぐに動いてくれ。」
車の中で、秘書にそう伝えた。
「尚弥くんも鋭いなぁ」
そう相模は呟くと車に乗り込んだ。
「僕は僕の方法で、彼女を手に入れる」
そう一言囁いた。
メールで報告を受けたブティックにいる尚弥は刹那にも報告した。
「なんとか差し止めたって。」
「さすがは、政治家だな」
「まぁ・・・あまり嬉しくないけど」
「そうか。」
「今後、相模には関わらなくていい。何かあったら、僕にすぐ連絡して」
「わかった」
「後は、週刊誌の件も止めてくれると思うから」
「よかった」
ひとまずの安心だと思った。
段々と光は、ブティックをも照らすようになっていった。
その光に気が付く事なく、その世界だけは変わらないとばかり思っていた。
でも、少しづつ焦がしていく光は、刹那の作る闇の暗ささへも明るく照らしていく。
それに僕ら、気づかずに
ただ、大人のなすがままにしていた。
まだ僕ら18歳だった。
世界が歪んでいくことになんか、全然気づきもしなかったんだ。
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