第15話 2人の母
徹夜で作り続けた、アクセサリーや服は30点に及んだ。
いつの間にか、時間は次の日の昼の12時を回っていた。
今日は、バイトも休みで、行くところもない。
最近は、尚弥が持ってくる生地に頼らず、売上とバイト代で生地やパーツを購入している
それでも、尚弥が持ってくる生地やパーツなどの材料の品質には叶わなかった。
どれも眩しくて。綺麗で、届かない世界のような生地やパーツ達。
一番最後に作ったあのデザイン画を開いた。
尚弥と思い出や気持ちが詰まったデザイン。
それに手をかけた。
これを作ろうと決心した、君とはずっと一緒にもいられないのなら
せめて、君とここにいた思い出だけでもおいていきたいと。
このデザインができたら、出ていこう。
そう、決めて。
生地も、パーツも自分で集めたもので作り上げようと。
そんな事を考えているうちに、店の扉が開いた音が聞こえた。
しばらくして、下の作業場に物音がした。
尚弥が来たのだと確信した。
作った服とアクセサリーをホームページに出してもらう為に下へと持っていった。
「おはよう」
「おぅ、来てたんだ・・・てか泊まってた?」
「徹夜で作ったんだ」
「・・・身体壊すなよ。」
「平気だ。これ、ホームページに」
「そういえば、また男性ものの服が一着売れたんだ、女性ものより買いやすい値段なのか・・・でも安くはないのにな。」
「売れるに越したことはない。男性ものを中心にも作ってみるよ」
「あぁ、売れたのはこれと。後、アクセサリーのこれと、これな」
パソコンの画面を覗き込むと尚弥の存在が近すぎて、心臓の音が聞こえるんじゃないかというくらいだった。
「男性服・・・前と発送先同じだな」
「リピーターじゃないか?きっと一度買って凄く気に入ってさ、」
そう言って振り返った笑顔に心が苦しくなった。
一緒にいられない、今はいられるのに。
なんとか、この世界だけでも守れないだろうか。
私は、決意したんだ。過去を調べるもの、尚弥に過去を告げようとするものを排除しようと。
そしたらこの世界だけは守れるのだと。
全て、罪を重ねてやると。決めた。
その頃、尚弥の実家には毎日のように手紙が届くようになった。
あの時の事件を一語一句振り返るような内容、自分勝手な愛情の押し付けの言葉が並んでいた。
「もうおかしくなりそうです。」
母恵美は、父にそういった。
「今は、病棟にいるらしい。おかしくなっていると。手紙の件はやめてもらうよう通達した。」
「尚弥と一緒にいるからじゃないでしょうか。」
「尚弥は東郷さんの娘さんをしらない、だからそんなわけないよ」
「どこかで出会ったのかも知れないです。もしかしたら事件の事も」
「事件のことを話していたら許さないだろう、凛のことをかなりしたっていたからな」
「でも・・・」
「あまり考えすぎるんじゃない、気が持たないぞ」
「えぇ・・・」
そう言いながらも尚弥を心配した恵美は、父の留守中に探偵を呼んだ。
「息子の動向を調べて欲しいんです。後、この事件の、東郷さんの娘さんがいると聞きました。その子の事も調べて欲しいです」
「わかりました」
そうして探偵に尚弥の跡を追わせた。
最初は、モデルや俳優の仕事に関しての情報が多く上がった。
だが、毎日通うところが浮上した。
「毎日このブティックに顔を出してるみたいです。」
「そこは尚弥の作った所ですから」
「このブティックから、一人の女性も出入りしているのが確認してます。お客ではない感じでした。来るたびに、荷物のような物を持ち、数時間中に入っています。」
「数時間・・・」
「その女性が、この写真です」
そこに映っていたのはゴシックな服装を身にまとう女性だった。
ただ、顔を見るとすぐにわかった。
”あの女の娘だ”と。
顔が、とても似ていた。
「この女性、この子、東郷さんじゃありませんか?」
「そうです。東郷綺麗々(きらら)といいます。事件を起こした東郷美紀の娘です。」
「なっ・・・尚弥と一緒にいるのですか?」
「わかりません、ただブティックの中には数時間いるので中で一緒にいるのではないかと。ただ、2人で歩いたりしているのは見かけない為、確実とは言えません」
「どこなんですか、このブティックは」
「結構入り組んでるところにあります。地図もわかりづらいですが・・・」
そう言って、地図をもらった。
一方、病棟には看護師さんが、美紀の部屋へ訪れた。
「美紀さん、被害者の木崎さんから手紙と、もう送らないで欲しいとの事ですので」
「あらぁ。せっかく情報を色々あげたのに、つまらないわ。また、同じ目に会いたいのかしら。」
「美紀さん」
「これは警告よ。警告しているだけなのよ」
「それでも被害者の為にならないですよ」
「そう?あの家族は同じ事やってるのよ・・・きららを奪う気なの」
呆れた顔で看護師はその場を立ち去る。
手紙を開くと、
「あなたは加害者です。うちの娘を・・・。
そんなあなたから、脅迫じみた手紙を毎回毎回、来るたびに私はおかしくなりそうです。正直、迷惑です」
そう短い文章で綴られていた。
「おかしくなりそうですって、アハハハハっ。笑っちゃう。自由にくらしていて。何もかも奪ったくせにね。アハハ。」
高笑い続けながら、手紙を握りつぶした。
恵美は、何度も迷いながらブティックにたどり着いた。
ドアをゆっくりとあける。
誰もいない静かな空間に、ゴシックの服をまとったマネキンが数体並んでいる。
「すみません・・・」
そう声をかけたが誰かが来る気配もない。
「すみませんっ」
少し声を張り、呼びかけた。
すると、螺旋階段から駆け下りる音が聞こえた。
「お待たせしました。」
そこには、お店に並ぶようなゴシックの服を来た女性が立っていた。
その顔は、あの人と同じで、直ぐにわかった。
「あなたが、東郷きららさん?」
その言葉に彼女は驚いていた。
「なぜ、ご存知ですか。」
「ここで、あなたも働いているの?」
「いえ、私は服を作ってます。」
「じゃぁ・・・あなたのブティックなの?」
「いえ、」
「どういうこと。説明してちょうだいっ」
「近くのカフェで話しませんか。」
そう言うと、ブティックを後にし近くのカフェへ向かう。
席に着くなり、興奮しながら
「説明して。どういうこと」
と、言ってきた。
「まず、なぜ私の名前を知っているのですか。」
「調べたのよ。探偵使って」
「あなたがそこまでする理由はなんですか。」
「尚弥の母親だからよっ」
少し声を荒らげ、他のお客さんがこちらを見る。
「尚弥の・・・お母さん・・・」
「ええ。私は、尚弥のブティックだときいているの。説明してちょうだい」
「・・・私がデザインして、私の服を尚弥の作ったお店に置いているという形です」
「じゃぁ、あなたの為のブティックよね?」
「はい、尚弥がその為に作りました。」
「なんてこと・・・」
「許せないのは、私が殺人犯の娘だからですか」
「当たり前よ。あなたには近くにいて欲しくないわ。あの事件の傷も癒えてないし、忘れてもいないの」
「・・・でも尚弥とは約束があるんです。それにブティックの恩も返せてません」
「恩なんかいいわ。すぐに、離れて。」
「私のことは、尚弥に話しますか」
「話すわ。すぐにこんなこと、やめてもらうために」
「わかりました。話してください。それでも尚弥がこの世界・・・ブティックに残ること決めたら、邪魔しないでください」
「母親に似て 図々しいのね」
「なんとでも、言ってください。私は、恩をかえすまではここにいます。」
「いいわ、なんとしても尚弥だけは守りますので。」
「ご自由になさってください」
「聞くのもおぞましいけど。尚弥との恋愛関係はないのよね」
「・・・・さぁ?」
「本当に、呆れたわ、ここまで似てるなんて。」
本当は怖かった。
頭を下げて謝りたかった。
勿論、それだけじゃすまないけど。
でも、そうして変わることもない、結局はこの場所を守れずに私が去ることになる
だったら、強くいなければと思ったんだ。
これは、駆けだった。
もし、私のことを話して離れるならそれでいいと。
私からは、話す事ができないからいい機会だと思った。
これで、尚弥の運命が決まるのなら。
タイムリミットが近づいてる。
そんな中で私は、ただ作れるものを作るだけ。
勿論、そんな話を聞いたら要らないと。全てを手放されるかもしれない。
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