第14話 迫る記憶
刹那は黙々と作り続けた。
アクセサリーは、数点にもなり、服よりは手ごろな価格から結構売れていた。
ブティックに行っても顔をあまり合わせることなかった。
殆ど、会話はメールになっていた。
「この間売れたアクセサリー、発送準備できてる?」
「うん、テーブルの上にあるよ。」
「了解」
そんなやり取りが続いていた。
僕は、相変わらず、あんな事があってもマジェルタさんとの仕事を続けた。
マジェルタさんは普通で、何事もなかったように過ごしていた。
刹那の希望でもあるから、僕は我慢できた。
刹那は、服飾関係で仕事を始めたらしく、あまりブティックには来ない。
僕だけが、仕事を終わっても必ず向かっていた。
刹那は、尚弥との距離を置くために服飾関係で働くようになった。
勿論、サービス業で苦手ではあったが、尚弥と長くはいられない為に、その仕事を選んだ。
久しぶりに、おばさんの家へ帰宅し母との面会の件を相談した。
「明日の午後15時に予約を入れてあるわよ」
「ありがとうございます」
そうして次の日を迎えた。
母と会うのは、捕まった日以来
そこは警察の病棟だ。名前のチェックも荷物検査も厳しくほぼ、持ち込みは許されない。
そうして検問を終えて、母の病室へと案内された。
「こちらです。何かあると行けないので、付いています。それと。ここに来てから暴れているので、手縄をしてあります」
「・・・はい」
スライド式のドアがゆっくりと開く。
私は睨みつけるようにその姿を焼き付けた。
母はこちらをみるとすぐに不気味な笑顔で、名前を呼んだ。
「きららちゃん?私のきらら・・・」
「その名前で呼ばないで」
「どうして、とてもきれいな名前。私に似て。」
「異常者になってるのも演技なんでしょ」
「異常者?・・・誰が?私?・・・」
「他に誰がいるの」
「どうして?私は何も悪くないの。なのにあんな所に入れられて・・・ここからも早く出たいくらいよ」
「認めて。あんたは人を殺した。」
「あの時はね、私が襲われたの」
「違う。探偵使って、二人の部屋まで行っても父さんともみ合いになり刺した。そのナイフで・・・木崎凛さんを殺したじゃないかっ」
「うふふ、マスコミの話?はね、嘘を書くのよ」
「いい加減にしてよ、そのせいで、今も木崎さんは苦しんでる。自分のせいだっても思ってるんだ。」
「あら、会ってるの?・・・ご家族に?」
「いや・・・」
「それにしては随分肩入れしてるじゃない。・・・あの家にはあなたと同い年の子がいたわ」
「・・・」
「うふっ・・・もしかして、出会ったのね。どうなの?かっこよかった?」
「関係ないだろ」
「なんでだろう・・・お母さん、きららから良二さんと同じ匂いがするんだ」
「どういう意味?」
「きららも、あそこの家族に囚われて、お母さんを裏切るのぉ?」
「もう帰るから」
「好きになっちゃダメよ?」
不気味な微笑みをしながらそう問いかけた。
刹那が出て行くと、母は、引き出しから手紙を取り出した。
「木崎恵美様へ。
お元気でしょうか。うちの旦那がよく凛さんと親しかったみたいで
お世話になりまして。でも、親しくなりすぎたのよね。
母親として、止めるべきではなかったのかしら。
私の旦那なんですもの。
私は被害者なのに今は病院に閉じ込められているわ。
片手を手縄されながらね。
縛られるのには苦痛ではないわ。
ねぇ、恵美さん。
うちの人をまた奪おうとしているのね。
これ以上、取らないで下さる?
私の可愛い、可愛い、良二さんとの子なの。
あの子に何かあったら、私何するかわからないわ」
そう手紙にしたためて、封をし、手紙を託した。
その手紙は後日、尚弥のお母さんへと届けられた。
尚弥のお母さんは、その手紙をあけてしばらく目を通すと悲鳴に近いものがあがった。
「どうしたんだ」
その声に駆けつけた、お父さんは落ちていた手紙を拾い読んだ。
「どいうことだ、なぜあの女から手紙がくるんだ。」
「尚弥・・・尚弥が関わっているの?」
「確か、向こうには尚弥と同じくらいの子がいたな」
「その子と一緒にいるってこと?」
「・・・キツく言わなければ」
「電話してきます」
-プルルルル
尚弥へと電話をかける母には焦りがあった
「はい」
「尚弥?」
「どうしたんですか」
「今どこにいるの?誰といるの?」
「今、ブティックに一人でいますけど」
「そのブティックは一人でやってるの?」
「・・・はい」
「尚弥、一度お話しましょ」
「僕には話すことはありません」
「尚弥っ・・・東郷さんは一緒じゃないわよね」
「東郷・・・って」
「あの事件の東郷よ」
「あの人は刑務所だろ。一緒にいるわけないですが」
「あの東郷さんのところにあなたと同じくらいの娘さんがいるの。その人と一緒じゃないでしょう?」
「顔も合わせたことないのに、一緒にいるわけないですよ。考えすぎです。・・・まだ引きずってるんですか。それともまだ、僕を疑ってるんですか」
「違うわ・・・一緒じゃなきゃいいの。あの家とは関わらないで」
「僕は最初から関わってない」
「そう・・・でもねっ」
-ガシャっ
急な電話にイライラが募った。
あの家の人間は今もまだ、僕のせいだと追い詰めている。
あの日、姉さんに会いに行かせた。
そんなことしなければって今も攻めている。
東郷良二さん。姉さんの恋人で親父の前で名前を出すと嫌われていた。
あの日。
「東郷良二です・・・その木崎凛さんの携帯電話が繋がらなくて。どうしても必要な物を持って行ってしまったんだ、届けて欲しいと伝えてくれるかな・・・住所は
」
そんな電話を受けて、帰ってきた姉さんに伝えた
「そうなの?大変・・・もって帰ってきちゃったんだ・・・でもお父さんとお母さんにはなんて言おう」
「大丈夫、大学の急用ができてってうまく言っとくよ。会ってきて」
「ありがとう」
「姉さん、姉さんは、その人を愛してるの?」
「うん。とてもね。」
「やめたほうがいいってお父さんが言っても?」
「それでやめられたら、恋愛じゃないしその人と出会った事自体否定されているじゃない」
「でも、許されない恋はかなわないんじゃないの?」
「それを許されなくても、二人同じ気持ちで同じ世界に入れることでも幸せってあるんだよ」
「・・・わかった、いってらっしゃい」
「行ってきます」
それが最後の会話だった。
同じ世界で生きるだけ幸せだとわからなかった事、今なら凄くわかるんだ。
それだけでよかった。
僕も、ただ、その世界で一緒にいたかっただけだ。
刹那は、病院から出てしばらく大通りを歩いていた。
呆然と、ただただ歩いた。
-ピピッ
クラクションがなる。
自分が邪魔してたのかと思い、道の端によけて少し止まった。
すると車から慌てて下りてきたひとりの男性。
「前、パーティーにいた子だよね?あとこないだのファッションショー」
私はキョトンとしていたが、その余りにも覚えやすい絵に書いたようなイケメンを強調している顔で思い出した。
尚弥のパーティーに連れて行かれたとき、話しかけられた男性だった。
「あぁ・・・でもなんで。。」
「服装違ってもわかるよ、それにファッションショーでは目立ってたしね」
「なんの御用でしょうか」
「ファッションショー、ずっと気になってたんだ。最後に出た衣装。あれは君のデザインしたやつだったりする?」
「・・・っなんで」
「やっぱりね。マジェルタはそうやって上がってきた人間だ。未発表や学生の未公表のデザインを盗んでは自分のモノにして今の地位を手に入れている」
「・・・だからなんですか」
「訴えないの?」
「あれはマジェルタさんにあげたんです。」
「だから、自分のブランドを犠牲にしてもいいと」
「犠牲ではないですけど。元々、公認する気もないので」
「なぜ、そんなに公に出るのを拒む?」
「私は、スポットライトを浴びたくないだけです」
「それじゃ、一生登れないよ」
「それでいいんです」
「変わった子だな」
「失礼します」
「ますます興味わいてきた」
そうつぶやいたのは聞こえたが、無視をして足早に歩いた。
結局、ブティックに戻ってきてしまった。
いつのまにか居場所になっていたから。
「ただ、在庫とか確認するだけ」
そう自分に言い聞かせて、入っていた。
下の階で、長椅子に横たわる尚弥の姿が目に飛び込んだ。
-ガチャ
扉の締まる音に、尚弥が起き上がった
「刹那っ、やっと会えたな」
その言葉に少し胸が跳ねる
「在庫確認しにきただけ」
「アクセサリー、3点と男性物の服売れたんだ」
「そっか、じゃぁ包まなきゃいけないな」
尚弥はふと、さっきの電話のことを思い出す。
なぜ、母は東郷という人と一緒にいると思ったのだろうか。
「刹那・・・東郷って人知ってる?」
その質問に思わず目を見開いて尚弥をみた
「刹那?」
「あっ・・・いや・・・」
「だよなぁ」
「どうしたんだ?」
「家から連絡があって、東郷って人と一緒にいるんじゃないかって」
「・・・お母さん方はなんでそう疑ったんだ」
「さぁ・・・急に電話かかってきて聞かれただけだから」
「・・・そうか」
そばにいられない時間がこんなに迫っているなんて思わなかった。
尚弥に知られるのも時間の問題で。
隠し通せるものでもない。
「何着か泊りで作って行くから・・・」
「僕は明日早いから帰るよ。会えてよかった」
そんな優しい言葉言わないで欲しい
どうしていいかわからない、ただただ、重圧が増えるだけで
心も苦しいんだ。
ねぇ、尚弥どうしたらいい。
君に世界へ連れて行くと約束したのだから全て話して
元の場所へお互いに戻ったほうがいいのだろう。
でも、この場所を作ってくれて、こんなにもしてくれている君を
相当裏切ることになってしまうんだろう
君のそばにいたいって事も
罪でしかなくなった今、私にできることだけしようと思って。
ひたすら、君への恩を返すために服を作り続けている。
その時間だけ、罪を償っている時間としてくれないだろうか。
せめて、できることなんだ。
もう少しだけ、償わせてください。
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