第13話 刹那という人間
母は、父一筋だった。
出会いは大学の頃。一つ上の先輩で、同じ講義を取っていた。
母側の一目惚れだった。
というのも母の強引な、一方的恋愛だった。
見かねた父は、一時的に付き合った。母は、その”一時的”を”永遠”と勘違いしながら
しつこさは付き合っても続いていた。聞く耳を持たなくても、口数が少なくても
教授として働いていた父が家に帰らなくても【愛されている】と思い続けた。
私が産み落とされてからも、幼い私に父が好きだと、どれだけ愛されているかと
ずっと聞かされて育った。
「良二さんはね、私のこと大好きだから、仕事も一生懸命してくれてるの」
「良二さんはね、私のこと大好きだから、話も沢山聞いてくれるの」
「良二さんはね・・・」
聞きたくなかった。そんな愛が嘘だと、幼い私でもわかる程、
父は家に帰らず、たまに帰っても素っ気無かった。
母の顔に似た、私の顔を父は好まなかった。
だから、私の事を「可愛がってくれている」なんて事、一度も感じたこと無いくらいで。
結婚式の写真以降の写真は、棚の上に増えることはなかった。
しばらくして、父から告げられた【離婚】に母は、応じなかった。
その紙を突きつけられたことに、束縛や監視が増えていった。
毎日のように電話をかける母。
毎日のように、大学へ向かう母。
小学生になった私が、学校の行事のことを話しても、聞く耳を持たなかった。
ほどなくして、母は、探偵を雇った。
父の行動を逐一、報告しに探偵のおじさんが家を出入りするようになった。
テーブルの上には、父が写る写真が何枚も置かれていた。
その中に数枚、女性と写った物があった。
容姿端麗で、母とは真逆の性格そうな感じの人だった。
母はその写真を握りつぶした。
「この女の全てを調べて」
母は探偵に一言、そういった。
離婚に応じない母から、裁判所の通知がきて、裁判へと足を運ぶようになった。
「子供も、良二さんが大好きで離れたくない、別れたくないって」
「子供の為にもならないです。別れたくない」
そんな時に利用されるばかりで、私はこの家庭に存在しているようでいないようだった。
そして、事件が起こった。
父と写っていた女性を調べた母が、父と会っている部屋へ向かった。
そこで、父と言い合いになり、自分が死ぬと叫んだ母はナイフを取り出した。
父はそれを止めてもみ合いの末、そのナイフは父に刺さる。
そこに帰ってきた、女性を見た母は、父の胸に刺さったナイフを抜き
メッタ刺しにしたという。
後で、新聞生地や週刊誌で読んだものだった。
女性は、顔、身体、手、足、の複数箇所を数回も刺されていたという。
裁判で、母は「私の旦那なのに、私は愛されてたのに。旦那は無理やりすまされていた。監禁も同様」と。
「私を旦那は裏切らないのに、あの女が入ってきて私を襲ってきたのを良二さんはかばったのだ」
と、一方的な言い分を重ねた。
「頭のおかしい母親をもつ子」
「気持ち悪い女の子供」
「殺人犯の娘」
として指を指されながら生きなきゃならなくなった私は、ゴシックの世界と出会った。
包帯や眼帯、血を流すことが美しく、自傷行為が許される世界を知った。
最初は、ストレスから自分を傷つけた。
そこに、包帯を巻き、滲んだ血は模様だった。
その姿、眼帯、そして黒い服を身にまとうようになり、お金がないから自分で服をつなぎ合わせて自分の身を守る服を作っていった。
学校の人間は、段々近寄らなくなり、恐るようになった。
それが、自分の戦闘服になっていた。
母の実刑が決まり、養護施設に移され、間もなくしてすぐに里親が決まった。
母親の供述を読み、全てを書かれた週刊誌を読んでいたという。
それでも子供に罪はないと、引き取ってくれた。
数名、記者が訪ねてきて母親について聞かれる日々も守ってくれた人だった。
今も消えない、フラッシュの光、スポットライトは。
母親が殺人鬼としてマスコミに取り上げられたときに浴びた世界だった。
高校に上がると同時に、少し離れた高校へ行くことを許可してくれ、援助をしてくれた。1Rを借りて頻繁に、掃除や家事にも来てくれた。
私には、好きなことをさせてくれた。そのお礼に私はバイトをしながら少しづつお金を渡したが受け取ってくれることはなかった。
時々、刑務所にいる母との手紙のやり取りをしていたみたいで、状況を伝えていた
でも、母から帰ってくるのは父の事ばかりだったと、後で聞いた。
そんな、人生を過ごしてきた。
君に出会うまでは、ひとりきりだった
君に出会って、一人じゃなかったのに。
君のお姉さんを殺した母の娘の私が、君に頼って世界を作って、私の世界へと連れて行くなんて。
こんな、残酷なこと・・・ない。
返しきれない、君への恩は世界へと連れて行く事だけだったけど。
それは、ただの罪で。
君のそばにいられる人間ではない。
「姉さんのこと、知ってるの?」
「・・・あ、いや。似た名前を聞いたんだ」
「多分、ニュースとかでだろ?あの事件はしばらく取り上げられていた」
「そう・・・だと思う」
-被害者女性の木崎凛さんは、同じ大学の生徒として・・・
-まだ若くして亡くなった木崎凛さん・・・
あの頃、耳にしたニュースの名前は今もはっきり覚えてる。
「お姉さんは、なぜその人と一緒に?」
私がしらない事実はそこだけだった。
どこまで、二人が愛してたのか。
「一緒に海外へいくみたいだった。僕の父も反対していたんだ。同じ政界にはいって欲しくて。でも姉さんは、その教授が教えていた骨董学とか芸術の道に興味があって一緒に研究しにいくって聞いていた」
「出会いを知っている?」
「あぁ、元々・・・高校の教員だったらしいんだ、その教授が。姉さんはその教え子でさ、やたらと姉さんが、その先生に影響受けて聞きに行ったりするから、教え方が問題だとか難癖つけて、うちの親父が辞めさせたんだ。それで大学で再会したらしいんだ」
「だったら、お互いの絆も愛も深い・・・」
「でも、良かったのかわからないんだ。結果が結果なだけにさ。
今もその事で、僕があの日、姉さんを行かせたようなもんなんだ。
教授から家に電話があって、でも姉さんは親父と母さんと用事があったんだけど
いっていいよ、僕が代わりに伝えとくからって、変な気つかってさ。
だから、今でも親父は僕を責めてるし母さんもどこか、ぼくのせいだって思ってるんだ」
「そんな・・・」
「姉さん、優秀だったし。母さんも姉さんのこと大好きだったから」
そんな家族を壊したんだ・・・
尚弥のせいじゃない。
「尚弥のせいじゃないよ」
「ありがとう」
どうしたらいい、このままで居るわけにいかない。
でもせめて、恩を返すまで一緒にいたいのは私のわがままだ。
何も言わずに、去るしかないんだろう。
だったら、全てを預けて去ろう。
「私が少しの間、ここに来なくても、ここに居てくれる?」
「なんで?どういう意味?」
「・・・バイトとか、勉強したくて・・・服の」
「そっか、全然いいよ。ここにいいるよ。ここが僕らの世界だから」
「ごめんね」
「なんで?」
「うん・・・」
今のデザインと他の男性のデザイン服を作って、アクセサリーも揃えたら
ここを去ろう。
君に恩を返せるのは、それしかなくて。
それまでは一緒にいる罪を・・・少しの時間を許してなんて。
大きなわがまま、ねだったんだ。
初めて神様に。
憎んだ、この明るい空に。
「お願いします」なんて言ってねだった。
きっと、罰があたったんだ。
いつまでも隠せないって事、太陽はどんな隙間も照らして焦がすこと
教えられたんだ。
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