第12話 裏切り
ボロボロになっていた私にいい報告をくれたのは、尚弥だった。
仕事終わりに、ブティックに寄って生地やアクセサリーを作る材料を持ってきてくれたと同時に
「刹那、いい報告がある」
そう切り出してくれた。
私は、さっきまでの悔しさなどなかったように、気づかれないよう顔を散らかった歯切れで脱ぐつた。
「いい報告?」
「ああ、凄くいい報告」
そういって尚弥は、刹那の顔を見ると、歯切れで拭ったであろう顔に赤や黒で汚れが付いていた。
「・・・刹那、鏡みて顔洗ってきたほうがいいよ」
「・・・?」
そう言われて、鏡を覗くと、歯切れについていた、チャコペンの赤や黒の色が顔のあちこちに付いていた。
「ごめん、顔洗ってくる」
慌てながら、階段を下りていく。
そんな、仕草を愛しく思いながら、テーブルに生地を広げてあげた。
今日、もらった生地は結構上質な物で。着物と融合してゴシックなデザインファッションや衣装を手がけている方が、余った布ならと分けてくれた。
着物に使われるデザインから柄にこだわった物まで、沢山譲ってくれた。
それと引き換えに、刹那のデザインを見てもらっている。
夢への投資として、生地をもらっている。
そんな風に生地をもらう度に、親切心や人の優しさを感じていた。
「ごめん、お待たせ。いい報告って?」
「ああ、ホームページで販売していた服がもう一着売れたんだ。」
「え、あの・・・32万円の?」
「そう!・・・届け先は普通の住所、一般宅になっているから。新しい客がついたって事だな」
「やった・・・。アクセサリーはまだ、5点しかないけど作ったんだ。」
テーブルに並べられたアクセサリーはどれも、新鮮で斬新なデザインだった。
その中に2点、刹那が作る物とは違うような可愛らしいものもあった。
「この2つだけ、ジャンルが可愛い系じゃないか?」
「これは、少し売れるように考えてみたというか・・・可愛いと思われるものでもつくらないと目に止まらないかと」
「無理して作らなくても。刹那の世界を作ればい」
「うん、その。せっかく2人で作ったブランド名なんだ。だから明るい物も作った方がいいというか。」
刹那が言いたいことがわかって、少し照れた。
僕を想像、モチーフにしてくれたものを、取り入れてくれたんだと。
「その、ありがとう」
「・・・うん」
「じゃぁこれ、写真とって早速ホームページに出さないとな」
「うん、お願い。これ・・・この生地・・・」
「あぁ、今日もらったんだ。着物のデザインと融合しているゴシックのブランドあるだろ?」
「知ってる!このブランドには、和が取り入れられているのにどこか異世界感もあって・・・」
必死で語る刹那に、ただただ、自分がしたことを浸っていた。
「しゃべりすぎた、ごめん。このアクセサリーの材料もか?」
「そう、ちょっと形が悪いものとか、一度衣装につけたけどやっぱり見栄え上でいらなくなって外したりした物なんだって」
「それでも、上質なものだ・・・勿体無いくらい。でもどう使おうかも楽しみ・・・」
「じゃぁ、僕は下で、写真撮って上げてくるよ。」
そう言って階段を降りていく。
しばらく刹那は、持ってきた生地やアクセサリーの材料を引っ張り出して一つ一つを丁寧にみていた。
しばらくして、刹那が階段から降りてくると
「あの、注文があった32万の服。こんなふうに包んでみたんだ」
そこには、黒のレースがついた箱に布地でわざわざ作られた袋に綺麗にたたまれた服が入っていた。
「これは、届いたら喜ぶな」
「ここに、ブランド名の刺繍を入れておいたんだ。箱には、手書きだけど」
布の袋に刺繍のブランド名。それだけでもずっと使いたくなるような袋に贅沢に収められた服。
「じゃぁ早速発送しよう。・・・それとアクセサリーこんな感じでいいかな」
「うん、写真上手くなってる。」
最初は、刹那の世界観を入れながらの商品写真を撮るのに凄く苦労した。
毎回、違うと否定され、刹那のデザインの手をとめてまで、仕込まれた撮影方法は上達していた。
「じゃあこれで、商品公開するな」
「次も作らなきゃ!」
そういって、階段を駆け上がるように登っていく刹那
2人の空間は誰にも邪魔されないものでできていると、
このまま一生こんな風に続くと思っていたんだ。
ある日、デザイナーたちが新作を発表するシーズン。
モデルの仕事をしているとカタログや、そのようなファッションショーに呼ばれる。
「刹那、マジェルタさんのファッションショーに行かないか?」
「えっ・・・」
「やっぱ、眩しい世界だから行きたくない・・・よな」
「いや、・・・行きたい」
「お、おう。わかった。明後日の15時からで・・・」
刹那がスポットライトのある眩しい世界へと出で行くとは思わなかった。
ただ、以前買ってくれたお礼も込めて行こうと言ってくれているんだと思った。
「何か、お礼の品とか持っていった方がいいのだろうか」
「いや、顔をだしてくれただけでお礼だと思うよ」
そう交わして、僕らはその後、ブティックでいつもの様のに作業をし合った。
その夜、撮影が入っていて、マジェルタさんの新作の衣装の打ち合わせも兼ねていた。
マジェルタさんは、なぜか僕の目を見つめてくれなかったが、「忙しい」という事だと言い聞かせていたが、なぜか不自然な感じがした。
翌日、マジェルタさんのファッションショー。
刹那は、着る服に迷い勤しんでいた。
「刹那、もうそろそろでないと・・・」
「今行く!」
そう声をかけ、螺旋階段から下りてきた刹那はいつもよりおめかしをしたような感じがした。ただ、服装はゴシックだけれど、スカートの裾に丸みがあるようなレースが付いたゴシックの中でも女性らしい服装だった。
「どこか・・・変か?」
「いや、女の子らしさのあるゴシック系だなと」
「今日は、私の世界ではないから・・・気遣い」
あたふためきながら、そう言った。
入口には黒いレースと組み合わされた、バラの花飾り。
招待状を受付に渡すと、中へと進む。
結婚式会場を借りたマジェルタさんのファッションショー会場。
そこを妖艶で、黒くゴシックなマジェルタさんの世界へと染め上げられていた。
「凄い、凄い・・・」
刹那は会場の風景に興奮を抑えきれていなかった。
「さすがだ、マジェルタさん、凄い」
「そうだな、」
「私のブティックはまだまだだった」
「刹那は刹那の世界でいいんだよ」
そういうと。目をすぐに逸らし、また会場をみながら「凄い」を何度も連呼していた。
「刹那、そろそろ会場入るぞ」
そう呼びかけると、小走りに向かってきた。
会場のドアを開けると、ここが結婚式場だと言うことがわからないくらい
マジェルタさんの世界が広がっていた。
黒のレースや切れ端のようなものが壁一面を覆い、キャンドルは床を敷き詰めていた。
赤いカーペットだけが妖艶にキャンドルのライトと合わさり、光っている。
まるで、一つの物語の世界に飛び込んだ空間はそこには広がっていた。
スポットライトがある眩しい世界なのにどこか、居心地がよかった。
唯一客席を照らされていたライトが消えると、妖艶でおどろおどろしい曲が流れた。
刹那は背筋を伸ばし、肩に力が入りながら、みていた。
最初の衣装が登場すると、マジェルタさんの作品はそれに続いて、続々と出てきた。
どれも斬新で、刹那とはまた違う世界観。
素人目でも素晴らしく美しい。
白を強調されたものが多く、白生地にダメージ加工されていたり男性衣装が多く
サルエルパンツのものやカーゴパンツにぐるぐると巻きつけられたベルト。
機械仕掛けのような衣装もあった。
40分間、30人近くのモデルがあるいた。
メインが始まると、会場の照明の色が変化した。
その年に発売される、一番高額な目玉商品と言ったところだろうか。
ウエディングドレスや、特別な豪華デザインが数点紹介される最後のフィナーレ。
一つ目、二つ目は男性用だった。
長い燕尾服のような形に覗かせる白いフリルがあしらわれたシャツ、コルセットはダメージ加工にされていて、ムチのような紐が体を覆っていた。
そんな、斬新なデザインが次々と披露され魅了されていった。
刹那はどれも、目を輝かせてみていた。
「最後の衣装です。」
そのアナウンスで登場して最後の衣装
その衣装に、僕ら目を疑ったんだ。
だってその衣装は、紛れもなく、刹那のデザインした。
あの日、マジェルタさんが購入した衣装だった
刹那は、「え・・・」と一言だけ囁き、その衣装を上から下まで見間違えたかのように何度も確認していた。
僕は声がでなかった。
いや、わかってたのかもしれなかった。
これがこの世界の汚い部分で。
これがこの世界の当たり前で。
僕たちは、会場にライトが当てられ、皆が席を立ち移動し始めてもしばらくの間立つことができなかった。
ようやく立てた頃周りには、人がいなくなっていて。会場の片付けに入ってきたスタッフに声をかけられてからだった。
僕は、刹那に声を掛けることなく、早足で、マジェルタさんの控え室へと向かっていた。
刹那は、その後を追った。
「マジェルタさん!・・・マジェルタさんっ」
控え室近くで叫ぶ。
すると何食わぬ顔でマジェルタさんが出てきた。
「あら、来ていたの?どうぞ・・・刹那さんも」
「いや、刹那はここで待ってて」
「私も行く」
ただ単と刹那がそう言うから、僕と刹那でマジェルタさんの控え室にはいった。
前置きもなく僕は突き詰めた。
「あれは、あの最後のは刹那の作品です」
「あら・・・私が買い取ったものよ。あなた方は公の場で未発表の品でしょ?」
「そうですが、自分のデザインとして出すのは・・・」
「広めて上げたじゃない。その分、売れたときは報酬ははずむわ」
「信じてたのに」
「信じる?この業界、先に出したもの、やったもの勝ちじゃない。甘いのよ」
「マジェルタさんっ・・・」
「尚弥・・・」
刹那はただ、僕の名前を呼んだ
「わかってる。尚弥、大丈夫。マジェルタさんにあげたものです。購入もしてもらったので。なので、好きにしていただいて構いません。逆に、すみませんでした。」
「刹那っ」
僕は、刹那が身を引こうとしたのがわかった
「わかればいいのよ。こういう世界なのだから、支援して上げた分、報酬として頂いた。お互い損はないでしょ?」
「はい、失礼しました」
その刹那の対応に僕は何も言えなかった。
ブティックに戻るまで、何も話さなかった。
ブティックに入るとスイッチが入ったかのように刹那を攻めた。
「なんであんな事、刹那のデザインだろ?マジェルタさんは自分のだと。ファッションショーに出したんだぞ」
「知ってる」
「じゃぁなんで、黙ってる。自分のデザインを消し去ったんだぞ」
「尚弥、私は太陽を浴びたくないといったはずだ。」
「・・・そうだけど」
「今後もそういう事はない。今回の件は最初はびっくりした。でも、マジェルタさんの言うとおりだ。私のデザインは公では未発表だ。公認してるものじゃない。
公認しようと思わない。だから、どこかで誰かのものとなっても構わない」
「損するぞ。自分が」
「いいんだ。それでも誰かに届いて、誰かに着たり勇気をあげれれば。
有名になりたいわけじゃないからな」
「・・・そうか。」
そうだった。確かに、マジェルタさんを訴えればスポットライトがあたる。
注目の的になり、ブランドとしても知名度が上がっていったり・・・。
そんなの最初から望んでなかったことわかってた。
でもただ、刹那のデザインだと。それであって欲しいということが僕の考えは
既に汚れていたという事なのだろうか。
それ以上を望んだから、僕はマジェルタさんに詰め寄った。
刹那を無理やり、自分の世界へ引っ張ろうとしていた。
ここだけの世界で十分だったのに。
僕は、生まれつきの金持ちだった・・・
「ごめん」
「いや、でもやはり眩しい世界だな。眩しくて、不透明で・・・濁ったように汚い」
「そうだな、僕もまだ、それが残っていた。刹那の世界に行ききれてないんだ」
「人間としては正解のリアクションだ」
「刹那は、悔しくはない?」
「悔しいって言葉はある。良くしてくれた人が寝返るのは慣れてる。」
そうだ。正そうとした。あの時も正そうとして、姉さんはそばを離れた。
「同じ過ちするとこだった」
「同じ?」
「姉さん・・・にも正そうとしたんだ。僕は、そんな恋愛間違えてるって、相手に騙されてるって、目を覚ませってな」
「お姉さん、間違ったのか?」
「わからない。それが姉さんの世界だったのかもしれない。でも、間違えてましたって言ってくれると思ったんだ。」
「お姉さん、今幸せなのか?」
「・・・いや、死んだんだ」
「え・・・」
「今でも、違ったって思ってる。姉さんの選んだ道。だって、結果がこうなったんだ。」
「なんで・・・その、亡くなった?恋愛で・・・って」
「不倫だったんだ。それでも一緒になるって、相手の男の人が一緒に暮らしてくれるって言ってくれたとかで」
「・・・尚弥、姉さんの名前聞いていいか」
「凛だけど、」
「木崎・・・凛さん・・・」
それは、紛れもなく複雑な事実だ。
尚弥のお姉さん、凛さんを殺したのは
私の母親だ・・・。
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