第10話 2人の心
その日、尚弥から見せてもらった写真には、大きな窓辺、キレイなマネキンにかかった童話の一つをデザインしたあのゴシックの服
それはマジェルタさんの部屋の一部だった。
陽のあたる日差しに照らされ「キレイだ」と「美しい」と眩しい言葉で埋め尽くされた文章と眩しいほど飾られた私がデザインした服
「マジェルタさん、相当嬉しいみたいでさ、後輩とかにも見せてるんだって」
「そうなんだ」
”ここの服は、眩しい舞台に立つ人たちへの衣装”
そうあの子と話していた事が、目の前でまた再確認させられた。
「僕さ。勝手な考えかもしれないけど。この世界作って、その中に刹那の世界があって。このやり方、やっぱ金持ちの特権だったかなぁ。刹那の世界を金で買ったのかなっておもった。でもさ、不透明な世界に導いてくれてる僅かな光があるんだって思うと、初めてさ、生きてる感じしたんだ」
「生きてる感じ・・・」
その言葉は、自分にないもの。最初からそんな感覚、持っていない。
生きているなんて、考えたくなくて。
生かされている、むしろその言葉が正しかった刹那には見えなかった
「勝手な考えだから。もし、刹那が今すぐにでもこの世界をなくすのならそれでいいかもしれない」
もしかしたら、尚弥は気づいているのかもしれない。この12話の童話の衣装が消えていく事が離れる事を示しているのだと
「この場所は・・・」
「いつか、終わりがくるって考えてるんでしょ?」
なぜ、この人に。こんな眩しい世界を歩いている人に
私の心や考えが全て見えてしまうのだろう。
「考えすぎだった?・・・なんとなく、刹那ならそう考えてるんじゃないかなと思って。不幸な方、不幸な方へ歩いて行きそうだから」
「うん。それが、私の背負う十字架」
「でしょ?でもさ、ここくらいはそういうの考えずにって。ここがあるから幸せとかじゃなくて。ここだけしかいられないって考え方にしたら楽にならない?」
「ここだけ・・・」
「いずれ、ここもなくして全てなくなってなんて、そっちの方が僕から見たら幸せなんじゃないの?」
「どういう・・・」
「ここも無くなって。全部解き放たれる、そしてまた自分で見つけられるものがあるなんて、僕からみたらさ、超幸せ者だよ」
「そうか、じゃぁ、君に縛られてるとおもった方が罪であることができるんだ」
「いや、縛るわけでも罪でもないけど・・・僕にはそう見えるだけ。刹那が羨ましいんだよ。どこにでもいける刹那が」
「私が・・・どこにでも?」
「暗闇の中かもしれないけれど。色んな所へ飛んでると思う。僕にはそれができない」
尚弥の横顔が、どこか、何かがあっていつもより苦しいように見えた
「あのさっ。あの・・・尚弥が色んな場所へいける道、作る」
「え?」
「お金かかるとことか尚弥のようなやり方できないけど、私のやり方で。行きたい場所あるのなら、そこへ案内できるような事くらいは出来ると思うんだ」
尚弥は驚いた顔で刹那を見つめていたけれど。すぐに考えだした。
「じゃぁ。自分を変えたいんだ。昼間でも歩けるような・・・簡単にいうとバレずに。普通に歩きたい。なんて贅沢だよな」
「わかった。」
そういうと、刹那は螺旋階段を駆け上がり、デザインを書き始めた。
「あっ」
下にも聞こえる声が響いた
「尚弥、お願いがある」
螺旋階段の途中まで、降りてきて刹那が申し訳なさそうな感じで
頼んだ
「男性用のマネキンが欲しい」
「あぁ・・・そっか、全部女性だもんな。了解。注文しとく」
「明日・・・には届くか?」
「いいよ、今すぐ買うから」
そういうと、螺旋階段したの部屋にあるソファーにもたれかかりながら、
自分の鞄の中に入っていたタブレットを出して
ネットで業務用の男性マネキンを探し、購入した。
衣装を作る縫いができるマネキンと1体と、着て飾るマネキンを2体
ブティックに追加して置くものだとおもった。
「尚弥、もう一つっ」
また慌てて螺旋階段を降りてきた。
「下の童話の種類の服2着ほど、ネット通販のような形で売れないかな」
「そうすると・・・ホームページ作ることになるけど」
「うーん・・・期間限定みたいな形で。デザインはこっちでやる。後・・・
その2着が売れたら終了って形で。お店の位置とかは載せずに。発送の際も
載せないで発送する形で」
「わかった。とりあえず、ホームページ作るな。」
そう言うと。2階で刹那はデザインや服を作り、僕はその下で、ホームページを作った。
ホームページ作成のノウハウはないけれど、色んな作り方のページを頼りに組み立てていく。
そんなプラモデルを作るような作業ににた感覚がリンクして姉さんの事を思い出した。
姉さんと作ったプラモデル。
「姉さん、雑だよ」
「いいの、こういうのは作る工程を楽しむんだから」
「できた完成度だろ」
「見た目は不格好でも、作る工程がしっかりしてれば世界に一つだけでしょ」
「そうかなぁ」
そんな単純なやり取り。姉と弟としてのやり取り。
悲しくて寂しい思い出じゃない姉さんとの沢山の思い出。
唯一、縛り付けているのは。あの日の起こった事だけ・・・。
そんな、打ち込んでいくことに、色んな思い出を駆け巡りながらホームページを作っていく。
基礎部分と言われる、商品をのせる部分やカテゴリーを選べるもの
ある程度の情報などをのせる部分は感性した。
あとは、周りなどのデザインと、ブランド名だけだった。
「尚弥っ」
螺旋階段から駆け下りてきた。
「ホームページのデザインなんだけど。紙で書いたりはできるんだけど・・・
打ち込むとなると違うよね」
「あぁ・・・イラストレーターやフォトショップで作るのが普通かな」
「イラスト・・・?フォト??」
「パソコンの中で絵をかけるんだ。そのほうが、他の作業や細かい部分・・・そうだ。アクセサリーとか作るとき結構役立つんだ」
「使ったことないから・・・」
「ソフトの入ったパソコンは持ってるから、それを明日持ってくるよ。あとは、絵をかける端末とかだな」
「結局また、尚弥にお世話になるな・・・」
「いいよ。それも刹那のデザインを売るためでしょ?お互い様だよ」
「ありがとう」
それから、パソコンは家にあるものを、ブティックに送り端末を探しに電気量販店を歩き回った。
「デザインを本格的にできるソフトと・・・端末が欲しいんですが」
「これなんか、優れてます・・・」
そんな店員とのやり取り。
その中でも、刹那を優先したものを選んだ。
そして、ブティックにはパソコンや端末一式が届く。
螺旋階段下の、元調理場部分の広いスペースは、僕の作業場のようになっていった。
それからは、刹那のパソコン特訓が始まった。
「ここのボタンで・・・」
「なるほど、じゃこれと一緒に使うときは?」
「こうすればいいんだよ」
ふと、刹那の横顔が近いことに気がついた。
その瞬間、意識しているのを悟られないように、椅子を少し離した。
こんなに近くで、長くいたのは初めてかもしれない。
飲み込みの早い刹那は、上達していった。
「打ち込むのはやるから。とりあえずデザインを頼むよ」
「わかった、ヘッダーとボタン類のデザインだけこれでお願い」
「わかった。あと、ブランド名は決めたか?」
「うん。決まった」
「何?」
「2人の場所なんだ、2人で作ったから。」
「doule-dealingMoon」
「・・・どういう?」
「虚像っていう意味と、DとDを反対にし月を現す私と尚弥の2つの世界を現した・・・あと、月の裏側はは汚いと尚弥が言っていた事・・・そんな意味も含めてみた。」
「月の裏側が汚いっていうのは、姉の知識なんだ。」
「お姉さんいたんだ」
「あぁ、姉が、月ってあんなキレイなのに裏側は汚いんだよって。女性の内面もそういう部分あるよね。猫かぶって男の人振り向かせて・・・内面はあざとくてずるいってさ」
「お姉さんは、鋭い人なんだね」
「あぁ、鋭くて気が強くて・・・考えは曲げない人だった」
「いいなぁ・・・そんな女性は憧れる。このブランド名に決めてよかった」
「僕も、すごくいい名前だと思っているよ。」
少しさみしげな顔は私の目に焼き付いた・・・。
尚弥があまりしない、表情。太陽から抜け出したい切ない表情じゃなく
何か、もう取り戻せないような表情だった。
2人の距離が少しづつ近づいていく度に、少しづつ知っていく度に
2人の気持ちがすれ違う感覚はなぜなのだろうか。
一つ、知れたはずなのに。
尚弥がわからなくなってしまった。
私もまだ、話していない事が沢山あるんだ・・・
私が話せば、尚弥と少し距離を埋めることができるのだろうか。
「尚弥、このブランドとブティックと。私が作る世界で満たすことができるなら私は全てをかけるよ。尚弥の為なら、なんでもする」
「ありがとう、本当に救いだよ。明るい道だ」
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