第5話 世界への入口と感情

 翌日、刹那が決めた物件を、見せてもらおうという事になり、不動産へ向かった。不動産側からしたら、この物件を借りてくれるという上物の客という感じで対応自体もすごく丁寧にされていた。


ビルの中で見えづらく・・・というリッチが探しやすさの拠点になった。




案外早く見つかった物件を、刹那と見に行く日を決めて当日

不動産の案内で見に行った。




「これは私の世界。中は私の世界だけど、尚弥が見つけたように、尚弥の要素も少しは入れたい」




「・・・僕の要素」




「べ、別に・・・一緒にとかではなくお礼の一部というか。全部私のものというのも気が引けるというか・・・でも気にしなくていいと言って、君は全て揃えてくれるけれどこの世界は君も加わっているから・・・都会というか・・・その・・・」





何を言いたいかわかっていた。


彼女なりのお礼と、僕らの世界を僕らだけの暗闇を作るのに一番の暗い世界を合わせているという考えだと言うことも。




その説明を必死で、一定の感情がないとひたすら隠しながら、ひたすら誤解されないように。




人付き合いの少ない彼女の言葉からは説明がちゃんとできず、そこが裏目にでればと必死で自分を守ろうとしているところも。




この頃だった。

僕は彼女の数少ない言葉でしか対応できないのなら、変わりに言葉を並べてあげよう


彼女が必死で身を守るのならば、汚れたこの手で全てを暴き潰そうと




彼女が好きなことができて笑えるようになるのなら、僕はその笑顔だけをもらいたい




暗闇の中をずっと歩きたいと思うなら。僕は光が指すことのないように守ろうと




この考えが『大切な人』と世間がいうのならそうかもしれない。




でも、彼女が望むまま感情なく気軽に付き合えるように




「暗闇の世界へ連れて行ってよ」




あの時の言葉通り、あの日のままの心でいようと。




そうひねくれていた。


「好き」「愛してる」と伝えるのは罪だって考えたから壊れていったのに。





「尚弥・・・?伝わらなかったら・・・その・・・ごめん」




「あ、伝わったよ。でもそれって逆に刹那らしいよ。刹那だよ」




「私?」




「都会の中でも暗闇を探して生きている。今からつくる世界も僕が差し伸べた光を暗闇に引きずり込んでくれている」




「ひかり?」




「僕はこの世界を権力で建てようとしてる。勿論、一部は僕が芸能活動で稼いだお金でもあるけれど。ツテや、アドバイスだって権力で色んな人に聞きながら手探りだよ。そんな僕の薄汚れた色すらも、刹那は暗闇に戻してくれてるんだなって」





「・・・そっか。私はお礼だと思った。けど、やっとわかった。

私のお礼は、君を暗闇に連れて行く事が君のひかりになるんだな」




「そうだね」


そんなやり取りをしながら、物件へ向かっていた。

表通りやその少し中に入った通りも賑わうお洒落な街。


そして、中通りに入っていてもマンションなどもオフィスとして使用している物件も多くまだ、コンビニもあった。




そこからまた離れ、迷路のような地形をしばらく車で走らせ、とある住宅外にポツリとあるパーキングに車を止める不動産。




「ここからは、路地が狭くて。歩きでの案内になります。」




「この辺り、まだ人通りもありますよね。」




「えぇ、でもここからまだずっと離れているんですよ。なにせビルや住宅が密集していて、路地裏も最近人気ですが・・・今回のこの物件は路地裏とも言えないようなところで。本当に見つけにくくて、何度も開業した方はいるんですが、全く人も集まらず、メディアで露出しても、わかりづらい事から、結局人を呼ぶことなく辞めていった人が多くて・・・」




「メディアに・・出てるのか」




刹那は不動産に食いついた




「出てると言いましても、回りが著名人の家などで背景とかも写せなくて建物そのものしか出てないですよ。なので、外観や内観はリフォームして頂ければ、全く気づかないですよ」




「そう・・・ですか」




「まぁ・・・今の時代こんな所をわざわざ選ぶ人もいないですよ。入りやすさや、ちょっと見つけて嬉しさのあるおしゃれな路地裏を目的に開業する人はいますけど」




まだ想像のつかない中、僕らは不動産案内の人についていくだけだった。




不動産の案内人はGPSと地図をダブルで見比べながら物件へと向かう。




周りは低い住宅も高い住宅も交差するような所。

傾斜な道も途中あり、案内人も時々とまる。




「あっ、すみません。こっちですね」




その道は住宅と住宅の間に石段になっている人一人がやっと通れるかくらいの道。




「ここって人の家の中じゃないですよね?」




思わずそんな景色になってきたので訪ねた




「いえ、一応道なんですよ。この道がおしゃれという事で路地裏好きには好かれるんですけど・・・ここからが問題なんですよ」




その道を抜けると、ちょっとした並木道が出てくる。その間に見えるかどうかくらいの階段がある。




階段は、石でできている古い神社のような階段。


かなり急勾配で、子供や年寄りは絶対に登ると危険そうな階段だった




雨になど降ると、特に足を滑らし、踏み外しそうで。ところどころ石段もかけていた。




ほんの数段の高さだったのかもしれないが、息が上がる。




登りきった先にはきれいな住宅がまた並んでいた。




「この家の間に柵が見えますよね、この道を抜けた先です。

なので・・・引越し業者など呼ぶ際は大変かもしれません」




その柵は道を隠そうとしているような家の住宅の柵と同じ並びにあり、


言われなければその柵と柵の間の切れ間と道が見えない感じだ。




近くに言って初めて柵と柵の間に道がある。


その先に、草木が生い茂っていて、前の人がつけたであろう格子の門をあける。




「これ、錆びていて危ないかもしれないですね。まぁこの辺一体はリフォーム自由なんで」




「・・・この格子の門このまま使いたい」




刹那はその門に目を輝かせた。まるで、漫画の闇の世界でよくみるような門にツルのが絡まっている。




「これが本日の物件です」




半分疲れきる案内人よりも先に、物件に着くと


刹那は中へ入っていった。




案内の人は壁に寄りかかり、




「上の回の入口は表からみえる事ないので、この通路だけです」




図面を見ながら声だけでの説明を始めた。




入口から開けると元々は飲食店、カフェのような形で使ってたであろう


丸くカーブされている形の広々とした約10帖の部屋。




丸くカーブに添って壁は窓になって外が見えるが生い茂る木と住宅の壁




そこの部屋から扉が一つあり、その扉は前の人が厨房として使っていたようなキッチンが備えられていた。




その真ん中に螺旋階段があり、その階段を登るとロフトへと繋がる。




そのロフトを上がると刹那が既に立っていた。




そこは白の壁にウッド張のワンルームが広がる。




モダンな格子窓が二箇所ついているだけで日当たり良好とは消して言えないような場所。




案内人も登ってきて、説明を始めた




「前の方はここの使い道がわからず、従業員の休憩場にしていたみたいです」




「ここ・・・気に入った。」




刹那は立ち尽くしたまま一言、いった。




確かに条件にピッタリだった。




僕にはおしゃれにしか見えなかったけど、きっと刹那の目にはリフォーム後の自分の世界が広がる部屋が見えているのだろうとその後ろ姿を見て察した。




「ここにします。」




僕も不動産に即答した。




「いや~ありがとうございます。ここまできたかいもありましたよ。

大概、下の窓の眺めで辞める人たくさんいるので。」




「僕らにはちょうどいいです」




「じゃぁさっそく・・・帰るのもまた一苦労なんですが。お店で契約を」





また車の場所に戻るのも一苦労な所。




そう思ってのため息だろう。不動産案内人は大きくため息をついて先に出た。




刹那は門を閉めたとき僕の腕を掴んだ




「尚弥、ありがとう」




我を忘れているような、女性らしい微笑みでそう言った




その光景に戸惑いながら「うん」と返事をしてすぐに歩きだした




自分の心を隠すように。




そして彼女を見る目を変えないように。




役目と言い聞かせて。




動き出したんだ。僕らの世界への空間ができ、ここから始められるという喜びと




僕の感情の『支配』のような感覚に。

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