第15話 予測済み
「やっぱり、君は残るのか」
スケルトン兵の姿で、白玉団子はぼくに向かって言った。
ぼくの周囲で、黒いエフェクトのみが噴出し続けている。
それは白玉団子も同じだ。
草団子は、黒板の発動後、即座に消えたけれど、黒板は未だその場に浮かんだまま消えていない。
効果によって消えるべき二人の対象が、消滅せずに、そこに残っているからか、効果が一度きりの黒板も、発動したにも関わらず消えていない。
黒板は草団子から出現した。
消えてしまった草団子が発動したものじゃない。
白玉団子が、ゴットヘイトを使い、強制発動したんだろう。
状況的に言って、そういうことも出来る、と考えるしかない。
即死級のアイテムを使ってなお、ぼくらが生きている理由も、ゴットヘイトにある。
ゴットヘイトのリストには、アイテム効果を打ち消すものが存在していた。
ぼくは予め、ゴットヘイトによる、プレイヤー間の争いがあると想定し、ゴットヘイトをできるだけ買っておいた。
もちろん攻撃のためじゃなく、防御のためのものだ。
それにしても、発動の仕方が直前だったので、危うく消されてしまうところだった。
「君が直前まで発動していないから、てっきりゴットヘイトを買っていないのかと思ったよ」
事前発動できたのか? ……知らなかった。
まぁ、結果的に助かっていれば、問題は無いだろう。
さてと、問題はここからになる。
白玉団子に聞きたいことは山ほどあるんだ。
「どうしてその姿になれるんですか?」
曖昧になってしまったけど、そこから入った。
ゴットヘイトのリストを見たけれど、モンスターの姿になれる、というものは書かれていなかった。
アイテム効果の打ち消し、までは、ぼくも確認できたけど、アイテム効果の強制発動は見当たらなかった。
見落としもあり得るけど、おそらくない。
何故なら、ぼくが見た限り、ゲームのシステム以上のものは無かったからだ。
当初ぼくはゴットヘイトが、仕様を逸脱しないものだと思っていた。
けど今現在、白玉団子は、その仕様を著しく逸脱したゴットヘイトを使って、スケルトン兵になっている。
そこには何か秘密がありそうだ。
「わからないのかい?」
隠しても意味がなさそうだ。
「ええ、まぁ」
「そうか」
……そこから沈黙。
相手は考えてるだけで、答えてくれない。
そうなるよな。
素直に答える理由が無い。
仕様を逸脱できる裏技を知らせたら、ぼくも、さらなるゴットヘイトを使いこなすことになる。
むしろ相手に、ぼくがゴットヘイトを理解していないことを教えてしまった。
隠したところで時間の浪費か。
予想では、あまり時間を食うのも宜しくは無さそうだし、勿体つけたカードは、ぼくを不利にさせるだけだ。
ぼくも相手も動かない。
一歩も動けないからだ。
アイテムもスキルも魔法も使えない。
手足ぐらいは動かせても意味が無いみたいだ。
黒板は発動したら即死だ。
生きているのは、バグみたいな扱いなんだろう。
だから、通常のプレイは続行できない。
ゴットヘイト以外は使えない。
白玉団子が、すぐにゴットヘイトを使ってこない理由は、無駄撃ちになることを恐れてか、そもそもゴットヘイトを浪費したくないかだ。
それにぼくのゴットヘイトを警戒してる。
ぼくも、まだ使う気がない。
すぐぼくを狙われなかった理由も、ぼくが用意しているゴットヘイトを警戒してのことだ。
十分な戦略と周到な準備がなされていることが伺える。
それでも、白玉団子一人の犯行とは思えない。
出来るなら、”ぼくを狙う人物”の手がかりが知りたかった。
ぼくは、話しをし始めた。
「あなたは、ぼくのことを知っている誰かに依頼された。
もしくは強要されているのではないですか?」
「どうしてそう思う」
反応はするみたいだ。
「現在ぼくらの抱えるリスクは、一部の個人情報の漏洩です。
これはこれで大変なリスクです。
ですが、言ってしまえばその程度の情報でしかない。
この程度の情報リスクで、仲間を裏切ってまで、リスクのある勝負に出る理由が無いと思いまして」
「それは前に話した通り、妻との離婚がかかっているからだよ」
「嘘でしょ?」
「嘘? いや、本当のことだ」
「見られていたんですよ」
「何を?」
「白玉さんと、あのウェイトレスが抱き合っている姿を」
クエストに出発する前のことだ。
ぼくが、ウェイトレスと遭遇したところに、ユーナが何故現れたのか?
それはユーナがウェイトレスを追いかけていたからだ。
「ユーナが酒場で、初めてあのウェイトレスと出会ったとき、彼女を質問攻めにしていました。
きっと、彼女なりに、NPCらしさを出したかったんだろうと思います。
うっかり漏らしてしまったことがあるんですよ。
彼女は、兄が病気で、そのために働いているのだと。
これって逆なんじゃないかと思っているんです。
彼女のために、あなたは今このゲームをしているんじゃないかって」
白玉団子は、否定も肯定もせず、黙っている。
まぁ黙ってもらってもいい。
「ユーナはその話しも気になって追いかけていました。
ですが、酒場には現れなかった。
普通だったらそこで諦めるものですけど、一度気になるとユーナは、とことん粘着します。
周りに聞きまくって、彼女の足取りを追いかけたんです。
彼女は、ワッフルの街から離れてなかった。
それどころか、至るところで目撃されていて、気にかけられていた。
でも、奇異な目で見られるのが嫌だったんでしょうね。
プレイヤーから逃げまわっていたんです。
仮に運営の差し金なら、職務放棄でしょう?
白玉さんと彼女が密会している目撃情報はそこら中にありました」
「どこに目があるか、分からないものだな」
「それは認めたということでいいんですか?」
「君は勘違いしているよ。
何かを知れば、何かを分かったことにはならない。
お互い、どうせ譲りあう気は無いはずだ」
取り付く島もないな。
分かってた。
歩み寄る要素なんて無いのは、でも。
「ぼくはあなたと戦いたくない」
「温いことを言い出すんだな。
わたしが、善良な人間に見えるのか?」
「悪人にも見えませんよ」
「君の動画が荒れた原因を作ったのは、このわたしだと言ったらどうする?」
「……信じませんね」
「こういうことだ。
わたしは、当時から相当な金額を課金をしていた。
正直、無課金をバカにしていたんだよ。
だから、生意気に、無課金のプレイヤーが威張っていたから、難癖をつけたかったんだ」
取ってつけたような話しを聞かされて、次第に確信にすら変わる。
やはり白玉団子の裏で、糸を引いてる誰かが居る。
しかも、ぼくを狙うような人物だ。
でもそんな相手に心当たりがまるで無い。
プレイヤー間で対戦したことはあっても、外道なこと、チートなんて使ったことだってない。
もちろんPKなんてしたこともないし、第一、ぼくはサブアカウントになってから、ユーナとしか遊んでいない。
あえて居るとしたら、ユーナ関連だ。
ユーナは社交性が高いから、ある他のプレイヤーとも交流があった。
例えばその中に、彼女に憧れたストーカーが居て、嫉妬でぼくを狙っている、と考えられなくも無い。
別の線で考えると、運営ということになるけど、正直そこまで来ると、推測できるところがなくて、わけが分からない。
もちろん、白玉団子は、そいつが誰かなんて喋る気は無いだろう。
説得は無理そうだ。
分かっていたけど、仕方ない。
「これ以上やれば、ぼくが勝つと思います」
「面白いことを言うんだな君は。
それはわたしだって思ってることだよ」
これは実力勝負じゃない。
相手の予測以上の準備ができているかで勝敗が決まる。
詰みゲーにさせることで決着がつく。
要約すると、クソゲーの押し付け合いだ。
「これって勝ち負けがあるのかな?」
クエストに参加する前に、ユーナに、ゴットヘイトのシステムを説明すると、そんなことを言っていた。
今さら考えたって仕方ないのに、気になって浮かんでくる。
意味のない思考はやめよう。
もう始まってしまったのだから。
やり取りは、意外と長く無い気がする。
悪寒と予感の挾間にあって、武者震いのように少し体が震えた。
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