第14話 地雷行為

 しゃがんだ姿勢のところを、ぼくは立ち上がった。

 周囲を見れば、暗い石作りの霊廟の中だ。


 先ほど、草団子が使ったアイテムは、ダンジョン内にランダムワープするアイテムだ。

 使いようによっては緊急脱出とか、あるいは、散った敵を見つける手段として、便利に使うこともできるけど、そうでもなく突然パーティー内で使われるのは、地雷行為とされる。


 こういう、普通は仲間であるパーティーを、邪魔する行動を取れるアイテムが、伝説の英雄にはいくつかある。

 こういったアイテムを使って、個人的な恨みで邪魔をしたり、悪意ある妨害行為を行う人もいる。

 俗にリベンジアイテムと言われてる。

 

 ユーナは連絡してこなかった。

 一瞬、ぼくから連絡を取ろうかと思ったけど、やめた。


 マップで仲間の位置を確認しようとしたところで気づいた。

 開いた扉の角に何か居る。

 

「誰?」


 呼びかけると、ひゅっと後ろに引いたようだけど、さすがにもう手遅れだ。

 この状況で、あえて身を隠す対象なんて、該当者は一人ぐらいか。


「草団子さん?」


 呼ばれて、草団子は、観念した様子で現れた。 

 草団子はすぐに土下座ジェスチャーでもって、謝意を伝えてくる。


「正直すまんかった」


 アバターだと、こんなオーバーアクションで相手に誠意を訴える。

 つまり安い土下座なのだ。


 何て言えばいいんだろう。

 廃人のくせに、とか、罵ったところで始まらない。


 言い掛けてからぼくは少し考えなおした。

 ぼくの前に現れた時点で、この人が、本当に意図的に分断をしたわけではないことぐらいは分かる。

 それなら、聞けることがあるはずだ。


「あの、このクエストに参加するときに、何かアイテムを渡されてませんでしたか?」


 草団子は頭を上げてから答える。


「何のこと? 俺たちも、それなりに準備はしてきたつもりだけど」


「こういう状況になったとき、使えと言われてるアイテムがないかってことなんですけど」


「こういう……あぁあれかな」


「どうして使わなかったんですか?」


「いやあれは使えないよ。みんなを巻き込むから」


 予想通りだ。


「それでそのアイテムは」


「っ! コータ君!」


 言われてから、はっとして振り向いた。

 その場に、あのスケルトン兵の姿がある。

 

「くっそぉ! やるしかないのか!」


 草団子は、早速剣を取ったようだけど、ぼくは一切構えを取らなかった。


「観念したのか?」


「まともにやりあっても、勝てそうに無いですから」


「俺が強いからか」


「あなたが強いのは、プレイヤーだからでしょ?」


「何のことだ」


「ここまで来たんですから、もう正体を明かしてもいい頃合いだと思いませんか? 白玉団子さん」


「白玉、え!?」


 草団子は、混乱しきっているみたいだ。

 スケルトン兵、もとい白玉団子は、沈黙している。

 そして、ふ、と僅かに笑いながら答える。


「そうだな。別に、いいだろうな」


「みんなをやったのか」


「ああ」


 草団子の震えた言葉に、白玉団子は抑揚無い声で、あっさりとしている。

 白玉団子の言葉は、まだ続いていた。

 

「こんな風にな」


 白玉団子の、骨の手が、草団子の方向に伸びた。

 何か選びとったかのような仕草を取ると、草団子に変化が訪れた。

 勝手に、草団子の中からアイテムが飛び出す。

 

 真っ黒な石版。

 これが空中に浮いているのだ。

 あまりに黒いので、そこだけ穴が開いているようにすら見える。

 ブラックボード。

 通称、黒板だ。

 続いて白いチョークが出現する。

 ブラックボードに書かれるのは、白い文字で解読不可能。

 神の文字だ。


 ブラックボードは、敵が存在し、仲間も2二人以上存在したときに発動可能となる。

 効果は、敵も見方も分別無く全滅。

 ただしボスやイベント中の敵は倒せない。

 

 超高難度のイベントで、超劇レアアイテムだが、そのドロップ率は、隕石が一人の人間に落ちるぐらいのレベルだとか。

 絶対取れるわけがないと思って、運営も当初ジョークのつもりで設置したものだった。


 だが、その効果ゆえに顰蹙され、実装されわずか2週間で、イベントごと消滅した。

 ゲットしたユーザーも、ごく僅かで、使っているユーザーは、YouCubeの動画でしか見たことがない。

 コレクションの中では超一級のアイテム。

 昔ならば高値で取引もされていた。


 そんなアイテムを隠すこともなく、披露した。

 つまり、相手の地雷を踏んだことを意味していた。


 ジリジリと音が鳴る。

 ぼくの目の前に突然、文字が現れた。


”ゴットヘイトを発動しますか?”


 YES or NO


 驚きを感じる暇すらない。

 発動間近のときになってぼくは、食らいつくようにしてYESを押した。


 そして闇が襲ってきた。 

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