第13話 突然の遭遇

 草団子は、リアルの白玉団子に連絡をとっていた。

 まったく出てくれないのか、「何やってるんだ!」と、強く苛立つ言葉を吐いている。


 残されたぼくらに選択の余地があると思えない。

 白玉団子たちは、何故か倒れた。

 それが敵によるものなら、戦力が圧倒的に白玉団子よりも劣るぼくらに勝ち目は薄い。

 

 しかし、前にぼくがダンジョン内で確認したとき、敵は確認できなかった。

 フラグ条件が変わっているのかもしれない。

 すぐに探索スキルを使った。

 ぼくの目の前にマップが表示される。

 出入り口付近には、青い点がいくつかある。

 これがぼくらだ。


 建物の内部を移動する赤い点を確認した。

 赤い点は、ぼくら出入り口に居る存在に一直線に向かっている。

 

 草団子に呼び掛けようとしたけれど、間に合っていない。

 それはもう来ていた。

 スケルトン兵。

 少し違うとしたら、盾と装備が豪華で、腰巻きのボロい布をしていることぐらいだろう。


 4人とも、その存在に釘付けになった。

 スケルトン兵なんて、みんな見慣れている。

 でも、何か異様に違う。


 AIの敵なら、条件反射で、すぐ盾を構えてぼくらの周囲をうろうろしたり、機械的斬撃をしてきたりする。

 そのスケルトン兵は、構えすら取らず黒い眼窩から、ぼくらの様子を観察しているみたいだった。

 

「気配があると思ったら、なんだお前ら?」


 スケルトン兵は、驚いたことに話しかけてきた。

 セリフがあまりに間抜けなので、緊張が少し砕ける。

 質問してきた相手に、ぼくらは誰も答えない。

 得体のしれない相手だけに、答えようがないといったところだ。


「答えろ、お前たちは俺の」


「敵だ」


 草団子は、すでに動いていた。

 居合スキルで、閃光の見える斬撃で横に薙ぐ。

 まるで、玩具のように、スケルトン兵の頭蓋骨が上空に飛んだ。

 今の状況に飲まれることなく、躊躇無しの攻撃。

 

 頭を失ったスケルトン兵の体が、ジャンプする。

 くるりと回る頭蓋骨を、キャッチして、片手で、もともとあった場所に、ぐりぐりと当てはめた。


 見慣れた雑魚敵が、思考や感情を持つみたい動いていている。

 たったそれだけのことに、生唾を飲むほど、飲まれてしまっていた。


「なるほどな」


 スケルトン兵は、攻撃を受けて余裕なのか、納得している。


 草団子は攻撃をやめることはなかった。

 居合スキルをまた発動。

 閃光のような斬撃、が、空を切る。

 ちょうどスケルトン兵は、上半身をのけぞるような動きで、僅かな見切りで避けている。

 

「もうその攻撃は見た」


 たった一度きりの攻撃で、技の動きを捉えた?


 草団子がぼくの方を向いて催促している。

 言われずとも分かってる。

 魔法だ。 

 スケルトン兵は、神聖属性の魔法と火属性の魔法が弱点。

 ぼくは神聖は覚えていないので、火属性呪文を唱えると、スケルトン兵に向かって放った。


 火柱の激しいエフェクト。

 効果が切れて、火の柱は消え去る。

 スケルトン兵から、ぷすぷすと煙が立ち上り、臭いが漂ってきそうだ。

 ぴくりと、スケルトン兵の指が動き出す。

 黒い炭が剥げ落ちて、白い骨組みが露わになった。

 まぁ最初から黒い炭になっているのは、グラフィックだから、別に本当に炭になったわけじゃない。

 体力バーすら出現しないので、削れているかも分からない。

 単に体力が高いのか、それとも。


 待て待て。

 何戦うことに熱中してるんだ。

 これはもう普通のゲームじゃない。

 白玉団子たちが沈んだ時点で、ガチンコ勝負する意味は消失してる。

 

 頭を整理だ。

 白玉団子たちは、ぼくらにメールを送る暇も無く全員倒された。

 それは同時になのか?

 こいつにそんなスキルがあるなら、何故今すぐ使ってこない?

 スキルを発動したら、数秒間を置かないといけない、クールタイムのため?

 条件が揃っていないから?

 それならクールタイムを待つべきだった。

 さも偶然を装っているけど、一直線にぼくらのところにやって来たのは、何か、おかしくないか?

 

「コータ!」


 ユーナの声で、はっとした。

 スケルトン兵が跳びかかり、ぼくに斬りつけようとしている。

 鞘に収まる剣を引き抜き受け止め、弾いたところで、相手も引いた。

 ユーナに声を掛けられなかったら、危うく斬り捨てられるところだった。


 スケルトン兵は、再び、ぐわっと襲いかかってきたので、追撃と思ったぼくは身構える。

 寸前のところ、くるりと回転し、ぼくの前を跳躍して去った。

 ぼくに攻撃をする方向とは真逆の方に飛んでいる。

 スケルトン兵は、ぼくらと草団子にくっついていた、他二人のプレイヤーに向かっている。

 手遅れだった。

 一撃を食らった二人のプレイヤーは、警戒する暇も無く斬撃を食らっていた。

 二人のプレイヤーは、15300という、桁違いのダメージ量をはじき出す。

 伝説の英雄で限界hpは、9999なので超過していた。

 

 AIなら、観測していても大丈夫だけど、機転の効くプレイヤーなら、こういう不意打ちだってある。

 二人は完全に油断していた。


 二人の塊は、空の彼方へと消えていく。

 残念ながら名前すら覚えていないけど。


「二人とも」


 草団子に話し掛けられ、彼を見る。


「ごめんな」


 と、絶望感を煽るような言葉を吐いてくる。


 ぼくが何か言おうとしところで、草団子は、アイテムを取り出した。

 草団子の手のひらに、ガラス製の四角い箱があり、光が渦を巻いている。


 草団子は、ガラス製の箱を放り出すと、箱から渦が飛び出してくる。

 渦は巨大化し、周囲を吸い込み始めた。

 それは当然、ぼくたちと、敵であるスケルトン兵も同様だ。

 

 体は浮かび上がり、抵抗することも出来ず、くるりと回転、地面が天井になってしまう。

 ユーナと目が合って、手を伸ばした。

 指が触れ合うところで、吸引力は増して、ぼくらは渦の中へと入り込んでしまった。

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