第12話 危機感

 ぼくらは、霊廟の中腹ぐらいまで来ていた。

 床に転がっている人骨が、ひとりでに動き出して、欠けた剣と傷ついた盾を持った兵隊となる。 

 雑魚敵である、スケルトン兵だ。

 

 スケルトン兵は、倒しても倒しても、時間を置いたら再び復活する。

 建物の深部に居る、ネクロマンサーが、魂を操っているからだ。

 浄化する武器やアイテムを持っていれば復活はしない。

 

 ぼくらのパーティーで、このスケルトン兵に苦戦するプレイヤーは一人も居ない。

 低難易度のままなら、苦戦なんてものは一切しないはずだ。

 危なげなく深部に到着すると、現れたのは、赤黒いローブと仮面を被り、骸骨の杖を握る、ネクロマンサーだ。

 それも瞬きすら起きる間もなく、白玉団子の仲間が一撃。

 周囲で護衛を務めていたはずのスケルトン兵も、がくりと力を失って、元の骸になった。

 通常であればここでクエストとは完了となる。

 CLEARの表記が浮かぶのだけど、文字は浮かばなかった。


「リーダーどうすんの?」


 草団子は、白玉団子に指示を仰ぐ。

 白玉団子は、腕を組んで考えながら言った。

 

「串、索敵してくれるか?」


 串団子は言われてから索敵スキルを発動する。

 索敵はアイテムとスキルで発動できる。効果時間は1分。

 ちなみにぼくは、今現在魔法剣士だけど、元の職業が盗賊だったので、索敵スキルが使える。

 ついでにぼくも、索敵スキルをさらっと使っておいた。

 これまで踏破した場所はマッピングとして記録が残っている。

 マップを広げていくと、enemyとして赤い点が表示されるはずだ。

 マップの隅から隅まで見渡すけれど――特に何も無い。


「本当に特殊イベあんの?」


 草団子の言うことはもっともだ。

 バグと考えるなら、このイベント自体、クリアが無いと言う線もある。

 こういうオチは、あまり考えてなかっただけに、ぼくには少し痛い。

 

「まだ決まったわけじゃない」


 白玉は、即座に答えたものの、少し迷っているみたいだ。

 

「て言ってもみんなにも時間があるしさ」

 

 白玉団子は、むむむと唸ってから答えた。


「チームを分ける。

 わたしと来る人は、少し心残りの場所を探索をする。

 それで戻っても何も無いなら、解散だ。

 他の人たちは、付きあわせてしまって本当に申し訳ないけど、出入り口で、わたしたちが来るまで、待機しててくれ」


 実は、ダンジョン内部では、クエストを放棄できない。

 ダンジョン外で、なおかつ、敵にエンカウントしていないことが条件になる。

 つまり、出入り口に全員集合したら、クエストを放棄、解散とするつもりなんだろう。


 2つに分けたチームは、それぞれ4人と5人の編成。

 ぼくは5人側、ユーナもそうだ。

 草団子以外の4人は、団子団のメンバーじゃなかった。

 

 改めて考えると、最初から部外者は、この4人だけだったみたいだ。

 数合わせだったんだから、まぁこんなものだろう。

 探索組は完全に白玉団子の団子団。

 残業しているみたいで嫌だ、とか文句を言っているのが聞こえた。


 ぼくらは実質、戦力外通告されたみたいだけど、レベル差を考えたら仕方ない。

 それに、慣れたチームでないと連携なんてまったく無理なのだから、妥当とも言えた。

 白玉団子とは、分岐地点で別れる。


「おーし、ほんじゃ行くぞ」

 

 草団子は外されたのに不満はなさそうだ。


「大丈夫、いざとなったら俺が何とかすっからさ」


 気さくな人だし頼りがいはありそうなんだけど、いかんせん武者装備でサブアカウントだから、下手をしたら今のぼくより弱いかもしれない。

 どこからそんな自信が湧いてくるんだろう。


 ピクニックのごとく行列を作って、ぼくらは、来た道を戻った。

 

 ダンジョンの脱出は、CLEAR時に戻れるようになるワープが出現するか、魔法かアイテムで途中でも脱出可能だ。

 脱出アイテムか魔法を使用した場合、チームごとクエスト放棄と見なされる可能性を考慮し、使わずに地道に戻っている。

 面倒だけど妥当な選択だ。


 何事も無く出入り口に無事到着。

 クリアするために気合を入れていたのに拍子ぬけた。

 まぁ、こういうのもある種、リアルなオチといえばそうだ。

 白玉団子らの連絡を待つ。


 しばらくして、突如、光の柱のようなものが建物から突き抜け、空を飛翔していくのが見えた。

 それも一本ではなく、何本もある。

 

 嫌な予感がして、パーティーの状態を、メニューを開いて確認する。

 パーティーであれば、すべての名前が一覧で表示される。

 ここにそれぞれの状態が現れるわけだ。

 白玉団子を含む5人の名前が灰色に潰れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る