第2話 GOT HATE
『…………』
沈黙の女神を前にして、ぼくとユーナは黙っていた。
次のセリフを待っているけど、何やら押し黙っている。
女神ディオーネは、細く白い両手を、顔を挟むようにして頬に当てた。
『はうっ、ついに、ついに言ってやりました』
と、女神は照れている。
ディオーネは、恥ずかしがり屋という設定で、ぼくらにとっては、最初の水先案内人として知られているけど、以後、イベントで登場したことが、ほぼ無い。
ぼくも姿を目にするまで、存在すら忘れていたぐらいだ。。
そのせいか通称、引きこもり女神と呼ばれている。
そんな女神さまは、恥ずかしがりながらも説明を続けた。
『だって、みなさんだって悪かったんです。
このゲームのことを糞ゲーだとか言って、
わたし、とても傷ついていました』
何を言っているんだと思ったけど、女神を仮に運営だと考えると少し気持ちは推察できる。
このゲームがクソゲーと呼ばれ出したのはいつだろうか。
このゲームは、リリース当初は神ゲーと言われているぐらい、大人気のゲームで、プレイヤーも溢れるようにたくさん居た。
けど、月日が経過して、いろんなことがあって、引退者が続出した。
簡単に言うと、バグは放置しっぱなしだし、課金ばかりさせるし、インフレが単純でイベントが面白く無いし、新しいアップデートで、また新しいバグが出現したり、エトセトラ……ということがあって、神ゲーと呼ばれたこのゲームを、『伝説のクソゲー』などと呼ぶ人の方が多い。
「何を言ってるのかな?」
我慢できずに、隣のユーナが漏らす。
ぼくだって、聞きたいよ。
仮に運営の言葉なら、ユーザーから批判されすぎて、気が狂ったとしか思えない。
イベント、と言うには、あまりにユーザーの反感を買うセリフだ。
『さっきも言いました通り、わたし、神様に会いました』
この世界に、神様と呼べる存在は、設定上、女神ディオーネだけだ。
他に明らかになった設定なんて何一つ無い。
女神ディオーネは、そんなぼくらの思い浮かべる疑問など知ったことかとばかりに語り始めた。
『その神様は人間のことを、とても恨んでいました。
今までいっぱい愛してくれたのに、どうして愛されなくなったのか。
今までいっぱい人が居たのに、どうして人が居なくなったのか。
愛されない神に価値などありません。
神様は愛されたかったのです。
神様はこれまで、様々なサービスを人間に提供してきました。
人間の会話、行動を記録しながら、何とか楽しくしようとしてきました。
その度に、人間から出てくるのは、不平不満の数々。
どんなに良いサービスをしても、ちょっとした欠陥があれば怒りに変わり。
どんなに尽くしても、あまり評価はしてくれず、不満や欠点ばかりを責められました。
神様は考えました。
こんなにも人間が恨むなら、わたしは、恨まれるべきなのだろう。
神様は、誰よりも深い愛情を得られない代わりとして、誰よりも深い、憎悪を求めるようになったのです。
深い憎悪であれば、人間を、留めておけると考え始めたのです』
どうしてか、聞き入ってしまう部分もあった。
今では、ユーザーも減ってしまったけど、昔は大盛況のゲームだった。
それが、イベントを重ねながら、バグの修正が追いつかず、不満が募ってユーザーが減り、焦るように実装された課金を煽るサービスも、反感を買うものばかりが目立っていた。
昔なら、少しは運営を擁護する人たちもいたけど、今では、いつこのゲームのサービスが終わるのかを、ネットの掲示板で語り合うのが、古参の人たち(居残り組)の日常会話になっている。
それにしても、憎悪で、人を繋ぎ止めるだなんて、運営がユーザーに逆ギレしていると解釈されても仕方ない話しだ。
掲示板の炎上、いや、下手をしたら、消費者庁に電話が殺到するかもしれない。
『よって、これから、GODHATE(ゴットヘイト)を提供します』
訳して、神の怒り、だろうか?
ヘイトと言うと、MMOでは馴染み深い言葉だ。
敵を攻撃した場合に生じる、敵側がターゲットにする優先順位の数値。
敵の憎しみを数値化したものだ。
それを神に変えた。
嫌な予感しかしない。
あまりに大胆なシステムの実装だ。
下手をしたら、即日、ゲームが終焉する。
ポーンと音がして、ぼくの前に、ステータス画面が勝手に表示される。
それは、夕凪も同じだったみたいで、目の前のステータス画面を見ているようだ。
ステータスの、体力、攻撃力、筋力、技術、魔力、神聖などと並んでいるステータスの一番下に、GHPと表記されている。
ゴットヘイトポイントということだろう。
今のぼくのGHPは、当然ながら0だ。
変な笑い声が漏れてきた。
冗談にしか思えない。
画面の向こうの女神ディオーネは、まるでユーザーらの顔を覗いたかのように、ほほ笑む。
『勇者の皆さん、ゴットヘイトを買って、ゲームクリアを目指してください』
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