第13話 チューリップくん再び

卒業して数年たったある日

自宅に電話があった。

私にチューリップが似合うといったZからだ。


母からの伝言を受け取り

自分の携帯からZの携帯へ電話してみる。


用事は何かと尋ねると


「元気かな?と思って」


と、相変わらずのあどけない好青年のような声。


「あ、うん。元気だよ~Zくんは?」


「俺、今ディーラー店のセールスやってる」


とのことだった。

自分も短大卒業して働いていたが、

彼も働いていることに同級生なのに驚いた。


そういえば、Zも専門学校卒だったな~と思い出した。


「俺、車持ってるから、今度ドライブ行こうよ!」


と、なんの躊躇いもなく誘うZに半ば押し切られるような形で

適当に返事をした。


数日後、仕事から帰るとZからの着信。

折り返し電話すると


「今からドライブ行こうよ」


と、ウキウキ声のZ。


「明日は休みだし、いいよ」


と答えると、あっという間に家の近くまでやってきた。


乗ってきた車は2シーター。

必然的に助手席に乗る。


「どこ行く?」


上機嫌なZ。


「高校の近くでも行く?」

「OK」


と、車を走らせた。


道中、懐かしい話をしていると


「あ、そうだ。Fくんとこ行こうか」


と言い出した。

車を止めて電話するとちょうどFくんの家にGくんもいた。

急遽、Fくん宅を目指すことになる。


Fくん宅までは、峠を2つほど越えなければいけないため

暗い山道を通る。

どこに連れていかれるんだろうと、ちょっとした恐怖心も出てきたが

となりではのんきに話しながら運転するZ。


しばらくするとFくんの家に到着。

Zが電話すると2人とも出てきた。

助手席にいる私を見て、驚く2人。


大した会話もせず、2人と別れると

「家まで送るね」


と自宅まで送ってくれ、颯爽と帰っていった。

あれは一体何だったんだろう

なんて悩む暇もなく、その日からほぼ毎日電話がくるようになった。


仕事の愚痴、恋愛の愚痴など

色々と相談していくうちにZが


「10年経っても2人とも結婚してなかったら、結婚しようか」

「何それ。いいよ~」

「マジ!?絶対だよ」

「いやいや、こっちこそ絶対だよ」


と軽く話していた。

そんなん言っても、モテるZ。

私より先に結婚するだろうと思っていたし

そんなのは冗談だと思っていた。


ある日、友人Aと飲んでいるとZから電話がなる


「今何してるの?」

「Aと飲んでるよ~」


実は、ZとAは一時期付き合ってたことがあった。

Zと最近会ってる話はAにもしていた。


「今から会えないかな」


と言われ、Aとは別れていつものノリで会うことになった。


「どうした?」

「いや~仕事で色々あって」


いつもより少し暗い感じがした。


「今日、俺疲れてるから休めるとこがいいんだけど、

 カラオケか家、どっちがいい?」


と、急に聞かれた。


実は、1度だけZの家に行ったことがあった。

一緒にゲームしたり、Zが弾くギターを聞いたりした。

なぜ、Zの家に行くことになったかは、

覚えていないが、2人で過ごした記憶がある。


「どっちでもいいけど・・・カラオケにする?」


というと


「ごめん、家でいい?」


と言われ、前回同様になぜかZの家に行くことになる。

当然、用事が終わったら送ってもらえるものだと思っていたので

気軽な感じで行ったのだが、玄関に入るなり


「静かに入って」


と言われた。

Zは実家暮らし。

玄関入ってすぐ横の部屋へ静かに入るように案内された。


居心地悪い感じで部屋に入ると


「適当に座ってて」


と、1人にされ、呆然と立ち尽くすと。


「これ、着れるかな?」


と、スウェットを差し出される。

困惑した表情で受け取ると


「俺、部屋出てるから着替えといて」


酔っぱらってることもあり、思考がうまく回転せず

言われるがまま着替えた。


しばらくするとZ自身も着替えて戻ってきた。

するとおもむろにに布団を敷きだす。

あ、そんなに疲れてるのかと思い


「私、帰ろうか?」


というと、


「こっちで寝ていいよ」


と、1つしかない布団の端を指さす。

冗談かと思い


「いやいや(笑)」


と返すと、Zが布団に入り、布団の片側を開けて

ポンポンとたたく。

戸惑っていると


「おいで」


と手をつかまれて布団に入ることに・・・。


「おやすみ」


と言われ、腕枕をされたまま一晩を過ごす。

この状況でキスの1つでもされれば

理解はできるのだが、キスもされないまま

寝息を立てて眠る彼の横顔をみながら一夜を過ごした。


気が付くと朝になっていた。

いつものように無邪気なZ。

昨日の夜とは全然違う。


「眠れた?」

「あ、うん」


まぁ、眠れる訳はないのだが・・・。

布団の中で他愛もない会話をして

そろそろ起きようとした時

Zが急におでこにキスをした。


「?」


びっくりしている私を見つめてニコッと笑うと

そっと口びるにキスをして、布団から出て行った。


その日も仕事があるというZ。

駅の近くまで送ってもらい、別れた。


なんだ?これ?


と思いながら、家路に着く。

その日の午後、Zから良くわからない電話がくる


「キスしたこと、だれかに言った?」

「言うわけないじゃん」

「そうだよね・・・ごめん、しばらく連絡しないようにするね」

「うん・・・わかった」


なんだか良くわからない電話に困惑しながらも電話を切った。


その電話をきっかけに、Zとは疎遠になる。

数年後、Zから急に電話がかかってくる。


「元気?」


彼からの電話はいつも突然で、いつもこの言葉から始まる。


「うん、元気だよ」


素っ気ない私の声に何かを察したのか


「今、電話して大丈夫だった?」

と聞いてきた。

「あ~、うん。あのね、私”結婚”したんだ」

Zと連絡が途絶えてから、今の夫と出会い

地元を離れて結婚生活をスタートしたばかりだった。


「そっか~、おめでとう!お幸せにね

 じゃぁ」


そういって、Zから電話を切った。


彼は何を発端にいつも私に電話をしていたのか

そして、何を発端に私と距離を置いたのか

それは未だに分からない。


私が1歩踏み込んだら、関係が前進していたのかもしれないと

時々思う。


でも、風の噂でZが

車を買ってもらうために同級生の女子に会いたいと連絡している

という話を聞いた。


Zとは、お泊りやキスまではしたけど

自分の乗っている車を自慢することはあっても

車が欲しいか?と聞かれたことが一度もない。


もし車を買ってほしい一心で

あそこまでしたのなら

普通に「ノルマヤバイから、車買ってほしい!」と言ってくれれば

考えたのにな~と、思うが、真相は闇の中だ。


私が結婚してから数年後

どうやら彼も結婚したらしい。

彼も幸せな家庭を築いていることを祈るばかりだ。

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