第11話 友達の友達はヘンタイ②
修学旅行が終わると、先生たちがソワソワしだす。
進路を決めて動き出さなきゃいけなくなるからだ。
卒業後、就職を希望する子は夏前には企業訪問も終わり
最終段階に入らなければいけないし
進学を希望する子は、志望校を決めて
目標を立ててひたすら走るしかない。
ただ、危機感を持っているのは、先生や親だけで
生徒は、その危機感に全く動じず
いつもと変わらぬ夏を迎えようとする。
でも、時々思う。
「卒業か~」
と。
でも、時計は止められない。
気持ちもすぐには変わらない。
いつも通り過ごす日々。
ある日の放課後、教室の窓から外を見ていると
ふと、背後から気配を感じ振り返った。
その瞬間、教室の前後の扉を閉めるAとMの姿が見えた。
「え?」
と思うと目の前にTがいた。
このシチュエーションはやばいと思って後ずさったが
時すでに遅し、Tが目の前にいた。
「何してたの?」
いつになく優しく聞くT。
少し警戒を解く。
「ただ、ぼーっとしてただけだよ」
「ふーん」
といいながら、近づくT。
教室の端っこの窓辺にいたから逃げられなかった。
壁とTとに挟まれる状態になり、Tが顔を近づけた。
咄嗟に顔を背けた。
「俺のこと、嫌い?」
ちょっと切ない声で呟いた。
「嫌いじゃないけど」
また、曖昧に応えてしまう。
「じゃぁ、いいじゃん」
さらに近づくTの顔。
「よくない!こういうの嫌だよ」
Tを押しのけると
「ごめん」
と素直に謝った。
「なんで?」
いつになく食い下がるT。
「ここは、学校だし、それに今は恋愛とか興味ないから」
少し怒ったようにいった。
私にとって学校は神聖な場所だった。
そして何よりも、この学校が大好きだったし
ここで出会ったすべての人が好きだった。
なぜか分からないけど、私は高校生のうちに誰かと付き合うなんて
想像もできなかったし、実際に誰かと付き合うことも一切なかった。
誰が好きとか、誰が嫌いとか、そいうことじゃなくて
私自身を受け入れてくれた、この居心地の良い空間を壊したくないだけだった。
「じゃぁ、いつならいいの?
卒業したらいいの?」
「そうね、卒業したらいいかも」
適当に答えた。
でも、Tは納得したように出て行った。
それから、進路のこととかで忙しくなり
部活動も減ったため、Tとの交流は減っていった。
そして何事もなく、2人は卒業していく。
Tは専門学校へ
私は短大へと進路が決まっていた。
新しい世界へ胸躍らせながら
ちょっぴり後ろ髪をひかれながら卒業していった。
卒業式を終えて数日後、
突然、Tから電話が掛かってきた。
「近くまで来たから会いたい」
と。
駅まで迎えに行き、部屋へ通すと
まだ卒業してから数日しかたっていないのに
高校生活を懐かしみながら、卒業アルバムを見ていた。
するといつものように襲いかかるT。
いつものように抵抗する私。
「卒業したから、いいじゃん」
イヤ、そういうもんじゃないだろうと抵抗したが
いつになく力強く抑えられた。
「いや、順番があるじゃん」
と、誤魔化すと小動物のように瞳を丸くして
「順番?」
と聞いてきた。
普通あるべく順番をすっ飛ばして、キスするなんてありえないというと
「じゃぁ、付き合ってください」
”じゃぁ”ってと思ってクスッと笑った瞬間に抵抗の力が緩み
Tにファーストキスを奪われてしまったのはいうまでもない。
その後、Tと付き合うことになるのだが
学校が違うことと、私がバイトを始めたことにより
お互いの生活スタイルの違いから音信不通になった。
まだPHSが出始めた頃だった。
お互い携帯を保持していなかったこともあり
自然消滅してしまうのは、時間の問題だった。
このまま自然消滅はいただけないと
私はTに手紙を書き、一方的に分かれた。
後に私からの手紙をもってSのところにTが相談に行ったようだが
私がSにTとのことを相談していたこともあり、Sから門前払いを食ったそうだ。
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