第10話 誠実な告白

あっという間に高校生活も3年目を迎え

進学校ではない我が校は、春に修学旅行で沖縄へ行くことになった。


先生たちが北海道を推す中、生徒たちは

青い空と海、そして白い砂浜を夢見て沖縄を選んだ。


とはいえ、事前学習も現地に行ってからの学習もしっかり行い

ちゃんとした”修学旅行”を遂行。


ひめゆりの塔、糸数豪、チビチリガマ、首里城

沖縄の歴史を短時間で感じられる貴重な4日間だ。


1日目は研修施設のようなところに泊まり

2日目以降はリゾートエリアの少し高めのホテルへと宿泊した。


それは、最終日の夜に突然訪れた。

私と同室だったAが、KとIを部屋に連れてきた。


Iは、巨漢の男の子。

巨漢な上にオネエ言葉で女子からゆるキャラのような扱いを受けていた。

オネエ言葉で紛らわしいが、恋愛の対象は女の子だ。


Kは、私とは1年生のころから同じクラスで

入学当時の席も近かった為、男子の中では比較的交流のある人だった。


生物部の部長もしていたし、

明るく、好きなことをとことん突き詰めていくタイプで人望もあった。

Kの周りには、オタクではあるがいつも友が囲んでいるイメージだ。


部屋に入ってきた2人は対象的だった。

IとAは、何か企んでいるようだったし、

逆にKは少し緊張していたように思えた。


部屋の中でお菓子を食べながら、雑談していると

AがKの脇をつつく。


「(筆者)さん、ちょっといいかな」


そう言われ、Kとベランダへ出た。

察した私は、海の方向を見ながら話しを逸らすようにたくさん話そうとした。


「(筆者)さん、好きです!付き合ってください!!」


4月の沖縄の海風がふわっと2人を包んだ。


Kをそういった対象で見たことなかったから、返答に困った。

部屋の中に目をやると、IとAがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


誠実な彼には誠実なお返事をしたいと思った。

沖縄という環境と高校最後の1年であるという想いでのぼせ上って

Kとお付き合いするのは、なんだか誠実じゃない気がした。


「ありがとう。返事は少し待ってもらってもいいかな」


困っている私を察してか、


「わかった。」


そう言って部屋に戻り、そのまま部屋を出た。

IとAは、Kの後を追い 私はベランダで波の音を聞きながら

なぜか、Tのことを想った。


そのことですでに結論は出ていたのだろうが

”恋”とか”付き合う”ということが分かっていないお子様だった私は

帰宅後もKのことで悩む日々が続いた。


沖縄から帰ってきて、Kと互いに接し方が変わってしまったことが

何となく嫌だなと感じ始めた頃、

Aが


「Kへの返事、先延ばしにしないであげて」


といつになく強い口調で言った。


「私が好きになる人は、みんなアンタが好きなんだよ?

 私の気にもなってよ」


AはずっとKが好きだったらしい。

でも、Kが私を好きだということをAは知っていて、

他の人とお付き合いしたりして、自分の気持ちを誤魔化していた。


その日の帰り、ホームで友達と歩いているKを見かけて

私はKを呼び止めた。


告白されて驚いたが、嬉しかったこと。

Kのことは、友達として大切な人であること。

今までの関係を壊したくないこと。

そして、返事が遅くなってしまったこと。


大事に大事に言葉を紡ぎ、誠実な告白に誠実に応えた。


Kは、いつものようにニッコリ笑い


「分かった。ちゃんと返事してくれてありがとう

 これからは今まで通り仲良くしてください」


と握手を求められた。

Kの手を握ると


「はい、この話はもう終わり!」


というと、電車にいる友の方へと帰っていった。

私もAたちがいる同じ車両に乗り込む。


いつものようにKにじゃれるA。

それを見てくすくす笑う私。


一瞬で元に戻れるようにしてくれたAには感謝しかない。


数か月後、AはKに告白するのだが、あえなく撃沈していた。


「アンタはホントずるいよ」


と、冗談交じりに私に言った。

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