第9話 文化祭
文化祭でのクラスの出し物が演劇に決まった。
私の通った高校は、
なぜか、演劇を上演するのが伝統だった。
高校に入ったばかりの1年生は
文化祭への憧れから
喫茶店やらお化け屋敷などをやるが
文化祭最終日に出し物の最優秀賞と優秀賞が決まる
それは来場者からの投票と
生徒・先生からの投票を元に決まるのだが
毎年、演劇をした3年生と2年生が接戦となる。
最優秀賞と優秀賞に選ばれたクラスは
後日、全校生徒の前でアンコール公演と称して
体育館での公演ができる。
1年生はその最優秀賞と優秀賞の作品を
目の当たりにして作品の出来に驚愕する
また、校内では不良として有名な先輩たちも
真剣に演技をする姿を見て先生方も感動するのだ。
そして、1年生は
「来年は私達も!」と
翌年から演劇を選択する流れとなる。
私達の学年も類を見ず
その流れで演劇を選択した。
題目は「ぼくらの七日間戦争」
映画を舞台用に脚本を起こす。
役者と監督、脚本、大道具、小道具を決め
手探りで稽古を始めたり、舞台を設計する。
取れた教室は社会科室。
激戦区の視聴覚室と体育館は3年生に奪われる。
体育館以外は舞台もない為
学校で廃棄待ちの総木造りの机と購入したベニヤで作る
机の脚を切り高さを作る。
高さをつける為、重ねたりする。
舞台は至ってシンプルで
背景などはなく無機質で芝居で見せる
小劇場スタイルだった。
文化祭の直前には、小劇場の演出家の先生をお呼びして
演技指導もして頂いた。
演技指導をしてくれることで
所作からセリフの言い回しまでが変わり
学芸会から小劇場へと格上げされる。
役者グループの熱も入り
放課後の稽古だけでは飽き足らず
空き地などでも稽古した。
稽古していくうちに
話したこともないクラスメイトと接点ができ
新たな交友関係ができることもある。
私はこの時、相原くんが好きな女の子役
映画を模写することを意識して
ブリブリの可愛子ブル女の子を演じた。
相手役の相原を演じたのがZ。
彼とは翌年も恋仲での役を演じることになる。
Zとの接近は急激なものだった。
彼には1年以上お付き合いをする彼女もいて
最初は躊躇していたものの、
演技指導やら何やらで役にのめり込み
すっかり忘れていた。
稽古中以外に役を引きずることもなく
ただ変わったことといえば
Zや、その友達のGやMとも
話をするようになった。
ある日、放課後の稽古に物足りなさを感じて
近くの空き地へ移動した。
陽も落ちてあたりが真っ暗になると
空き地にひとつだけある街灯が
スポットライトのように照らされて
芝居にも熱が入る。
気が付くと時間がだいぶ経過していて
「そろそろ終わりにしよう」
と誰かが言ったとき
Zがカバンから写ルンですを出すと
「写真撮ろうぜ」
と言い出し、みんなをあつめた。
グループで撮ったり
稽古風景のようにして撮ったり
ワイワイしてると
Zが誰かに
「(筆者)さんとオレ撮って!」
と、ツーショットを撮るために
誰かにカメラを渡した。
みんな一瞬固まるものの
Zの勢いがとまらず
私はZとの微妙な距離感を保ちながら
フレームに収まった。
ちなみにその時に撮った写真は
今だに手元にある。
撮影会後、解散。
それぞれ帰宅した。
後日、現像した写真を持ってきたZ。
「これ(筆者)さんにだけあげる」
彼が渡したのは、あのツーショットの写真だった。
2人しか映ってないので私だけにくれるのは当たり前なのだが
なんだか意味深な感じで渡されたので妙に意識してしまった。
あれから、無事に文化祭も終わり
山奥にあった学校の周りはすっかり秋の装いになった。
Zが1年以上付き合った彼女と別れたらしいと
風のうわさで聞いた。
なんとなく勝手に罪悪感が芽生えたのは言うまでもない。
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