第7話 友達の友達はヘンタイ?①
高校時代で最も仲の良かったS
彼女は別の科に通う同級生に
一目惚れする。
そして猛烈なアタックをして
見事彼氏をゲットするという
情熱的な恋をする子だった。
Sの彼氏には仲の良い
Tという同性の友人がいた。
休み時間や放課後を
一緒に過ごそうと
Sが彼氏を尋ねるとTが常に隣に居たようで
「私のライバルはTだ」
と、冗談をいうくらいだった。
そんなある日、Sが私に
「紹介してあげる」
と、Tを連れてきた。
お互いぎこちなく
迷惑千万だ、とばかりに会釈程度でおわる。
同じ趣味があるわけでもなく
共通の話題がある訳でもなく
普通に会話もない
当時、私は恋愛に興味はなく
カメラマンの時のように
大人を揶揄うのが好きなだけだった。
Tを紹介されて、数カ月たち
高校生活も2年目に突入。
何度かかSたちと一緒に帰るうちに
Tとも仲良くなった。
好きなアーティストの話になり
彼は遊佐未森が好きだと言った。
高校生が聞いている流行りの歌手ではなく
遊佐未森
当時、初めて聞く名前に興味がわき
CDを貸して貰えることになった。
数日後、休み時間に
呼び出され
廊下でCDを受け取る。
「ありがとう」
と、いうと照れ臭そうに
足早に去っていった。
遊佐未森の曲は
幻想的で
まるで小説の中に飛び込むような
そんな印象だった。
後日、借りたCDを返しに
商業科であるTのクラスへ行った。
廊下に出てきたTにCDを返す。
「ありがとう!すごく…」
感想を話そうとした時
教室から出てきた女子に
「Tちゃん、次 電算室だって〜」
Tは軽く手をあげると
「 じゃ移動するから」
と、素っ気なく終わった。
呆気にとられながらも
教室に戻る。
「ま、いいか」
と教室に戻りSに話すと
「ああ見えてTちゃんモテるから
商業科、男子少ないからね」
Tの容姿といえば
ヒョロっとしてて
小顔のメガネ男子。
細目だし
お世辞にもイケメンではなかった。
放課後帰ろうとすると
3話に出てきたMに声をかけられた
「今日、Tと話してたでしょ
気をつけた方がいいよ。
取り巻き多いから」
と、要件だけ言って帰っていった。
何を気をつけたらいいのやら。
ただの友達だし
それ以上にはならないはずだ。
ある日突然Sが
「演劇部立ち上げる!」
と、息巻いた。
既に顧問になってくれる先生を
見つけたらしく
仲の良い面子に声をかけていた。
もちろん、私やTにも。
Tは裏方をする予定だったようだが
いつの間にか役がついていた。
Sが脚本を起こし
配役もSが独断と偏見で決めていたため
T と私は恋仲の役柄にされた。
公演日は未定だったが
夏休み中も稽古することになった。
同好会扱いだった為、特定の部室がない。
その為、朝学校につくなり
稽古できそうな部屋の確保から始まった。
視聴覚室はエアコンがある教室だった。
部活動が盛んでは無かったので
ほぼ毎日のように視聴覚室を確保した。
視聴覚室での稽古は、ほぼせず
1日話をして終わることもあった。
誰かが持ってきた
心霊ものの映像を巨大なスクリーンで観たり、
良くも悪くも時代がよく
生徒が3人以上いれば先生に許可を得て
誰もいない貸し切りのプールに入れたり
稽古そっちのけで夏休みを満喫していた。
そんな毎日に退屈したのか
何がきっかけだったかは忘れたが
Tの変態的暴挙に出た。
その日、窓側の机の側に立っていたT
何気なく側を通り掛かった私に
側にあったカーテンをドラキュラ伯爵のように広げ
バザバサとみせたので
「何それ?」
と苦笑してると突如カーテンごと包み
カーテンの中に閉じ込めたのだ。
何が起きたか分からず呆然とする私
そして教室にいるSや部員たち。
そんなこともお構いなしに
カーテンごとぐるぐる巻きにされた。
「何?!なんなの?」
と声を出すと、みんなも我に返ったのか
笑いが起きる
Sが
「Tちゃん、発情した?」
と笑っている。
視聴覚室の暗幕は光を通さない。
しばらくすると暗闇に目が慣れたのか
上部の隙間から光が薄っすら入り
見上げるとTの顔が見えた。
なんとも言えない顔で私を見つめるT。
メガネがキラリとひかり
Tの内情までは伺い知ることはできなかったが
少し顔が近づいた気がしたので顔を背けた。
が、狭い空間なのでTの胸に顔を埋める形になる。
少しの沈黙があり、外野が
「え?何?ほんとに発情??
キスでもしてるの???」
と騒ぎ出した。
慌てて
「してない!誰か出してよ~」
と声を出すとTのもつカーテンが手から離れたのか
カーテンが解け、開放されて近くの机に倒れこんだ。
すると一息もつかないまま
たまたま遊びに来ていたDが近付いた瞬間
Tは私の時と同じように
コウモリのようにバサバサとして近付き
Dも被害者となった。
Sがゲラゲラ笑いながら
「発情してる」
とからかった。
Dは、巻き込みが甘かったのか
すぐ脱出して難を逃れていた。
私もD も、怒りはせず
変態と罵って笑いに変えて、それは終わった。
視聴覚室では猥談もしていた為
免疫も出来ていた我々は
Tの変態的気質になんとなく気付いていたこともあり
笑いのネタになっただけに留まった。
その日から、その変態的行為は日常化して
何人かの女子を部活動の時だけ
ぐるぐる巻きにするようになった。
ただ、Tは中には入らず女子だけを
ミイラのようにしていた。
私はといえば、Tがカーテンの側にいる時は
近づかないように注意していた為
被害に遭わなくなっていた。
そんな楽しい夏休みも終わったある日
私は高2になってから仲良くなったAに
話があると呼び出された。
彼女はちょっと素行が悪く
よく授業をサボったりしていた。
それを辞めさせて演劇部に誘っていて
夏休みも一緒に満喫していた。
もちろんTの餌食になっていた一人だ。
「あのさ、私Tに告白しようと思う」
彼女は結構「恋多き乙女」だった。
好きになる人には必ず告白していた。
「ふーん」
と素っ気ない返事をすると
「いいの?アンタ、Tちゃん好きじゃないの?」
と言われた。
びっくりして大きな声をあげた。
でも、この頃の私は
"高校生"という生活がとても楽しく
勉強も友達も部活も先生たちとの関係性も
大好きで恋愛をする余裕など無いほど
毎日が充実していた。
だから、誰が誰を好きかとか
自分が彼氏を作るとか
私の高校生生活には不必要だった。
それを説明するとA は納得したようで
「今日、昼休み告白してくる!」
と、教室へと戻って行った。
昼休み、お弁当を持って教室を後にするA。
チャイムがなり始めるとAが帰ってきた。
長かったからOKを貰ったのかと思った。
すぐに授業が始まった為、事の真相は聞けなかった。
昼明けの授業。
みんなが満腹で眠くなる頃、寝てる子を叩き起して
A から私へと手紙が届く。
"振られた"
A の方を見る。
なんだか、清々しい顔をしていた。
休み時間、Aに話を聞く
「告ったらスッキリした!
Tちゃんの好きな人も聞けたしね」
と、ほくそ笑んだ。
その日の放課後
そろそろ稽古も真面目にやらねばと
いうことになり
Sから
「2人のシーンを練習して」
と、準備室に2人きりにされた。
それはある意味「罠」だった。
部屋に入るや否や
ドアの前に机やらイスやらを置かれ
出れなくなっていた。
Sにしてやられたのだ。
そうだ、Sは私とTが付き合うことを望んでいた。
すっかりそれを忘れていた。
諦めたようにイスに座り
膝を突き合わせ本読みからスタートした。
ト書きに(見つめ合う2人)の文字で
動きが止まり、ふとTに目をやると
逆光で見えないが目が合っている気がした。
数秒の沈黙が数時間にも感じた。
「次、Tちゃんのセリフだよ」
と言うと
「…あ、ごめん」
と、いいながら台本を目で追うT。
「ここだよ、ココ」
と、立ち上がってTに近付いた瞬間
ラグビーのタックルのように
私の腰にT が抱きついた。
「え?え?」
とパニックになると
「少しだけ」
と静かになるT
動けなくなる私。
西側から差し込む夕日が
2人の歪な影を床に描いていた。
その頃には、Tの事が好きだったのかもしれない。
でも、恋愛に興味のない私は鈍感だった。
抵抗できないことへの恐怖心は無く
好きな人からされる変態行為は
なんの嫌悪感も生まないのだと今は思う。
しばらくすると外から
バリケードが解除される音が聞こえた。
ドアが開いた瞬間
何事も無かったようにT が部屋を後にした。
夏休み明けから文化祭の準備が始まり
演劇部の稽古は一時休止となり
各々自分のクラスの出し物に精を出すことになり
同じ校舎、同じフロアにいるにも関わらず
1ヶ月ほど、Tと会うこともTの存在すらも忘れていた。
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