第6話 カメラマン

色々ありながらも「恋」とは

無縁に過ごした中学時代も終わり

新たな出発をして隣町の高校へと進学した。


同じ学校から行く子は滅多にいない

偏差値底辺な学校だから

知り合いなんて皆無かと思われたが

同じ普通科に1人、

商業科に1人ずつ同じ中学校出身の女の子がいた。


だが、もともと仲が良かったのは

第3話に出てきたMだけだった。

Mは商業科だったので授業も違えば、

行動範囲もかわり

なかなか会わないことも増えて、

高校時代の私の中では小さな存在になった。


たまたま同じクラスになった

同じ中学校出身の子は全然接点がなかった為、

ほとんど知らない人ばかりのクラスだったことに

ちょっとホッとしていた。


五十音順の出席番号だったため、

4月の席は窓際だった。


何日かオリエンテーションをして、

まだぎこちない教室の雰囲気だったが

後ろにいたNちゃんと

少し会話ができるようになっていた。


Nちゃんのつながりで

同じクラスにいた女の子とも仲良くなり

何となく7人ほどが集まりだした。

中には、双子もいて

随分と大人数なグループへ入ったものだ

と我ながら感心した。


高校へ入って間もなく、1泊の林間学校があった。

梅雨も明けた夏の初めに

とあるスキー場近くにある合宿所へ

1泊するものだった。

到着してすぐ、登山が始まる。


ハイキングコースのようなところから入り

楽勝な気分でみんな登っていき

展望台で昼食をとり

ホテルへと向かう最後の道に差し掛かると

みんな立ち止まって唖然としている。


右手に動いていないリフトが

風になびいて揺ら揺らしている。

斜度は45度はあるんじゃないか?と思うほど。


「ここ降りるの?」


遥か遠くに見える建物の隣には

先生らしき人影が2~3人みえる。


立っては降りられない斜面を

ジグザグに降りていく人もいれば

膝が笑ってしまい

お尻で滑り落ちるように降りていく人もいた。


雪があっても怖いのに

雪がないスキー場を下る怖さは想像を絶する。

あの恐怖はいまだ脳裏に焼き付いている。


やっとの思いで中腹まで辿り着き

しゃがんで休憩していると

先生でもないラフな服装の

同行カメラマンが大事な機材を抱えながら

下山しているのが上に見えた。


「大丈夫ですか?」


笑いながら声かけると


「故障してる膝がヤバイ」


といいながら、必死に降りていた。

時折振り返って下山している生徒も

写真に収めなきゃいけないという

理不尽な仕事をしている彼に少し感動を覚えた。


本来の登山コースだったら

そんなとこは通らないのだろうが

スキー場を下るコースにすると最短で宿に着くため

毎年そこを通過している、いわば伝統行事だった。


ニヤニヤとしながら下で待っている教員たちに

イラっとしながらも

ヘトヘトになって宿舎のロビーに着くと

山のようにつまれた荷物の中から

自分のものを見つけ

エレベーターが無かったのか

はたまた使用を禁じられたのか今となっては

記憶は曖昧だが、

らせん状になった趣味の悪い

赤絨毯が敷かれた階段を

まだ笑っている膝に力を込めながら上がる。

先ほどのカメラマンが後から登ってきた


「なんだ、この階段

 昭和のラブホテルみたいだな」


とつぶやいた。

うら若き女子高生の前で、と思ったが

実に的を得ている表現だった。

数人いた生徒が振り返りカメラマンの顔を見ると

バツの悪そうに


「君たちは知らないもんね」


と、女生徒にクスクスと笑われながら

いそいそと階段を上がっていった。


部屋は7人部屋でクラスの半分の女子が入った。

久々に畳に座る。

ホッと一息つくとYが言った。


「あのカメラマン、格好よくない?」


「あ、うん」


「いいよね!」


そうはしゃぐと、

隣にいたHと2人で部屋を出て行った。


見た目はそうでもないけど、

同じ苦楽を共にした

いわゆる「吊り橋効果」なのか

はたまた大人の男性の魅力なのか

Yは双子と追いかけて行った。


私も淡い恋心をいだきつつ

Yのようには振る舞えず

ただただ静観していた。


夜、食堂へ向かう途中

階段でカメラマンと会い

「こんばんは」

と挨拶するとビックリしたように

挨拶を返された。


「そんなにビックリしなくても」


と言うと


「いや〜引率で来て

挨拶とかされたことなかったから」


と照れていた。


「今日大変でしたね

機材持って下山とか」


と労うと

困った顔つきで


「こんな大変な林間学校初めてだよ」


と苦笑いした。

大人って大変だな、と思った。


食堂に着くと入口で

Yと双子が駆け寄ってきた。


私はすっと自席へ着いた。

どうやら、名前や写真を撮ってもらったらしい。


興奮さめやらぬ感じで席に着く3人。

ワイワイと楽しげに夕食がおわる。


一夜明け、1泊の林間学校は終わりを迎え

帰り支度が完了すると

Y と双子はカメラマンへ近づき

ノートに何か書いて貰っている。


近づくと一緒に撮った写真を

送るから住所を教えて貰ったそうだ。


凄い、策士だ。


「また、ウチの学校の引率しますか?」


と、聞いてみた。


「来ると思うけど、僕が来るかは分からないな〜

ただ、この林間学校だけは、しないな〜」


「確かに」


と、皆で笑うと

先生の号令がかかり

楽しい1泊2日の林間学校を終え

淡い恋心も終了した。


数カ月後

体育祭の時にカメラマンと再会した。


話しかけると素っ気ない。

どうやら、前回の林間学校で

女子生徒と仲良くしているのを

咎められたようだ。


「怒られちゃうから」


と、申し訳無さそうに

仕事に専念していた。


一方、Yはカメラマンには興味がなくなり

とある独身教諭に入れあげていて

それどころではなかったようだ。


女子高生の一時的な恋


巻き込まれたカメラマン。

今思えば、

彼にとって災難な2日間だったのかも知れない。

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