番外編 ハッピー・ハロウィーン




「お姉ちゃん、見て見てー」


 妹の麻衣が着替えを終え、部屋から出てくると、彼女の頭には白い猫耳が生えていた。そして腰からはふさふさのしっぽが。

 だからといって、別に突然生えたものではなく、これはただの仮装であり、単なる飾りにすぎない。


 なぜなら今日はハロウィーン。


「どーお?可愛い?」


 にゃーん、とネコの真似をする妹。ああ可愛い。ペットにして飼いたいわ。

 ……こほん。

 邪な考えは頭の片隅に置いといて、


「うん、やっぱりあたしの妹ね。今日も可愛いわぁ」


 語尾にハートマークでもつきそうな勢いでぎゅーっと妹に抱きつく私は、そろいの黒猫の仮装で、2人の姉妹ならぬ、2匹の姉妹の猫だった。




 町の商店街で毎年開催される、ハロウィーンのイベント。

 仮装をしてスタンプラリーに参加すると、それぞれのお店からお菓子をもらえるという。

 スタート地点とゴール地点を兼ねた、イベントの受け付けでスタンプラリーのカードをもらい、仲良く手を繋ぎながら、町を歩く。


『トリックオアトリート!』


さすがに私も妹も思春期なので、少し恥ずかしいところもある。でもそれ以上に楽しい。

たまに入るお店で、買い物したり、お菓子をもらったりしながらスタンプを埋め、ゴール地点で景品をもらい、2人で写真を撮って帰った。




「今年も楽しかったねー」

「ええ、そうね」


ソファーに寝転がるようにしている妹の頭は、あたしの膝の上。

まだ仮装はしたままなので、こうすると本当の飼い猫のように見える。

頭を撫でると、にゃー、と鳴いてくれるからなおさらのこと可愛い。

しっぽを機嫌良さそうに振りながら(実際に振っているわけではないが)、あたしの顔を見上げた。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「どうしたの?」

「今度は私がお姉ちゃん撫でてあげる」

「え?別に良いわよ、そんなことしなくても」

「いいからいいから、ね?」


 負けたわ。


妹の膝に頭を預ける。

まるで羽毛布団のような柔らかい感覚がした。

そして髪を撫でるその手はマシュマロのよう。


「お姉ちゃんの髪ってさ、すごくサラサラしてるよね」

「いつも髪は気を遣ってるから」


なんだか眠くなってきた。猫の仮装をしているせいだろうか。

ふと妹の顔を見上げると、こっくりこっくりと、船を漕いでいる。


「ちょっと、麻衣…」


起こそうとも思ったけれど、そんな姿の妹が可愛いのでやめた。

代わりに顔を、唇が触れ合うところまで近づける。

すぐ目の前には、寝息を立てる妹の閉じた目。寝息すら感じられるほどだった。

(まったく、無防備なんだから)

キスをする寸前で顔を離し、妹の体をゆっくりソファへ倒す。


「zzz…zzz…」


妹に寄り添うようにして、私もソファに横になる。

私たち2匹は、猫玉になって、仲良く昼寝を始めた。

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