第3話 花たちは夜の帳と眠る。
「じゃあ、背中流すわよー」
「はーい」
お姉ちゃんに私の背中を流してもらい、ポジションを交代する。
「お姉ちゃん、痛かったら言ってね?」
「麻衣くらいの力なら大丈夫だから、強くやっていいわよ」
「はーい」
ゴシゴシと、自分よりも少し大きいお姉ちゃんの背中を洗う。
「じゃあ、流すねー」
「いいわよー」
お姉ちゃんの背中を、水と泡が流れていく。
いつも仲直りのしるしには、お姉ちゃんと2人きりでお風呂に入る。
昔は2人でも余裕のあった浴槽は、今では手狭になってしまった。
「ふぅー」
湯船にお姉ちゃんと向かい合って座る。
「ねぇ、麻衣」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「あなた、また大きくなったわねー」
お姉ちゃんの視線が私の胸に刺さっていた。
なんとなく、両腕で視線をさえぎる。
「もう、やめてよー」
「その脂肪、少し分けてくれない?」
「無理、できないよ」
言いながらお姉ちゃんはお湯をざばざばとかき分け、私の腕をあっさりと外し、今朝のように胸を揉み始める。
「あーもう、ホントにうらやましいわねー。あたしもこのぐらいあればいいのに」
「お姉ちゃん…!や、やめてよぉ…!」
一通り揉みしだかれた私の胸がやっと自由になると、反撃を開始した。
「じゃあ、私も仕返しだー!」
「きゃあー!妹がヘンタイー!」
「お姉ちゃんが言うなー!」
むんずとお姉ちゃんの私より小さい胸を掴み、ただひたすらに揉む。でもお姉ちゃんは、なぜかさほど抵抗してこなかった。
「やっぱり、お姉ちゃんって私よりおっぱい小さいよねー」
意地悪っぽく言うと、お姉ちゃんは頬を膨らませて、
「妹より小さくって悪かったわね。でもこれから大きくする予定だから、大丈夫だしぃー。見てなさいよ、あたしより胸が大きいなんていばれるのは、今のうちですからね」
「はいはい。頑張って部屋の冷蔵庫に隠してある牛乳たくさん飲んでね」
「んなっ!?な、なんでそれを知ってるのよ!?」
「妹はなんでもお見通しなのです!」
それからようやく、お姉ちゃんの胸から手を放し、体を寄せる。
横並びで2人というのは、本当に狭い。
「ねぇ、麻衣」
「なあに?」
「さっきは、ごめんなさいね」
お姉ちゃんはそっと私の頭をなでると、両腕を、今度は私の体に巻きつかせて、また抱き締める。
「麻衣が塾に行っちゃったあと、ずーっと考えてたの。
「ううん、そんなことないよ。だってお姉ちゃんは、私の大事なお姉ちゃんだもん」
「ありがとう、麻衣」
「なんかのぼせちゃいそうだから、先に上がるわね。麻衣、ちゃんと片付けしておいてね?」
「はーい」
先にお姉ちゃんが湯船から上がり、お風呂場から出ていく。その背中を目で見送る。
(でも、お姉ちゃんのほうが私なんかよりずっと綺麗なのになぁ)
昔から、お姉ちゃんはとってもプロポーションが良くって、親戚や友達から、美人ともてはやされてきた。その点は私も常々思っているから、別に嫉妬はしていない。
でも、お姉ちゃんは、私みたいな大きい胸の方が良かったと言う。けれど私は、お姉ちゃんも十分大きいと思っているし、実際姉妹でも揃って大きいから、少し不思議だった。
やっぱり、妹より小さいのが嫌なのかな、となんとなく考えた。
私がお風呂から上がって、パジャマに着替えると、お姉ちゃんはパソコンを開いていた。
「お姉ちゃん、何してるのー?」
「小説読んでる」
今流行っているという、「web小説」。お姉ちゃんもそのファンの一人だった。
「何読んでるのー?」
「教えなーい」
パソコンの画面をのぞいた瞬間、ページを閉じてしまって、中身は見えなかった。
けど、一瞬だけ、「オークマニュアル」の文字が見えた。
「お姉ちゃん、『オークマニュアル』って、何?小説のタイトル?」
「そうよ、でも中身はあまり知らない方がいいと思うわ」
「ふーん。じゃあいいや。ねぇ、そろそろ寝ようよ。なんか、私もう眠いな」
ふあああ、とあくびをすると、
「あらあら、今日の麻衣はおねむさんなのね」
「なにその言い方ー。私が子供みたいじゃなーい」
「あたしからみれば、麻衣はあたしより子供でしょ」
「それはそうだけどさー」
「でもそうね、今日は早く寝ましょうか。あたしも少し眠くなってきたわ」
そういうと、お姉ちゃんも、ふあああっ、とあくびをした。
お姉ちゃんの部屋、兼、私たち姉妹のベッドルーム。
元々は私の部屋にもベッドを置くはずだったけれど、少し狭くて置けなかった。その代わりに、広かったお姉ちゃんの部屋にダブルベッドを置くことで解決し、今に至っている。
二人同時にベッドに入り、やっぱりお互いの目を合わせる。
「ねえ、お姉ちゃん」
「どうしたの、麻衣?」
「なんか、眠くなくなってきちゃった」
「そう。じゃあ、こうしてみるのはどうかしら?」
するとお姉ちゃんはまた、私の体をぎゅっと抱きしめた。
「どう?これ少しは、眠くなった?」
「うん…なんか、あったかいな、お姉ちゃんのからだ…」
「麻衣の体も、あったかくていいわね」
雨の後で、少しひんやりとしている部屋では丁度いいくらい。そんなあたたかさ。
「ねえ、お姉ちゃ…」
見ると、私をハグしたまま、お姉ちゃんはすぅ、と眠っていた。
(お姉ちゃんのほうが、子供っぽい時もあるのにね)
お姉ちゃんの体に少し寄り添うようにして、私も眼を閉じた。
Fin.
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