第2話 昼下がり、花たちは風に揺れて、




 今日のお昼は、私の作った玉子スープと、お姉ちゃんの得意料理、すき焼き和風パスタ。


『いただきまーす』


 まずはパスタから。

 市販のすき焼きのたれを使った簡単なものだけど、お姉ちゃんの手にかかれば高級料理に変身する。


「お姉ちゃんの料理って、いつもおいしいんだよねー」

「フフ、ありがとう。麻衣も料理が上手くなったわね」

「そりゃあ、私だって成長してますからー」


 ちょっとだけ、自慢げに胸を張る。

 それを見たお姉ちゃんは、でも、と前置きしてから、


「頭のほうは、成長してるかどうか疑問だけどね」


 といった。私は、ちょっとだけ、むっとして、


「何をー!お姉ちゃんなんか私よりおっぱい小さいくせに!」

「なっ!?言ってはならないことを言ったわね!!」


 食事時にもかかわらず、第十何次姉妹戦争が勃発した。

 戦争とは、いつ起きるかわからないもの。




 黙って食事を終えた後、再び対峙し、いがみ合う。

 あんたは何々ができない、お姉ちゃんはこれこれがダメだ、あーだこーだお互いの欠点をあげつらい続ける。


 最後はお互い一切口を利かずに、私は塾へ出かける時間になった。




 さっきの喧嘩のことで頭がいっぱいになり、授業に集中できなかった。まあお姉ちゃんのいう通り、普段からあまり集中できていないけれど。




 授業の合間の休憩時間。


「おーい、麻衣ー」

「なにー」


 私に声をかけてきたのは、学校ではクラスメート、こっちでは隣の席の沙希さき


「ん?麻衣、なんか元気ないけど、どうかしたの?」

「ちょっと、家で、お姉ちゃんと喧嘩した……」

「まあ相変わらずの百合姉妹だことー」

「そうじゃないよ」

「んー、でもさ、『喧嘩するほど仲がいい』っていうじゃない?だからあんたのお姉さんは、ちゃんと麻衣のこと見てると思うんよー」


 突如謎の訛りが入る。それを訝しんだ私をスルーし、沙希は話を続けた。


「だから、ちゃんと帰ったらお姉さんと仲直りしなさい。いーい?」

「うん……」


 思わず目を伏せる。




 次の授業に入ってからも、私の頭の中はお姉ちゃんのことでいっぱいだった。

 今は何してるのかな。まだ私の恨み言でも考えてるのかな。




 授業も終わり、いつの間にか夕方になっていた。

 塾に行く頃には勢いの収まっていた台風も、離れていったらしい。

 空は夕焼け色に染まっていた。




 家の玄関前にとうとう着いてしまった。

 ガチャリ。

 鍵を開け、扉を開くと、お姉ちゃんがすぐ目の前にいた。

 お互いに目が合う。あっ、という言葉が出たのはほとんど同時だった。


「た、ただいま」


 つっけんどんに言うと、お姉ちゃんも、おかえり、と返した。


「夕ご飯の買い物行ってくるから、少し待ってて」

「うん」


 すぐ私と入れ替わるように、外へ出てしまった。




 2、30分後、お姉ちゃんが買い物袋を抱えて帰って来た。


「麻衣、手伝って」

「うん」


 お互い、最低限の指示以外は無言で作業をする。

 そのまま食卓に2人でつく。




「いいただきます」の言葉も、バラバラだった。

 その日の食事はなんだか味がしない感じがした。




 食事が終ろうとしているのに、「ごめんなさい」が言えないまま、時間だけが過ぎていく。




 食器を片付け、食卓で相手を見ずになんとなくティータイム。

 一口、二口ほど飲んでから、お姉ちゃんの方を向く。

 そこから先はほとんど一緒だった。


「ねえ、お姉ちゃん」

「ねえ、麻衣」


 一瞬静かになる。


「お姉ちゃんから、先に言っていいよ」

「うん。…麻衣、さっきはひどいこと言ってごめんなさい」


 テーブルに頭をつけた。


「私も、ごめんなさい!」


 お互いに謝る。


 お姉ちゃんが、私を優しく抱き締め、後ろから耳元で囁いた。


「ねえ、2人でお風呂入りましょ」


 私は、うん、と1回だけ頷いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る