ゼラニウム

 それから数週間が過ぎた。ゼラニウムは枯れず、順調に育っていた。

 けれど私はいま、ダイニングテーブルの上に並べた数枚の写真を見てため息をついていた。

「どうかしたのか?」

 リビングのダイニングチェアに腰かけた父が、テーブルに広げた家具の雑誌から目を離すことなく聞いてくる。

「んー……別に、なんでもないよ」

 あまり興味のなさそうな父に話すのは、なんだか癪だった。しかしそんな父の口から次に出てきた言葉は意外なものだった。

「なにか、難しそうな顔をしてるぞ」

「お父さん、私の顔なんて見てないじゃない」

 そんなことを言いつつ、雑誌から目を離す気もなさそうな父に私は少し悪態をついてみた。

 それでも父は話し続けた。

「親っていうのはな、志保。何も言われなくても、何かを話さなくても、なんとなく同じ空気を吸っているだけで自分の子供が元気がないことぐらいわかるものなんだよ」

 そう言うと、父は雑誌からようやく顔をあげて私を見た。

「な、なに……?」

「いいや、なんでもないよ」

 父は私に向かって微笑んだかと思うと、そう言ってまた雑誌に視線を戻した。

「なんなのよ……」

 気味が悪い、と少し思ってしまったのは、なぜだろう。

 少し考えればわかった。父は私を心配して声をかけてくれたのだ、と。

 私に元気がない以前に何かに悩んでいるのか、それがわかっていたのかもしれない、と。

 でもそれは自分で探したくて、探さなきゃいけない気がして。父から解答を得ても意味がない気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る