序章
旅
それは、今まで誰も経験したことのない、長い旅路だった。
二度と戻らなくてもよい片道切符の道のりであれば、さらに遠くまで足を延ばしたものが過去にはいた。
しかし、それでは旅とは言えない。
それは戻ることを最初から運命づけられていた。
それゆえここではあえて「旅」と表現する。
ただ、そうはいっても出発したところにただ戻るだけの単純なものである。そして、その経路はどの点をとっても交差しているところはなく、簡単な一筆書きになっていた。
周囲の景色も最初の頃こそ激しく輝いていたのに、そこから離れると以降は単調だった。微妙に変化しているはずではあるものの、微妙すぎて変化とは呼べない。
途中で誰かや何かに出会うこともなかった。出会っていたならば、別な意味で「遥かなる旅路」が開幕したかもしれなかったが、残念ながらその機会はなかった。
そんな孤独なものであっても、それは旅を続けなければならなかった。いや、続ける以外の選択肢はなかった。始めてしまった以上、終わるまで止まることはできない。
無論、道半ばで何か事故に遭遇すれば、人知れず旅が終わってしまう可能性はある。だが、幸運なことにそれはなかった。考えうる限り最も安全なルートが最初に設定されていたからでもある。
それに、戻ることを待っている者が大勢いた。別に使命感は持ち合わせているわけではないのだが、それでもそれは最初に運命づけられた通りに、待つ人々の下へ律儀に旅を続けていた。
そして、その旅がもう少しで終わること、出発点は目と鼻の先にあることを、それは知る由もなかった。
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