第3話B 美術室の驚く肖像画 怪

 3Fの美術室前にやってきた礼七は、鍵を開けて中に入っていった。確認のために部屋の照明を点けようとするが、スイッチを何度も左右に動かしても暗闇が引く様子はなかった。まるで礼七を見つめているかのような石膏モデルの視線を受けながら、窓へと歩いていき、室内を少しでも明るくするためにカーテンを端に退けた。窓辺に寄りかかりながら、取り出した組分けを確認する。

「美術室、美術室…驚く肖像画。美術部の生徒が忘れ物を取りに美術室に入ると、校長の肖像画が驚いたように口を開いていた…。うむ。」

礼七は、教室後ろの壁に視線を送る。美術部員のものや授業で生徒が描いたものの優秀作品が展示されていた。優秀作品のほうは題材が様々であったが、美術部が描いた絵は、全て校長の肖像画だった。熱い視線を向けてくる石膏モデルを少しばかり気にしながら、校長の肖像画の前に立つ。笑い顔、凛々しい顔、困った顔…様々な表情を作る校長が礼七を迎え入れた。

「どれも再現率98.7~99.5%はあるな。実に見事だ。」

美術部の絵の腕前に礼七は感心してウンウンと頷いた。校長の顔の癖や特徴を細部まで丁寧に再現されていた。表情の異なる校長の絵を一つ一つじっくりと眺めていると、目当ての驚いた表情を見つけた。

「これが七不思議の絵か?否、証言から察するに初めから驚いているのはおかしい。」

もう一度組分けを確認する礼七。確かに目撃者が騒ぐような状況に合わなかった。

「驚いたように口を開いていた…つまり本来口を閉じているはずのもの、が正解だな!」

顔を上げて、壁に飾られた肖像画を端から端までじっくりと眺める。口を閉じているものを指差しながら七不思議を絞り込んでいく。

「右上怒り、二段目中央笑い、三段目左2泣き、三段目右3勇み…この4つだな。その中で口を開くと驚いた表情になるものは…」

一点を指差しながらその絵の前に歩いていく。立ち止まった場所の前には、勇ましい表情を作る校長の顔が構えていた。

「お前が犯人だ!というかお前に何かが仕込まれている!はずだ!」

勢いよく鼻息を噴き出し、ゆっくりと絵に触れていく。

「ミスター佐伯、指紋を残してしまうが許せ…。」

絵の作者に謝りながら、指の油で絵が変質しないように注意しつつ、絵全体を触っていった。

「うむ…起動用のボタンがあるわけではないのか。裏側にも特に不審なものは見当たらない。」

触診を終えて、絵を破らないように気を付けながら裏側を覗くように少しばかり絵をめくるが、目立った仕掛けは確認できなかった。

「まさかこの絵ではないのか?否!俺の分析に狂いはない!多分!」

勇み顔の横に手を着き、壁ドン状態のまま鬼気とした表情で、礼七は校長の顔に自分の顔を近づけた。

「驚け!恐れ戦け!我こそは孤高のトラ!我こそは嘶く竜!我こそは!我、こそはぁぁぁぁ~~~~!!!」

眉間にしわを寄せながら肖像画とにらめっこをする礼七。しばしの間、睨み合いが続いた後、観念したのは校長の方だった。カチッという音と共にゆっくりと勇み顔の口が開く。

「うおおおお!!!やはりな!やはり貴様がな!!さあ、その奇妙な仕掛けの秘密を…」

視線を合わせながら礼七が絵を再びめくろうとしていると、パンッという大きな音が室内に鳴り響き、礼七は背中から床に倒れ込んだ。額には円形の風穴が開き、赤い液体が顔を伝って流れていく。礼七は白目を剥いた状態で口を大きく開いて動かなくなった。仄かに火薬の香りが立ち込める。口から僅かに煙を吐いてから、肖像画は再び口を閉じ、勇ましく前を見据えるのであった。


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