第4話

「理弦(りいと)キャラメル」


大学に着くと、俺はすぐに2階の休憩場に向かった。

こいつは何時もそこに居るから。


「翠々千え、それが人の顔見て一発目の言葉?まったく、挨拶もなしに」


俺をキャラメルで釣った男が、琥珀色のタレ目を細め、優しい声色に呆れを覗かせる。


「久遠(くおん)理弦さん。おはようございますキャラメル」


「御丁寧な挨拶貰ったとこ悪いけど、今キャラメル持ってないから。

てか、翠々千それ、語尾がキャラメルの人みたいになってるよ?」


いや、語尾にキャラメル付けて話す人間なんて、そうそうお目にかかれないだろ。


つーか、持ってねえのか……。

まあいいや、この授業終わったら買ってもらおう。


ていうか、こいつの髪の色、めっちゃ美味しそうなキャラメル色だよな。

そんな下らないことを考え始めると、




キャーッ


突然上がった黄色い悲鳴。

廊下の方に顔を向けると、気だるげなオーラを纏う、若干マッシュルーム気味な髪型の、黒髪の男が歩いてきた。


「あ、翠々千。生きてたんだ」


「ああ、おかげさんで。

あ、朔キャラメル持ってねえ?」


「持ってる訳ないでしょ。馬鹿なの?

翠々千のお世話係の理弦ですらそんなもの持ち歩いてないよ」


毒のある物言いをするこの男は、その整った顔立ちのせいで女共に騒がれまくりだ。


まあ、本人は迷惑そうだけど。


こんな奴の何処が良いのかさっぱり分からん。


俺からすればコイツ……朔は、やる気のない毒キノコだ。



「ちょ!朔!?なんて言い方するの!?

って思ったけど、翠々千も大概だね!?お前ら友達に向かってそんな事思ってたの!?」


どうやら、声に出ていたらしい。


「理弦うるせえ、声がでかいんだよ」


「ここ公共の場だから」


「あ、朔お前次の講義俺と一緒」


「え?そーなの?次何だっけ?」


「心理なんたら」


「ああ、あれね」


朔と話しながら、理弦を放置して歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る