第2話

「ーーくん、すずくん?鈴くん!」



チッ、うるっせえな。


「ん?」


「あ、起きた!よかったー」


よかったーってお前が起こしたんだろうが。と心の中で悪態づいたが、それを声に出すのもめんどくさい。


つうか、この女誰?

寝すぎたせいだろうか。

鈍痛を覚える頭を働かせ、昨日の記憶を呼び起こす。



ーーああ、思い出した。

昨日飲んでたバーで、抱いてくれってしつこくせがまれて、抱いた女だ。



「鈴くん、ずっと魘されてたんだよ?」

名前すら知らない女の手には、ミネラルウォーターと、タオルが握られており、魘されていた俺を介抱してくれていたことが分かる。



なんだそれ、心底不愉快だ。

介抱してくれた事への感謝よりも、自分への情けなさとか、こんな低能そうな女に慰められた事に対する嫌悪感ばかりが渦巻く。

人として終わっている気がする。



目の前で揺れる色落ちして根元が黒くなり始めた金髪も、朝だというのにお面かと言いたくなるほど塗りたくられた化粧も、明らかに付け過ぎの甘ったるい香水の匂いも、全てが神経に触る。



こんな女、よく抱けたもんだと昨晩の自分に感心してみても、この残念な状況は1ミリも変化を見せないわけで。


汗をかいて気持ち悪いが、このまま此処に居るよりはずっとましだと判断し、立ち上がる。



「鈴くん?どこいくの?」


この女、本当に馬鹿だろ。

ラブホテルなんかに、長々と滞在する訳ねえだろ?


「帰る」

ローテーブルに万札を置き、立ち去った。

後ろで女がなにか喚いたような気がする。

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