甘味中毒

実柳 尚花

第1話

「何処だ?ここ」


立ち並ぶビルと、車の行き交う交差点。

何処にでもある街並みだが、知らない場所だ。


いや、思い出せないのか?

初めて来た筈なのに、妙な懐かしさと既視感を感じる景色。


それに、やけに左手に違和感を感じる。


何時もはかけない眼鏡を身に付けている時の様な、普段は必ず付けている腕時計を忘れて来たような、そんな違和感だ。

加えて、誰かに視られているかのような不快感すら覚える。


ふと顔を上げると、じりじりと照り付ける太陽に初めて気が付く。


道の反対側に、カフェを見つけ、そこで少し、腰を落ち着ける事にした。

茶色の外壁に赤い屋根、小さく可愛らしいカフェだ。


落ち着かない左手を、履いていたジーパンに擦り付けながら、信号が青を示すのを待つ。



右手側から走ってきた大型トラックが視界に入った瞬間のことだった。




はあっはあはあはあっ

突然襲ってきた息苦しさと頭痛に、顔を顰める。


なんだ?

気道に蓋をされているかの様な苦しさと、頭を内側から鈍器で殴られている様な痛み。




そのまま苦痛の中に意識を失った俺が最後に見たのは、

真っ赤に染まった自分の左手だった。


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