35
「幽霊なんてものを信じている奴はみんなアホだろ」
友光は言った。
「え?」
僕が返す。
「本当に幽霊なんてものがいると仮定しようか」
「うん」
「本当に幽霊なんてものが存在するのなら、いずれは存在の証明が出来るはずだ。何故なら本当に存在しているのだから」
「うん」
「でも現在の科学では証明できていないな」
「うん」
「おかしいと思わないのかな?」
「何が?」
「ってあれ? なんかこのくだり、去年もやらなかったか?」
「やったよ。去年も僕と友光はペアだったからね」
ハチジョー演劇部合宿恒例の肝試し中。今年も友光とペアを組んでいるけど、クジ運が悪かった訳ではない。こうなったのは清水のせいだ。
クジを引く段階になって、清水が「そう言えば去年は沢田と友光がペアだったよな? 今年もそこは一緒でいいだろ」と言い出した。部員達も笑い、はやし立てた。要するにその場のノリでこの眼鏡とペアを組む事になったのだ。
だけど、実は今、僕は清水に感謝をしている。
「友光は幽霊の事、信じていないんだな」
「信じる訳ないだろ」
「そっか」
友光は忘れたままだ。
「しかし肝試しか。全く下らないイベントだよ」
「そう? 楽しいイベントだと思うけど」
「相手が高橋先輩だったら、だろ?」
「ま、まあな」
「高橋先輩はもうとっくに引退してるというのに、ひょっとしてまだ引きずってるのか?」
「引きずってる訳ないだろ」
高橋先輩には今、彼氏が居る。サッカー部のキャプテンで笑顔が素敵で、性格も良し、高橋先輩と同学年の先輩だ。去年の大会の後に付き合い始めたらしい。いち早く蜂須賀さんがその情報を何処からかゲットし、あっという間に演劇部に広まった。
「去年の大会の後だったか。沢田が高橋先輩に振られたのは。あの時の沢田の落ち込みようったらなかったな。何を聞いても上の空、暫く会話も儘ならなかったし、自殺するんじゃないかって思ったぞ」
僕は高橋先輩には告白していない。友光は勝手に勘違いしている。
さっきは友光に引きずっていないとは言ったけど、実は10ヶ月経った今もまだ引きずっている。もちろん高橋先輩の事じゃない。
何かしている時、一人で居る時、いつもいつも上田さんの事を考えている。上田さんは僕の心にずっと憑依している。日常の何でもないどんな些細な事でも、上田さんならどう思うかなんて考えてしまう。
「なあ、ちょっと寄り道してもいいか?」
「え? 何処行くんだ?」
不思議そうな顔で聞いてくる友光。
「音楽室」
上田さんが居なくなった後も何度もこの旧校舎の音楽室に通った。上田さんの事を忘れられなくて、此処に来ればまた会えるんじゃないかと淡い期待を抱いていた。その度に悲しい思いをした。
でも今日は、上田さんと出会ったあの日と全く同じ条件だ。清水が僕らをからかってくれたおかげで友光と二人で音楽室に向かえる。上田さんにもう一度会えるなら、今日しかない。お盆も近い。僕はいつも以上に期待していた。
「なんで音楽室なんか行くんだよ」
「いや……夏休みが明けたら旧校舎は工事が始まるだろ。音楽室はたまに稽古で使っていたから、最後に見ておきたいと思ってさ」
この旧校舎は二学期に入ったら改修工事が始まる。あの音楽室が無くなってしまえば、上田さんに会える可能性は限りなくゼロに近くなる。だから今日は上田さんに会える最後にして最大のチャンスなのだ。
肝試しのルートから逸れて、僕は二階に上がる。友光は「別に今じゃなくてもいいじゃないか」とブツブツ言っていた。今じゃなきゃ駄目なのだ。友光がいないと駄目なのだ。出来るだけ同じ条件でないと会えないような気がするから。
音楽室の近くに到着する。期待に胸が高鳴っている。あの日と同じように防音扉は開け放たれている。僕は駆けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます