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 僕は自分の部屋に戻るとスマホでLINEを起ち上げた。堂本さんにメッセージを送る為だ。

 堂本さんの電話番号やLINEのIDは知らないし、もちろんフルフルもしていないから、僕の友達リストに堂本さんはいない。そこで僕は演劇部のLINEグループをタップした。この夏の合宿で誘われ、入ったグループだ。


 演劇部のグループには様々なアカウントがある。自分のフルネームを漢字で登録しているのは友光だけだった。みんなはあだ名や、自分の好きなキャラの名前を自分のアカウントに付けていて、誰が誰だか分かりにくい。しかし堂本さんは分かりやすかった。アルファベットで『DOーmoto』と記されているアカウントがある。かなり高い確率で堂本さんだろう。演劇部に堂本という苗字は他にいない。


 僕は堂本さんのアカウントをタップする前に手を止めた。mao55というアカウントが目に入ったからだ。高橋先輩のアカウントだ。このグループに入った時に僕は真っ先に高橋先輩のアカウントを探した。その時の高橋先輩のアカウント写真はアンパンマンだったけど、今は誰も写っていないルーズショットの海の写真になっている。沖縄だろうか、とても綺麗な海で浅瀬の砂浜が透けて見える。もう二度と戻ってこない高一の夏を感じて寂しくなった。


 高橋先輩のアカウントを閉じ、堂本さんのアカウントにアクセスする。堂本さんのアカウントは猫の写真だ。茶トラの猫がベッドで寝ている。その写真の下に『ブロック』『追加』とあり『追加』をタップする。


「沢ちん、何やってるの?」

 上田さんだ。

「ん? いや、堂本さんにLINEしようと思って。ごめんねって」

「ふーん、あ、ねえねえ映画観たい」


 僕は借りておいた『ゼアウィルビーブラッド』をデッキにセットして再生した。ダニエル・デイ=ルイスの演技は素晴らしいと上田さんが言うので、ルイスの出演している映画を借りたのだ。


 僕は堂本さんにメッセージをしようと再びLINEに向き合った。

『今晩は、突然友達に追加しちゃってすみません。沢田です』

『今日は堂本さんの希望に応えられなくてごめんなさい』

『実は聞きたい事があって連絡しました。上田さんの死因の事なんだけど、堂本さんは上田さんの死因を知っていますか?』


 三連続でメッセージを送る。送った後、砂を噛んだ様な嫌な感触が残った。


 上田さんの死因を突き止めて僕は一体何がしたいのだろうか。突き止めたところで何がどうなる訳でもない。この前夢の中で見た事故の様に惨い死に方かもしれないし、想像もしたくないような死に方の可能性だってある。死因は死因だ。それも中西先生が口をつぐむ様なものだ。はっきりさせても良い事なんてない。このまま上田さんが舞台に立って成仏する。それでいいのに。


 堂本さんから返信が来たのは映画が中盤に差し掛かったときだった。すっかり映画にのめり込んでしまい、堂本さんにメッセージを送ったのを忘れかけていた。ブブブっと机で動くスマホの音を聞いてそれを思い出す。


 僕はその堂本さんからのメッセージを見て、一瞬彼女が一体何について書いているのか理解が追いつかなかった。そしてその言葉の意味を飲み込んだ時、僕は肺が半分になったみたいに自分の息が浅くなるのを感じた。


『心中の事?』

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