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「馬鹿だな。そんな訳ないじゃないか」僕の心配なんかまるで杞憂だと言わんばかりにあっけらかんと否定する友光。


 僕らはセレオ八王子のサーティワンとスタバでテイクアウトして、駅ビル前の広場に座っている。友光は手に持つサーティワンのダブルチョコレートチーズケーキとボックスオブチョコレートのレギュラーダブルにパクついている。ダブルやらチョコレートやらチーズケーキやらややこしい。チョコなのかチーズなのか。まあ、つまりは二段重ねのチョコアイスだ。


「沢ちんそりゃないわよ、それは飛躍しすぎ」呆れ顔の上田さん。

 かなり意を決して自分の考えを言ってみたのにこんなにあっさり否定されるとは。でも、あっさり否定してくれて良かった。心が軽くなった。


「そうかな……そうならいいんだけど」僕は残り少なくなったスタバのダークモカチップフラペチーノを啜る。ベンティという大きいサイズを注文したのだけど、もう三分の一程の量しかない。僕は当初普通のトールサイズを注文するつもりだった。だけど上田さんが注文の際に憑依してきてベンティサイズにしたのだ。まあ三分の二は上田さんが飲んでしまったのでベンティサイズで良かったかもしれない。僕にとってもダークモカチップフラペチーノは大好物なのだ。上田さんはジャバチップフラペチーノが好きだと言っていたけど、それはもう何年か前に無くなっている。今飲んでいるダークモカチップフラペチーノはジャバチップフラペチーノととても似ている。店員さん曰くベースはほとんど同じだそうで、上田さんもその味に満足していた。


「何でそんな考えになっちゃうわけ?」

「上田さんが中西先生の事を覚えていたのは、やっぱり中西先生に何か原因があるんじゃないかって思って。あと中西先生に初めて上田さんの事を話したときの先生の反応が凄く怖かったじゃないか」あと……変な夢を見ちゃったから。


「うーん」思い返しているのだろうか、上田さんは天を仰ぐ。

「殺されたって言うのは言い過ぎたかもしれない。例えば上田さんの死因は何かの事故でその事故の原因を作ったのが中西先生だとか」

「もしそうだとしたら上田さんと話をした時にその事を謝るだろ」友光の手にしたアイスはもう下の段に突入している。

「それは中西先生も言い出しづらいじゃないか。謝る時もこっちから瑞穂さんの事って誘導しちゃったし、死因の事も言えないって言っていたし」

「でも、そんな感じには見えなかったけどな。もし仮にそうだとしても上田さんを成仏させるためにはどうすればいいんだ? 中西先生に復讐するってのも現実味ないし、警察に言えばいいのか?」

「そうだよな……」そうなのだ、もし仮にそんな恐ろしい真実だったとしても、僕も友光も中西先生の事が好きだからいざとなったら何も出来なさそうだ。


「まあ、そうと決まった訳じゃないからな……その心配は上田さんの死因が明らかになってからだ」友光は腕を組む。

「私の死因……か……」目を瞑って何かを思い出そうとする上田さん。


「上田さんの事を知っている人が居れば話が早いんだがな」

 上田さんの事を知っている人……

「そうだ! 瑞穂さんって人!」

「名刺貰わなかったから何処に居るかわからないだろ。上田さんが成仏したと思っている先生には今更聞けないし」

「名刺は貰わなかったけど、それに何が書いてあったかは見えたんだ。アルファベットでBAR MIZUHOって書いてあった。URLも載せてあったから検索すれば出てくるんじゃないかな?」

「本当か? それなら場所は分かりそうだな」

「ま、待って! 今更瑞穂君に会うのはなんか気が引けるわ……もうけじめはついたし……」

「いや、それはそうかも知れないけど、これは死因を探る為に会いに行く訳だから。恋愛とかそういうのとは別だよ」

「あとなんか怖いわ……私の死因を探るの……」

「でも死因が分かれば成仏する為のヒントになるじゃない? 上田さん成仏して生まれ変わりたいんでしょ?」

「それはそうだけど……うーん、仕方ないか……瑞穂君位しか手掛かりないものね……」

「よし、そうと決まれば検索検索」友光はそう言うとコーンに差し掛かったアイスをバリバリと口に放り込む。チョコのついた口を紙ナプキンで拭ってiPhoneを取り出した。

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