第5話 初陣

 彼女とは酒場でいったん別れ、俺はコカトリス討伐の為の準備に取り掛かることにした。特別必要なものは存在しないと言ったが、常時必要なものはいくらでも存在する。


 彼女は急を要する姿勢を見せていたので極力時間をかけずに準備を済ませたかった。そのため、食材などを購入している余裕はない。


 アルカナの冒険者ギルドに顔を見せに行き、コカトリスに関する情報収集をする。コカトリスに関する知識はあっても、討伐に関する知識がなければ無駄に時間を消費してしまうだけだ。


 そして、情報収集を終えると、冒険者ギルドと提携を結んでいる商業組合に顔を出し、数本の矢と特殊なペイントボール、解毒剤などの即効性の医療品を購入した。


 落ち合う場所は町の入り口の門であった。既に彼女は門に身体を預けて立っていた。

 俺の顔を見るなり、遅いと言ったような表情をしていた。


「すまない、遅くなった」


 極力急いだつもりではあったが、彼女は不服であったらしかった。


「悪いわね、待たされるのが嫌いなの」


 不服をきちんと申し立てるさまは中々に清々しかったが、その機嫌が早いところよくなることだけを道中祈った。


 北の山に生息するのは基本的に討伐難易度C以下の魔物である。つまり、初心者の冒険者であっても条件が良ければ大きなけがをすることはない、というくらいの基準である。


 北の山とは言っても、丘陵な地形は少なく、なだらかで広大な山である。人が食事できる野草や魔物がいるため、野宿には困らない。つまるところ、基本的には何の問題もないクエストなわけである。


 それにも関わらず不安が止まないのは、彼女と共に行動しているせいだろう。まるで初めて見る景色であるかのように周囲をキョロキョロしている彼女の姿は、さながら初心の冒険者であった。


 もしくは目をキラキラと輝かせた見目麗しき彼女の姿に、俺が目を奪われているからかもしれない。自分と同じくらいの年頃の冒険者を見ることは久しかった。どう話してよいやらわからない部分はあるのが当然のことだろう。色香に惑わされていると言ってしまうのは聞こえが悪いが。


「もしかして、あんたクエスト受けるの初めてなのか」


 彼女は多少動揺したらしいそぶりを見せた。表情に変化はないものの、動きにはどこか怪しさとも言える違和感があった。


 初心者の人間がクエストを他の人と頼むのに隠したがる気持ちについてはどこか理解があったし、彼女の振舞からそれは予想がついていたので怒ったりすることはなかった。


「そ、そうだけど、何か悪いかしら。それと、あんたって言うのやめて。レイラって名前があるの」


「レイラか。それはすまなかった」


 そういえば、自分自身も名前を名乗ることを忘れていた。


「ついでだが、俺の名前はアスラという。短い期間になるがよろしく頼む」


「アスラ、アスラね。わかったわ。短い期間になるといいわね」

 彼女は皮肉交じりに屈託のない笑顔を浮かべて、そして俺の名前を何度も確認するかのように言った。このような女性を何と称すればよいだろうか、ああ、そうか。


あざとい。


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