第3話

 少なくとも見目麗しく、育ちのよさそうな冒険者であったことは間違いない。錆一つない白銀の甲冑、垣間見えるも傷一つないその四肢、そして俺以外の冒険者の数々も彼女に目が留まっていたのだから。冒険者としてあまりにも小奇麗にまとまりすぎていたのだ。


 クエストの受注をする掲示板まで一直線に向かい、目当てのクエストの受注書を手にしたかと思うと、すぐさま受付嬢のところまで行きクエストを受注したらしかった。その素早い作業はいかにも初心の冒険者を思わせた。


 手練れた冒険者の方がクエスト一つ一つを吟味し、自分の適性を測り、これに集う他の冒険者がいるか算段を立てる。

 先行きの見通しの甘い冒険者かよほど自分の腕に自信のある冒険者でなければ、即決即断などと言う選び方をすることはないのだ。


 その女はあたりをキョロキョロと見渡していると、やがて俺の方に視線を向けた。

彼女の中で何か合点がいったのか、適任らしい人間を見つけたのかわからなかったが、歩みを進めた。

 俺の方に視線を向けたとは言っても、実際に俺が目的であるかどうかは怪しかったので、俺は素知らぬふりをしながら昼食の手を進めた。


「ねえ」


 見上げると先の彼女の姿があった。どうやら、本当に俺が目的だったらしい。


「手伝ってほしいクエストがあるの。魔法使いの手を借りたくて」


 唐突な彼女の来訪は準備をしているとは言っても、まさか自分とはという気分だ。周囲の視線が自分たちに集まるのを感じたが、興味半分嫉妬半分と言ったところだろうか。


「それなら俺に声をかけたのは間違いだ。杖こそ持ってはいるが、魔法の道を諦めたしがない冒険者だ」


 どうやら彼女が求めていたのは俺ではなく、俺がテーブルに立てかけていた杖らしかった。それもそうだ。見知らぬ人間が話しかけに来るなど、何かしら打算的な考えがあって然るべきだ。


 師から譲り受けたこの杖を持っているせいで魔導士に間違えられることは少なくなかったが、それよりも自分の恰好が狩人により近づいているので、こと最近にかけては珍しい話であった。


 だが、この手の質問には既に慣れた答えを用意していた。


 狩人であるにも関わらずどうして杖を手にしているのか聞かれても、魔法を使うことに未練があるだとか答えてしまえば切り抜けることは容易かった。

 冒険者が聞きたいのは俺の身の上話なぞではなく、俺がどんな生業の人間であるかだったからだ。


 彼女は大層驚いた様子であったが、しばらく考え込んでから口を開いた。


「この際、あなたでもいいわ。見たところ冒険者として長い身の上のようだから聞くけれど、手伝ってほしいクエストがあるのよ」

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