第2話 魔導士?それとも冒険者?
宮廷からは少し離れたところにある村、アルカナ。その酒場で俺は一人、端の席で食事をしていた。
村の近くにある森に出現するゴブリンの盗伐を終え、昼食にありついていたのだ。
相変わらず酒場は賑わっていて、宮廷から逃げ出した姫君の話や宮廷に現れた義賊が彼女をさらったのではないかと言う話が肴になっていた。
月日というものは人々の生活をこんなにも変えるものかと感心すらする。かつて大盗賊ウェッケン・バッハの名前が轟いていたころは、こんな風に酒場で笑って話せる時などありはしなかった。
それが今では、土魔法というものが人殺しの道具と貶められること以外にはかつての面影など残してはいない。
わが師の汚名と恥辱だけが残ったに過ぎない。
魔法というものが危険視されるようになり、冒険者ギルドが活発化したのもこのころからであった。国の管理だけで安全が守れるという時代ではなくなり、己の安全は己で守ると言う尤もではあるが後ろ暗い世の中になったことを実感せざるを得ない。
この酒場の人気の黒胡椒の手羽先は香り高く、ぶどう酒と合わせて食べると中々に美味であった。口周りが汚くなるのが玉に瑕であったが、そんなことを意に介していられなくなるほどの味わいであることは断言できる。
うまさには秘訣があるらしかったが、酒場のマスター以外にその極意を知らぬ当たりミステリアスで魅力がある。
クエストの報酬で得た金の一部を酒場のこの料理につぎ込むのが日課になっていた。
冒険者など日雇いの仕事で日銭を稼ぐこの生活にも慣れたが、日々の暮らしの不安定感は否めない。順風満帆の道のりから失脚した過去を有する俺からすれば、日々の安定はもはや他の何にもまして得たいものであった。
そして、得難いものであった。
別段誰かと行動するわけでもなかったが、クエストの受注の際に人手が足らないところに参入することでここらの中でも知られた人間の一人にはなっていた。
「あいつとクエストを組むとどういうわけだかうまくいく」
実力もそこそこの人間と組むメリットなど普通はない。ご利益的な存在ではあった。
それでも一人でいることが多いのは土魔法を使えることを悟られないようにするためだ。
手羽先をほおばりながらぼーっとしていると、カランカランと鈴の音が鳴るのが聞こえた。酒場に誰かが入ってきたようだった。
人の出入りが激しいこの酒場で、常ならば気に留めることでもなかった。だが、そのときは違った。
女の冒険者が入ってきたのだ。
いや、女の冒険者が酒場に入ることは別段まれなことでもないはずであった。が、俺の目に留まったのは、おそらく彼女の衣服と身体に傷がついていなかったからだろう。なりたての冒険者か、それとも――。
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