土魔法は浮かばれない

雨宮傑

第1話 土魔法は浮かばれない

 宮廷の魔導士に魔法を教わり、順風満帆にことが進めば、俺は宮廷お抱えの魔導士になり一生楽して遊んで暮らせる生活が待っていた。


 しかし、俺に待っていたはずの楽な人生が終了の声を告げたのは十三歳にして間もなくなったころ、ちょうど土魔法のスキルが最大限にまで達し、師の役職に代替わりする前日のことであった。

 そのころ、起こった最大の出来事と言えば、大盗賊ウェッケン・バッハが捕まったことだ。ウェッケン・バッハは死に際、「今までの俺の悪行の数々は大魔導士アストラルあっての功績だ。俺が死してなお、俺を恨むというならば、その時は俺の代わりに土魔法を極めたアストラルを恨め」と言った。


 アストラルとは俺の師のことであった。


 国王陛下は即座にアストラルを召喚し、彼を糾弾した。

 彼が悪事を働いたという事例はひとかけらも判明されなかったが、土魔法を使って悪事を働いた大盗賊の死に際のセリフは国民の非難を呼んだ。無論、アストラルがウェッケン・バッハに関わっていた事実などあるはずもなかった。


 ウェッケン・バッハがどういう意図で死に際に彼の名前を挙げたのか、それだけが俺の疑問点ではあった。


 宮廷のお抱えの人間が国民に恨まれる存在ではあってはならない。

 国王陛下がとった無慈悲な選択は、大魔導士アストラルの宮廷からの追放、そして今後宮廷での土魔法の魔導士を仕えさせることはないという師と俺の事実上の永久追放であった。

 アストラルは無罪を主張することもできず、失意のまま心臓の病に伏し、そのまま亡くなった。彼の遺書には一番弟子であり、唯一の弟子であった俺が拠り所にすべき場所について示されていた。

 しかし、土魔法の継承者である俺の存在はもはや忌み嫌われる存在となっており、俺は行く先々で引き取りを拒まれた。


 仕方のないことだとは思えなかった。謂れのない罪を着せられ、人に存在を拒まれる感覚を味わうことを好む人間などいやしない。


 行く当てもなくなり路頭に迷った俺は、師から頂いた魔法の杖と半永久的に所持品を入れることのできる魔法の袋だけを持って、宮廷、ひいては城下町から離れることを決意した。

 俺のことを知らない人間の住むところまで行けば、苦虫をかみつぶすような感覚から逃れることができると思ったのだ。


 その後、宮廷から離れることに成功した俺はとある村の冒険者ギルドに入り、魔導士であった過去を捨てた。その村ではどこにでもいそうな狩人として生きることになったのだ。


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