第11話

「分からない……」


 とどのつまりそういうこと。俺にとってしても、? これはモヤモヤして仕方がない。


 今の状態はまるで、研究がうまくいかずイライラしているのに近いのかもしれない。


 無意識に頭に手を当ててかいていた。


 そんな中途半端な気持ちで家に帰ることとなった。




「ただいまー」


 玄関のドアを開けた。返事は……なさそうだが、中に誰かしらいることは分かった。


 俺は荷物を持ってリビングへ繋ぐドアを開けた。


「え゛」


 そんな奇妙な、明らかにおかしな光景が広がったことによる声が出てしまった。自分でも、こんな声を発したことは今までないのかもなんて思うほどに……。


「あ、おかえりお兄ちゃん!」


「お、お、おかえりなさい! に……お……」


「にお?」


 そこには、メイド服姿の我が妹たちがいた。見た瞬間に飛び引いてしまいそうになほど驚いたが、それを表には出さず、あくまで! あくまでも気にしない方向でマイカの言葉を待つ。


「ほら、ちゃんと言わないと。お姉ちゃん、お兄ちゃんに嫌われちゃうよ」


「お……おお……おおおお兄ちゃん! おおお、おかえり………なさい……」


 うーん!頑張った!エライ!! と頭では思っていてもそれじゃあキモいと思ったので口には出さず、「ただいま」と、無難に答えた。


 もう一度彼女たちのことをじっくりと見……見……見れない。


(これは、許されたのにっ! 俺の正義が許さない! これは危険だと訴えてくる! どうすればいいんだ来夢時正〜!?!?)


「それで、どうお兄ちゃん、似合ってる?」


「ああ、とても似合っているよ」


 それだけは即答で答えられた。というよりもそれしか感想が出てこない。だってそこまで見られないんだもの……。


 七香はクルリと回って見せたりして、その度に「どう?」と聞いてくる。そして俺がその度に「似合ってる」という問答を続けた。


 俺も言葉を発するたびに七香が本当に嬉しそうに笑うものだから、やむにやめられなかった。あの笑顔をずっと見ていたいと思ってしまっている俺がいた。


 だからこそ、背中をつねられた痛みは強くはないけれども敏感(時正のなかでは)にその意図を感じ取ることが出来た。


「わ、私は……ど、どうで……すか? 七香が着ろって言うから、着てみたんですけど……べ、別にいい言葉を催促しているわけではないですけど!」


「いや、舞香もとっても似合ってるよ」


 その瞬間に舞香のメイド姿を目に焼き付ける。


 舞香は七香よりも胸が強調されている感じの印象だった。まさに形がもろに現れている。もしかしたら、サイズがギリギリだったのかもしれない。


 その白と黒のコントラストに頭がクラクラしてくる。まるで見てはいけないものを見ているような、そんな気がしてきてしまう。


 きっと、これを萌えと言うのだろう。


(メイド服……おそるべし)


 そんな風に思っていると中から母親が出てきていた。


「っっ!!??」


 咄嗟に姉妹彼女たちが母親から見えないような位置に立った。


 それを敏感(時正を一とすると母親は三千)に感じ取ったのだろう。母はクスクスと笑っていた。


「私はあんたが無理やり着させてないことは知ってるから安心なさい」


「そ、そうか……」


 どうやら、母さんはすでに姉妹の姿を見ていたらしい。そう言ってくれたことに安堵のため息を隠せなかった。


「じゃあ、私はお邪魔だから台所にいるわね」


「ああ……」


 と、母親は出て行こうとするのだが、途中で止めて、「いけないことは同意を得なきゃダメよ」と爆弾を残して行った。


(母さん……それは妹たちの前で言ってくるなよ……)


 俺は肩を落とした。


 すると、もう一度扉が開き、ひよこっと母の顔が出てきた。


「お父さんが帰ってくる前にはやめるのよ」


「はーい」


 と、言い残し今度こそ母はいなくなった。この返事をしたのは、俺でないことは分かっていただきたい。


 俺は妹たちの方へ向き直る。そして開口一番は


「で、どうしてそんな服を着ているんだ?」


 と言った。


 ごく当たり前の質問だ。うちは普段からメイドを雇うような豪華な家でもないし、あるアニメにあるような特殊な事情の絡み合う家でもない。


 あの薬事件がなくてもこの家はごく普通の一軒家だ。


 しかも、着ているのは舞香と七香の妹たちだ。明らかにコスプレだとしか思えない。つまり、なんちゃってメイドさんだ。


「えー、さっき似合ってるって言ってくれたじゃん」


「確かに言ったけど、それが動機か? そんなんでわざわざメイド服を着るのか?」


「そうです、私はただ着ろって言われたから着ただけなのでもういいですよね」


 七香の反論に俺と舞香が答えた。


 しかし、舞香の言葉に少しえ?というようなもっと見せて欲しい感を思ってしまった。


「でも、身体は正直みたいですよぉ〜」


 七香が俺の胸あたりに手を当てて撫で回しながらそうなことを言った。


「そ、そんなにくっつくな」


 どうやら、さっきの思いを感じ取られたらしい。くっ! 悔しいが相手が上手のようだ。


 意識的にそっぽを向く。これも薬のせいなのかと恥ずかしなりながらも考えてしまう。


 七香が密着しているせいで、七香の形が手に取るように分かってしまう。胸の凹凸であったり、女の子独特の柔らかい感触がっ……。


 そして何よりもこの甘い香りが俺をこんなにも狼狽させる原因にもなっていた。


「むぅ〜〜……えいっ!」


(せ、背中にもーーー!?!?)


 同じような……いや、それ以上の感触が背中に襲ってきた。


(や、柔らかすぎる!?!?)


 もうどうしていいかわからなかった。この状態で動けるはずもない。力ずくであれば抜けられないこともないが、それでは女性に向かって手を出すことになってしまう。


 それは男として、するべきでないし、してはいけないことだって思ってる。


 だからこそ、このマイシスバーガーのパンにハンバーグの俺が挟まれてしまっている構図である。


「ええっと。 舞香、七香? も、もういいだろ? そろそろ、俺がきつくなってきたよ」


 下も含めて、身体が硬直してしまい。このまま耐えろというのには辛い構図になってしまっている。


 まるで見えない警官に拳銃を向けられていて、両手を挙げている感じだ。辛いに決まっている。脂汗が出そうだ……いや、もう軽く出てしまっている。


 ここからは、時正の妄想が始まります。どうか、心をおしずめてお読み下さい。


 警官が、俺に向かって問答無用で拳銃を突きつける。周りの見物客ギャラリーでさえも俺を睨みつけていた。


「手を挙げろ! さもなくば撃つ!」


「はひいぃ!!」


 俺は瞬時に手を挙げる。流石の俺でも……というか、誰だって一、二メートルしか離れていない中で本物かもしれない拳銃を突きつけられたら立ち向かうなんて出来ないと思う。


「自分が何をしているか分かっているんだろうな? それは死罪にもあたりうる重大な行為だぞ」


「そんなバカな!? 僕からしたわけじゃないんです!」


「黙れ、手を戻すな!! 手をブチ抜くぞ!」


「ひぃぃぃ!?」


 威嚇射撃されてもう萎縮しまくっていた。


「残念だが、君の判決は死刑と決まってしまったようだ。世間の目は厳しいらしい」


 警官が部下らしいもう一人の警官から貰った紙を見てそう言った。


「そんな……」


 その場に愕然とする。ただし、身体は動かせない。


「さぁ、その者たちに罪はない。 こちらに引き渡してもらおうか」


 警官がゆっくりと近づいてくる。もちろん拳銃は俺の方に向けたままで。


 他の警官もゆっくりと近づいてきていたようで、俺にしがみつくように妹たちが暴れる。


「お兄」


「兄さん!」


 それが妹たちとの最後の交わした言葉となり、ゼロ距離で銃口をおでこにつけられた。


「罪状は、近親とのイチャイチャ行為を世間に発したことだ。 それで死刑なんてと思うだろうが、これが読者の意思なのでな……」


(終わった……)


 結局、俺にとってこんな状況は死をもたらすものであることだと身にしみて理解できた。


「ねぇ、そろそろ離れてもらってもいいですか?」


 おずおずと、へりくだった口調でそう切り出した。


「うん、分かったよ」


 案外、すんなり言うことを聞いてくれて俺から離れてくれる。


 これで、頭の中のことは起こるまいと内心安堵していた。


「まあ、あんまりお兄ちゃんを困らせるのもよくないしね。せっかくメイドさんなんだからさ。何かお願いしてみてよ」


「え!? まだやるの? もう嫌だよ~」


 ノリノリの七香に対して舞香は俺の方をチラチラ見ながら、恥ずかしそうにしている。逆に俺はよく嫌がりそうな舞香にメイド服を着せることができたのかが気になってきた。


「お、お願いかー」


 とっさに聞かれても、いいものは思いつかない。エロ方面は完全に封印しているし、となるとウェイトレスっぽいことしか思いつくものがない。


 ということでコーヒーを淹れてくれるようにお願いしてみた。


 七香は「かしこまり」と、敬礼ポーズをとって台所へと向かった。


 というよりもあれはメイドにはちょっと見えないだろう。見てて、笑みは溢れるけど。


 舞香は自分なりに今の格好を意識しているのか、軽くお辞儀をしていって出ていった。出て行く瞬間に少し口の端が上ずっていたのを俺は見逃さなかった。


(あれは、完全に得意分野だからなんだろうな)


 不敵な笑みの訳をそう分析した。


 その合間に、この状況を少し整理することにした。多分、薬のせい……だけではない、と思う。自分でもこれだけの事で“そう”だとは断言できない。


 この解決法は俺がなのかさえ、思ってしまう。


 しかし、俺には引っかかる部分というよりもそれをしてしまうと不安視できる部分がどうしても見えてしまい、後ろめたいのだ。


 それはー


「本当のあいつらの気持ちを操作したことになっちゃうことだよな……。それでいて……」


「お兄!」


「兄さん!」


 すごい勢いでドアを開ける妹たちに少し俺は身構えた。


 無論、また何か企んでいるのではないかと思ったからに他ならないが、今回は表情から見ても違うようだった。


 二人ともに少し、焦っている顔をしていた。どうしたらいいか、わからないがとりあえず俺を呼びにきた。そんな感じだ。


「どうした?」


「「あの……」」


 二人が口どもったところにが顔を見せた。


「と、とりあえずこちらへどうぞ」


 俺は腰を下ろしていた体を起こしてその男を自分の部屋へと案内した。

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