第二幕





『いくつもの季節が過ぎ、いく度のハロウィンを経験した』

『月日は流れていった』





「行ってきまーす!」

学校へと向かう男の子。

それを見守る三人の影。

毎朝それを見守っている三人の影。

いつも彼らは、ここ、地下から見送る。

日中は地上には出られないから。

彼らは妖怪だから。

「気をつけて行くんだぞ、少年!フハハハハハハハ!んが…。」

男の笑い声は、頭上から落ちてきた平手にかき消された。

「笑ってる場合じゃないでしょ、もう…。」

執事は二人に流し目を向けた。

「貴方はいつも文句ばかりだ、オールド・レディ。」

「文句って…小学生にもなって、『お前は妖怪の子だぞ』って通すのにも無理があるわよ。」

ドールが言っていることは決して不平ではない。

至極当然の意見だ。

だが、それは妖怪の考えからは逸脱していた。

「いいではないですか、滑稽で。自分が人間の子だって気づいてませんし。」

「周りの子には、『僕は妖怪の子だぞ』って言いふらしてるらしいし…このままだったら変な子に育つわよ。」

「それよりハクシャク。」

思い出したかのように、セバスチャンは無造作に置かれた棚を一瞥した。そしてその中から、あの紙を取り出す。

「いいんですか、ずっと少年なんて呼び方をして。一応あの子にも名前はあるんですよ。」

それはかつて、少年のカゴに添えられていた、

手紙。

「しかもこんなところに隠すなんて。いずればれますよ?」

「何て呼ぶべきか未だに悩んでいてな。そこに書いてある名前が価値のあるモノであれば、もっと厳かな場所に置くさ。」

あれから何年経っただろうか。彼はまだ、男の子の名前を決めていなかった。

「何年悩んでんのよ…。」

「考えるのは、私の一つの楽しみさ。」

大きく椅子に構えながら、ハクシャクはワインを一口飲んだ。

朝に飲む酒は格別なことだろう。

その姿を見て、ドールはさらに顔をしかめた。

「…毎年毎年、ハロウィンになったら魔界に戻って大量にワイン持ってきて、さ。昔みたいに、普通に人間襲って血ぃ飲んだら?ってかそんなんで我慢できる?」

相変わらずの笑みを浮かべ、ハクシャクは答える。

「襲う??おいおい、私は親だぞ。子どもにとって、模範的でなくてはな。」

それを聞いて、別の男が笑む。

「朝酒は模範的なんですか?」

ハクシャクの顔を覗き込むその顔は、いつも通りに爛れていた。

ゾンビなのだから当然ではあるが、ハクシャクにはそれが可笑しかった。

「ふ、セバスチャン、お前の方もいいのか、お・そ・わ・な・く・て。ゾンビだったらそれくらいするだろ?」

「わたくしは、模範的な執事ですので、」

再びセバスチャンは棚に向かう。

先程とは違う段から取り出したモノ。



それはボロボロになった



クマのぬいぐるみ。



誰がボロボロにしたのか?

それは半分人間、半分妖怪のゾンビである、

「これくらいで、我慢してますよ…?」

この男だ。

「何よそれ…!趣味ワル!!」

「貴方に言われたらおしまいですよ。」



趣味が悪いのは



この女も同じだ。

「あらぁ…?若い男の子の精気を貪って悪い?ごめんなさいねぇー、たまに連れ込んじゃって。」

「…ま、貴方のその行為がわたくしの生活に影響を及ぼさないからいいですけど。」

カチッ、ゴーン、ゴーン。

鐘は鳴った。

時計の針がⅧを指し、鐘は、鳴った。

まるでそれを待っていたかのように、ハクシャクはあくびをした。

「ふわ、ああぁ…。しかし、この時間はどうしても眠たくなる。妖怪と人間では、体のサイクルが違うからな。」

日中に動く人間。

暗闇に生きる妖怪。

後者にとって今の時間は床につきたくなる時間なのだ。

「私はもう、寝るとしよう。」

男は軽く伸びをすると、棺に横になり、自らその蓋を閉めた。

その行為が二人の眠気を誘った。

「…アタシたちも、寝るとしましょう。今はやることがなくて、ヒマだわ。」

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